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第一章
33話:展示会①
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展示会当日。
開場30分前、人影のまだまばらな展示ホールには、機材の調整音とアナウンスのリハーサルが響いていた。
ブリッジノートのブースでは、久遠、谷口、溝口、そしてチーム長の神永の4人が、最終確認を進めていた。
順調に見えた──その瞬間までは。
「……あれ?」
プロジェクターとスクリーンとの角度を調整し終え、自身の鞄をまさぐっていた谷口さんが、ふと固まった。
こちらを振り向く顔が青ざめている。
「どうしたー?」
溝口が声をかけると、谷口は震える声で言った。
「すみません……動画、あれ……デスクの引き出しに置いたままです……!」
時が止まったような沈黙。
動画──ブリッジノートを試験導入している病院で撮影された、数名の子どもたちの使用感インタビュー。
顔と声が映っているため、個人情報保護の観点からクラウドに保存することはできず、ロックをかけてUSBにだけ保存した重要データだ。
久遠もあの動画の編集には少しだけ携わらせてもらったので、内容を知っている。あれがなければ、今日の展示の目玉が成立しないのだろうということも、分かる。
「あちゃちゃ」
溝口さんが小さく息を呑む。
谷口さんは完全に動揺して、肩を落としてしまっていた。
「すみません、本当にすみません……!」
状況を理解した神永が、一拍置いて言った。
「俺が取ってくるよ。タクシー使えば……往復20分で戻れると思う。開場には間に合うから」
谷口を責める色など少しもない、静かで冷静な声だったけれど、どこか無理を押し込んだ響きがあった。
それを見ていると、勝手に口が動いた。
「わ、私が行きます!」
3人の視線が一斉に久遠に集まり、やっぱり少し怯む。けれど続けた。
「みなさんは、来場者対応があります。私は一番知識が浅いので……ここに残っても、みなさんほどお役に立てません。物を取りに行くくらいなら、私が適任だと思います」
一瞬沈黙が落ちた。
神永は口を開きかけ──しかし、そこで言葉を飲み込んだように顎に手を当てた。
「でも……」
谷口さんが言う。その声音には申し訳なさが滲んでいた。でも、迷っている時間はもうない。
私は自分の鼓動を抑えるように深呼吸して、はっきり言った。
谷口さんは申し訳なさで顔をゆがめ、溝口さんは「大丈夫?」と心配そうな目で聞いてくれる。
そして神永は、何か言いたげに久遠を見つめていた。けれど、ここで足踏みしている暇はない。
「谷口さんのデスクにあるんですよね?絶対間に合わせます。任せてください!」
押し切るように、自分でも驚くほど強く言い切った。それと同時に走り出す。
人影はまばらとは言え、大きな荷物を台車で運んでいる人も何人かいるので、ぶつからないようにしなければ。
駆け出したその瞬間──
「久遠!!」
会場の空気を震わせる声だった。
息が、胸の奥で固まる。
けれど、久遠を呼び止めたその声の主のことなんて、なんで急に名前で呼んだのかなんて、そんなことを今は考えていられない。
振り返らず、足も止めないまま、久遠は展示ホールの外へと駆け出した。
『久遠!』
自分を呼んだその声が頭の中にこだましているけれど、車道を見てタクシーを捕まえられないかと目をこらすことでなんとか注意を分散する。
少し走ったところでタクシー乗車に成功し、久遠はオフィスへと向かった。
展示会当日。
開場30分前、人影のまだまばらな展示ホールには、機材の調整音とアナウンスのリハーサルが響いていた。
ブリッジノートのブースでは、久遠、谷口、溝口、そしてチーム長の神永の4人が、最終確認を進めていた。
順調に見えた──その瞬間までは。
「……あれ?」
プロジェクターとスクリーンとの角度を調整し終え、自身の鞄をまさぐっていた谷口さんが、ふと固まった。
こちらを振り向く顔が青ざめている。
「どうしたー?」
溝口が声をかけると、谷口は震える声で言った。
「すみません……動画、あれ……デスクの引き出しに置いたままです……!」
時が止まったような沈黙。
動画──ブリッジノートを試験導入している病院で撮影された、数名の子どもたちの使用感インタビュー。
顔と声が映っているため、個人情報保護の観点からクラウドに保存することはできず、ロックをかけてUSBにだけ保存した重要データだ。
久遠もあの動画の編集には少しだけ携わらせてもらったので、内容を知っている。あれがなければ、今日の展示の目玉が成立しないのだろうということも、分かる。
「あちゃちゃ」
溝口さんが小さく息を呑む。
谷口さんは完全に動揺して、肩を落としてしまっていた。
「すみません、本当にすみません……!」
状況を理解した神永が、一拍置いて言った。
「俺が取ってくるよ。タクシー使えば……往復20分で戻れると思う。開場には間に合うから」
谷口を責める色など少しもない、静かで冷静な声だったけれど、どこか無理を押し込んだ響きがあった。
それを見ていると、勝手に口が動いた。
「わ、私が行きます!」
3人の視線が一斉に久遠に集まり、やっぱり少し怯む。けれど続けた。
「みなさんは、来場者対応があります。私は一番知識が浅いので……ここに残っても、みなさんほどお役に立てません。物を取りに行くくらいなら、私が適任だと思います」
一瞬沈黙が落ちた。
神永は口を開きかけ──しかし、そこで言葉を飲み込んだように顎に手を当てた。
「でも……」
谷口さんが言う。その声音には申し訳なさが滲んでいた。でも、迷っている時間はもうない。
私は自分の鼓動を抑えるように深呼吸して、はっきり言った。
谷口さんは申し訳なさで顔をゆがめ、溝口さんは「大丈夫?」と心配そうな目で聞いてくれる。
そして神永は、何か言いたげに久遠を見つめていた。けれど、ここで足踏みしている暇はない。
「谷口さんのデスクにあるんですよね?絶対間に合わせます。任せてください!」
押し切るように、自分でも驚くほど強く言い切った。それと同時に走り出す。
人影はまばらとは言え、大きな荷物を台車で運んでいる人も何人かいるので、ぶつからないようにしなければ。
駆け出したその瞬間──
「久遠!!」
会場の空気を震わせる声だった。
息が、胸の奥で固まる。
けれど、久遠を呼び止めたその声の主のことなんて、なんで急に名前で呼んだのかなんて、そんなことを今は考えていられない。
振り返らず、足も止めないまま、久遠は展示ホールの外へと駆け出した。
『久遠!』
自分を呼んだその声が頭の中にこだましているけれど、車道を見てタクシーを捕まえられないかと目をこらすことでなんとか注意を分散する。
少し走ったところでタクシー乗車に成功し、久遠はオフィスへと向かった。
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