【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

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第一章

14話:パーティー①

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 ――場所はウェスティンホテル横浜。時刻は20時28分。


 あの後、佐伯の素早い調節を経て、丁寧なお礼もそこそこに、神永と久遠はスーツ店を出て会場に急いだ。

 大通りに出てからは、神永がいつの間にやらアプリで手配していたらしいタクシーに乗り込み、見事パーティー開始に間に合ったのだった。

 タクシーの中では会話はなく、久遠は窓から見えるみなとみらいの景色を見てやり過ごしていた。

 地元とはいえ、夜景は美しかった。けれどそれ以上に、佐伯が見立てた新しいスーツを着用した隣の神永が持つ引力が半端ではなくて、久遠の目が油断すると神永の方に引かれてしまいそうになるのを、慌てて窓の外へ意識を集中させることで阻止していた。


 煌びやかな装飾が施された会場で、スタッフから手渡されたウェルカムドリンクのシャンパンを手に、久遠は心ここに在らずといった表情であたりを眺めている。

 望まぬ退職からなんとか転職先が見つかったと思えば、勤務数日後になぜかパーティーにいる。しかも隣には、因縁の相手とも言うべき元恋人がいる。こんなこと、1週間前の自分は予想だにしていなかった。 

 ここ数ヶ月の出来事は、ひとつのストーリーラインであることが不思議なくらいだ。どこかで切られて適当に繋げられた、ちぐはぐな時系列の中にいる感覚に陥る。

 隣の神永は早速他の会社の人と挨拶を交わしていて、久遠はわけも分からぬままそれに続く、ということを繰り返していた。

 特別なことはしなくて良いらしく、会場に入る前に、神永の方から「適当にそばについていてくれればいいから。はぐれないでね」とだけ伝えられていた。

 パーティーの形式は立食で、人影が常に蠢いているため、たしかに油断をすればはぐれてしまいそうだった。

 もしも、今みたいに緊張でお腹が空かないということになっていなくて、並べられた料理に魅了されていたら、危なかったかもしれない。

 ……いや、とはいえ、彼の姿はきっと見失いようがないのだけれど。

 やや光沢のあるネイビースーツをまとった神永の姿は、想像通り、いや、想像以上に会場の光を浴びてもはや神々しいまであった。

 会場は外気温と違って暖かく設定されており、雨で冷えた体も温まってきた。カフェの外で神永がかけてくれたスーツのジャケットを脱ぎ、腕にかける。神永の私物を我が物顔で持ち続けることには後ろめたさがあったが、神永は既に新しいスーツを着ているため、今返しても荷物になる。せめてシワはつかないよう、丁寧に持った。

 慣れない社交の場で、特にやるべきことがないというのはかなり居心地が悪い。

 手持ち無沙汰なこともあり頻繁に口を付けていたウェルカムドリンクはあっという間に空っぽになり、スタッフによって丁寧に回収されてしまった。

 この場に存在すべき理由、価値があって、忙しそうに且つスマートに動いているパーティースタッフたちが羨ましい。

「なにか食べたい?こっちもひとまず落ち着いたから、ご飯も見てみる?」

 落ち着きがなくキョロキョロしてしまっていたのを、いつから見られていたのか。
 今の今まで他会社の人と挨拶をしていたはずの神永が、少し身をかがめて話しかけてくれた。賑やかな場で声を届けるためだと頭では分かっていても、その姿勢に胸はどきんと鳴り、血が顔に集中するのが分かる。

「い、いえ大丈夫です」

 反射的に否定してしまってから後悔する。

 たしかに緊張でお腹は空かないし、それに、仕事で来ているのに食い意地を張っていると思われたくないために料理に手をつけられないという事情もある。
 しかしながら、並べられた料理を見に行くことは、2人がまた気まずい時間を過ごす展開になることから脱却するための好都合な手段だったはずだ。
 神永からの提案を遠慮して否定するということが癖になっていて、よくない。

「そっか。……でも俺少しお腹すいたから、俺が見てもいいかな。付き合ってもらってもいい?」

 そう聞いてきた神永の顔は、これまでと変わらないようにも、少し微笑みかけてくれているようにも見えた。

 そしておそらく、神永が今言ったことは本心そのままではないだろう。空腹自体は真実かもしれないが、反射的に否定してしまって後悔しているだろう久遠の気持ちを汲んで、自分に付き合わせるという形の提案に変えてもう一度検討のチャンスをくれたのだと思う。これは、彼の優しさだ。

 ――付き合っていた頃も、ずっとこういう優しさが好きだった。 

 並んで歩いている時、久遠が気になるお店を見かけて視線をやっていると、彼の方から『気になる?寄ってみようか』と聞いてくれて、久遠が反射的に『いいよいいよ』と断ると、『俺が見てみたいから。行こ』と微笑んで久遠の手を握り、導いてくれた。

 久遠が神永の目を見てこくこくと頷くと、神永は長い脚を料理が並べられたエリアに向けた。久遠もそれに続く。

 すると途中で、ハンドバッグの中のスマホが振動するのを感じた。

 はじめはLINEの着信かと思いスルーしようとしたが、どうやら継続的に震えているので電話の着信だと分かる。

 電話がかかってくることなど滅多にない。不思議に思ってスマホを取り出すと、画面には見慣れた名前が表示されていた。相手は、勤め先の同期だった。

 ――でもなんで急に?

 疑問が湧くと同時に、あ。と一つ思い当たる。
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