97 / 124
98
しおりを挟む凪はある場所に来ていた。それは、宗介の従兄弟であるキャプテンが参加するバスケットボールの大会だった。
宗介と共に到着した会場は、すでに満員だった。会場内には熱気がこもり、観客たちの高揚した声がこだまする。席に案内されたとき、凪はその距離に少し驚いた。キャプテンが手配してくれたのか、コートからかなり近い関係者席だった。
チームメンバーのアップが終わり、ベンチに選手が並び始めても、そこには馨の姿はなかった。やがて試合開始のブザーが鳴り、ボールが宙を舞う。
(本当に、いないんだ。)
頭ではわかっていた。馨はもうアメリカへ行くと決めたのだから、ここにいないのは当然だ。でも、目の前の現実として突きつけられると、想像していた以上に胸が締めつけられた。隣で歓声が上がっても、それが遠くに感じる。
「凪」
横から名前を呼ばれ、顔を向けると、宗介がこちらを見ていた。彼の指先がそっと凪の頬に触れ、少しだけ撫でるように動く。
「なんか悲しそうな顔してんな」
冗談めいた声なのに、宗介の表情はどこか曇っていた。心配してくれているのが、ひしひしと伝わってくる。
「……してないよ」
凪はそう答えながら、無理に笑みを作った。でも、宗介の手のぬくもりが優しすぎて、心のどこかが軋んだ。
試合は一進一退の接戦で、コート上の選手たちは激しく動き、応援の声もどんどん大きくなっていく。けれど、凪の心は不思議なほど落ち着かないままだった。視線はコートを向いていても、思考は別のところをさまよっていた。
そんなとき、背後から女性たちの会話が聞こえてきた。
「やっぱり馨くんいないと、チームの動きがなんか噛み合ってない感じするよね」
「馨、急にやめちゃったし。理由は詳しく知らないけど、なんか最近調子崩してたって聞いたよ。あんなに安定してたのに、急にどうしちゃったんだろうね」
凪は思わず耳を傾けてしまった。自分とはまったく関係のない第三者の言葉。そのはずなのに、胸の奥にじわじわと沁み込んでくる。
「確かに、そのちょっと前まではほんとに神がかってた。試合もキレキレで、表情もめちゃくちゃ良かったし。あのときの馨、すごく輝いてたよね。見てて本当に惚れ直すっていうか」
「推してて良かったって、あのときは思ったなあ」
無邪気なファンの言葉。そのなかに悪意はない。むしろ純粋な好意が込められているのに、なぜだろう。聞いているうちに、胸のどこかがじくじくと痛んでくる。
なぜ調子が良かったのか。普段の自分ならただ単に身体のコンディションや普段の生活が影響したと考えるのが普通なのに、馨の調子が悪かった理由が別にあると考えてしまった。
無意識に、手元で握っていたペットボトルがへこむほど強く握っていたことに気づき、凪は慌てて力を緩めた。
試合を観に来ているというのに、肝心の内容がまったく頭に入ってこない。点差がどうとか、どの選手が決めたとか、なにも覚えていなかったことに罪悪感が湧く。
気がつくと、試合は終了していた。コートには拍手と歓声が飛び交い、勝者と敗者が握手を交わしている。宗介が立ち上がって肩を軽く叩いてきた。
「ちょっと控え室よっていいか?あいつに声かけてくる。」
あいつとは宗介の従兄弟を指していることはすぐにわかり凪は頷いた。
「……うん」
答えた声は少し掠れていた。
756
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる