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しおりを挟む琥珀が慶也の記憶を失ってから、早いもので一か月が経った。しかし、慶也の記憶が戻る気配は全くなかった。以前は慶也にべったりだった琥珀も、学校に戻った途端、慶也を避けるような態度を取るようになり、周囲の生徒たちも最初は戸惑っていた。
だが、次第に琥珀が慶也の記憶を失っているという事実が知れ渡り、今ではそのことに触れる人はほとんどいなくなっていた。
昼休み、教室で琥珀の机の周りには数人の女友達が集まり、一緒に昼食を取っていた。談笑が弾む中、ふと友人の一人が話題を振る。
「そういえば、こはちゃん、最近全然恋バナしなくなったよね?」
その言葉に琥珀は小首を傾げる。
「恋バナ?俺、そんなのしてたっけ?うーん、確かにしてたような気もするけど……誰のこと好きって言ってたけな?芸能人とか??」
琥珀が軽い調子で尋ねると、女友達たちは気まずそうに顔を見合わせ、誰も答えようとしなかった。その様子を見た琥珀は不満げに唇を尖らせる。
「何その反応。気になるじゃん!」
その態度に気を使った友人が慌ててフォローする。
「いやいや、毎日のようにしてたよ?こはちゃんの恋バナ、可愛くて聞いてるこっちが癒されてたし。最近は誰か気になる人とかいないの?」
「えー、俺ってそんな惚れっぽかった?」
「惚れっぽいっていうより、一途すぎたって感じ?むしろメンヘラ気質っていうか……」
「メンヘラ!?俺そんなに重かった?
最悪、無くしたのはあいつの記憶だけだと思ってたのに。」
琥珀は額を手で抑えて顰め面を浮かべた。友人たちは慌てた様子で話題を切り替えようとする。
「いやいや、冗談だから気にしないで!ほら、こはちゃん、ソースついてるよ」
友人の一人が口元についたサンドイッチのソースをティッシュで拭う。それに「ありがと」と笑顔で応えつつ、また大口でサンドイッチを頬張る琥珀。友人たちはそんな彼を微笑ましく見つめ、小さな小花が舞うような和やかな雰囲気が漂った。
「それにしても、最近のこはちゃんって、なんか急に男子たちから人気出たよね。慶也くんと距離を置き始めてから、急にみんな寄ってくる感じ?」
「私たちのこはちゃん、持ってかないでほしいよね~!」
友人たちは声を揃えて「ねー!」と笑い合うが、その言葉に琥珀は憤然とした表情を浮かべる。
「あれは迷惑!この前も『綺麗』だとか『美人で可愛い』とか、わけの分からないことを言ってきた奴がいてさ。挙句の果てに『付き合いたい』なんて言ってくるから、思わずビンタしてやった!」
琥珀がその時の出来事を再現するようにビンタの仕草をすると、友人たちは苦笑いを浮かべた。
「あいつらは女子と付き合えないからって俺で妥協しようとしてるんだよ!」
「別に女の子と付き合えないからこはちゃんで妥協しようなんて思わないでしょ?そんなんだったらこはちゃんに告白しないで女の子に告白してるよ」
「はぁ?!」
突然の言葉に驚き、勢いよく立ち上がる琥珀。そんな彼に友人たちは冷静に話しかける。
「いや、普通そうでしょ?同性でも付き合いたいって思うぐらい、こはちゃんが魅力的なんだってば」
友人の一人が呆れたように告げ、おやつのチョコレートを口に放り込む。
「ほら、こはちゃん。座って落ち着いて」
そう言いながら、また別の友人がチョコレートを琥珀の口元に差し出す。琥珀はしぶしぶ椅子に座り直し、差し出されたチョコを口に運んだ。
「でも、俺って男なのに……」
しょんぼりする琥珀に、友人たちは優しく笑いかける。
「こはちゃんって、懐くと本当に子猫みたいで可愛いんだよ。だから、告白されるのも分かる気がする」
「は?俺が子猫?ライオンの間違いだろ!」
冗談めかして言い返す琥珀の頭上から、冷たい声が降ってきた。
「は??告白?」
慌てて顔を上げると、そこには冷たい表情の慶也が立っていた。
「琥珀、告白されたのか?」
慶也の問いに琥珀は一瞬言葉を詰まらせた。しかし、女にモテる慶也とは対照的に、男ばかりにモテることを知られるのは男としてのプライドが許さない。慌ててその場を取り繕い教室からでた。
慶也が追いかけてくる様子がないことを確認し、琥珀はホッと一息つく。だが油断した瞬間、廊下の正面から何かが勢いよくぶつかってきた。琥珀は硬い何かに鼻をぶつけ、思わず顔を顰める。
一体何にぶつかったか確認しようとすると、目の前の視界に入ったのはストライプ柄のネクタイの結び目だ。
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