【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

文字の大きさ
16 / 104
第一章

15話:パーティー②

しおりを挟む
 勤務が開始してからというもの、帰宅すれば疲弊であっという間に眠ってしまっていた久遠は、向こうが送ってくれていた近況を尋ねるLINEを溜めてしまっていた。しかも勤務開始日からとなると、5日は未読スルーしていることになる。

 相手は転職活動も応援してくれていた友人で、勤務開始日も把握していた。そのために、その日から返信がないとなると久遠に何かあったのかと案じるのは当然だ。

 けれど生憎、今はパーティーにいて通話ができる状況にない。宴会場を出て通話をしようにも、神永に一声かけないといけない。

 ひとまずは電話に出て、あとでかけ直すということを短く伝えるのがベストだろう。そう思い、応答ボタンをスワイプした。

「ごめん!今電話できなくて。心配かけちゃったよね?私は大丈夫だからまた連絡するから、」
 〈後ろ見てみ〉

 電話が繋がるやいなや伝えるべき事項を伝えてしまおうと、久遠は一方的に言葉を連ねたが、それは相手によって遮られた。

 いや、"後ろ" とはなんだ。

 どういうことか尋ねようとスマホを耳に押し当てるが、相手は〈後ろ後ろ〉と繰り返すだけだ。その声が、何やら二重に響いて聞こえたような気がして、久遠は後ろを振り向く。

 そして、目を見開いた。

「なんで?」

 例の元同期が、久遠のすぐそばに立っていた。

 相手は久遠を見下ろしてにやりと笑い、耳に当てていたスマホを下ろす。

「びびった?」

 そこにいるはずのない元同期――岡島凌也おかじま りょうやがこのパーティー会場にいることを脳が処理しきれず、なにかのバグかと思う。

 黒髪をラフに整えた凌也が、人懐っこい笑みを浮かべながらそのまま近づいてくる。愛嬌のある八重歯が覗き、いたずらっぽい目尻も、出会った頃と変わらない。

「つっても俺もびっくりしたけど。ずっと未読スルーされてる相手がパーティーにいんだもん」

 わざとらしく痛いところを突かれ、久遠は丸くしていた目を細める。

「そ、それはごめん!バタバタしてて、あんまSNSとか見れてなくて」

「わーってるよ。本気で怒ってないわ」

 申し訳なさそうな声色になった久遠の言葉に、凌也がカラッとした声色を被せてくる。

 凌也との出会いは、前の会社の入社よりも前に遡る。インターンで同じグループになり、その時から話す機会が多かった。だから、お互い内定がもらえた時は喜びあったものだ。
 入社後は異なる部署の配属にはなったものの、その後も関わりは保ち続けていて、同期飲みはよくしたものだ。
 そもそも前の会社は年度の採用人数が少なかったため、空気感の合う人と合わない人で分けてしまえばあっという間に交流する人の範囲は狭まり、凌也はそんな中で繋がりが残った数少ない人だった。
 久遠がセクハラ被害に遭ったことをやっとのことで開示した相手も凌也で、被害の訴えを手助けしてくれたのも、セクハラを有耶無耶にしようとする会社側に久遠以上に憤ってくれたのも、『ここに無理に残ることない』と転職のサポートをしてくれたのも凌也だ。
 彼は下にきょうだいがいるためか面倒見がよく、困っている人がいれば放っておけない人柄のようだった。当時弱っていた久遠はついその性質に甘えて支えてもらってしまっていたのに、ここ数日未読スルーをしていたというのは、大変な恩知らずである。

「こんなとこで会うなんてびっくりした……怖い」

「人を化け物みたいに言うな。奇跡の再会に喜べよ」

 嬉しいことは、嬉しい。気のおける相手とこうして話せるのも嬉しい。

 ただ、そう、私は上司を見失ってはいけないんだ。

「転職早々パーティー参加者にされてんの?大変だな。慣れそうか?仕事」

 久遠のワンピースを一瞥して尋ねてくる。

 凌也のその軽やかな導入は、明らかに長話になる方針へと舵を切りはじめている気がして、少し焦る。

「うん。慣れないけど頑張るよ。凌也にたくさん手伝ってもらったし、何とかやる予定」

 慣れないというのは、業務内容のせいというより因縁の相手との再会のせいなのだが。しかし、そこを話している時間はない。

 神永がどこへ行ったか視線で追うために、食事が並んだ方向を見ようとした。

 ――と、驚いて危うくスマホを落としてしまうところだった。

 てっきり離れたところへ行ってしまったと思っていた神永はこちらを向いていて、ばっちり目が合ったのだ。距離は3mもない。

 神永は久遠と凌也の間を窺うように、一歩、二歩とこちらへ踏み出し、久遠のそばに立った。

 神永は、凌也を見てはいるものの、佐伯の時と違って『お知り合い?』と口に出して聞いてくることはなかった。

 久遠は、おずおずと凌也を手で差す。

「あ、彼は前の会社の同期です。すみません、なんか……」

 なにがすみませんなのか、自分でも不明瞭だなと思いつつそう言う。

 神永の反応も見ないまま、今度は凌也を見る。

「こちら、今の会社でお世話になってる神永、さん。チーム長の」

 社外の人に上司を紹介する時は名字呼び捨てという社会人マナーを、この状況にも適用すべきかどうか迷いが出た。今回の場合は友人に元恋人でもある人を紹介しているというプライベートとの重複もあるため、「神永」と呼び捨てにしてしまうのはさすがに違和感があり、さんを付ける。

 神永の姿をとらえた凌也の目が、僅かだが見開かれたのが久遠には見えた。これは、彼を初めて目にした大抵の人がする表情として、懐かしくはあるが久遠としても見慣れている。

 交際していた時、初めて家へ挨拶に来た彼を見た久遠の両親も同じく目を見開いていたのを思い出す。彼がわざわざ持ってきてくれた手土産のロールケーキを、神永の顔を呆然と見ていた両親はなかなか受け取っていなかった。

 神永の外見は、見ていると、自分がいる現実世界に、突然3Dグラフィックの架空の人物が合成されたかのような錯覚に陥るのだ。神永が持つ、デザインに狂いのない美しい顔や絹肌は、生身の人間らしさを欠損しているまである。それほど神永という男は美しかった。

「あ、『北辰医薬ほくしんいやく』の岡島と申します。くお……小島がお世話になってます」

 2秒間ほどのメデューサの石化から解放された凌也が、笑みを取り戻して神永に手を差し出した。神永も一歩踏み出して握手に応じる。

「神永と申します。こちらこそお世話になっています」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

処理中です...