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本編
逆転劇
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――四半刻もしないうちに、砲撃が止んだ。
それに気付き始めた騎士たちが、急激に攻勢を強める。
「今だ! 押し返せ!」
なにが起きているかは判然としないが、この機会を逃す無能はいない。セディウスはネウクレアの身を案じながらも、目の前の難局を乗り切るべく剣を振い、ヴァイド兵を制圧していく。
「軽度の負傷兵はこちらへ! 重篤者は天幕へ搬送しなさい!」
「了解!」
「おい、魔力回復薬をこっちに飲ませろ! 止血剤はそこのヤツに!」
――後方には、支援部隊とリュディードの姿があった。
ようやく防壁へ近付けたのだ。声高にやり取りをしながら怪我の応急処置や、魔力枯渇した者への魔力回復薬の供給などを始めている。
回復薬をがぶ飲みした魔導部隊の騎士が、よろめきながらも立ち上がって再び攻撃を放とうとする。
それをリュディードが髪を振り乱しながら羽交い絞めにして「死ぬ気ですか! 大人しくしていなさい!」と、怒鳴りながら止めた。
その代わりと言わんばかりに支援部隊の隊員が、近付いてくる敵兵を弓で巧みに仕留める。攻撃系の魔導術式を扱えず、前線に立つことがない者たちでも、騎士団に属する者はえてして血気盛んかつ戦意旺盛である。
爆発に巻き込まれても生き延び、鉄片と血だらけの身体になりながら猛然と敵に襲い掛かる、ファイスのような戦狂いの側面を持つ男に比べたら、一般市民並みに可愛いものだが。
「――撤退! 撤退だ!」
ヴァイド鈍りの共通語の絶叫が、聞こえた。
たった一人が放ったその言葉に敵兵は総崩れになり、逃げ惑い始めた。我先にと仲間を押し退けながら防壁の穴へと殺到する彼らの狂乱ぶりは、騎士たちがあ然とするほどだった。
頼みの砲撃が止んだことに、ようやく気付いたのだろう。数の差をものともしない騎士団の猛攻に晒され続けた末の、逆転劇。もはや騎士団を磨り潰すだけの気力は残っていないと見えた。
「よし! 一気に追い出すぞ! 尻に火を点けてやれ!」
まだ興奮状態にあるのか、目を背けたくなるような凄惨な姿になっても闘い続けていたファイスが、追い打ちをかけようと特大の魔導術式を発動させた。
「ファイス、そろそろ休め!」
「ぐうっ!」
焦りながら彼に駆け寄り、締め落とすことで術式発動を止めさせた。くたりと力を失ったファイスの身体を腕に抱えて、セディウスは深々と息を吐いた。
――危なかった。
あのまま発動していたら、おそらく魔力が尽きて昏倒していた。負傷し、体力が消耗した状態での魔力枯渇など、身体にどんな影響があるか……。出血も酷いというのによく今まで動けたものだ。
そんな酷い状態で救護班に拾われたら、ただでさえ神経質で小言の多いリュディードがなんと言うことか。近くにいて止めなかったセディウスも含めて、耳の痛くなるような小言を、山と言われることになるだろう。
いや、今の状態でさえも酷い。ファイスへの集中砲火は確定しているか。
「ファイス!」
青ざめた顔で、同僚の名を叫びながら駆け寄って来たリュディードに彼を託した。血で汚れるのも厭わずに、彼はファイスをセディウスの腕から抱き取り、傷の具合を確かめ始める。
「任せたぞ」
「了解です。……こんな無茶をして! 出血が酷い……。救護班! 担架を!」
ファイスは、リュディードに任せておけば問題はない。
目を覚ましたときに、戦闘の興奮が残っていて逃亡兵狩りに飛び出そうとしたとしても、羽交い絞めにされて怒鳴られれば正気を取り戻すだろう。
セディウスは再び前を見据えた。
「平原に逃げた敵の追撃は禁止する! 駐屯地内への侵入者は確実に討ち取れ! 皇国内に逃がしてはならん!」
「了解!」と、殺気立った低い声がいくつも返され、駐屯地内へと逃げようとしているヴァイド兵を容赦なく背後から討ち取っていく。
国境を超えた時点で、命の保証などない。禍根は徹底的に潰さねばならないのだ。
――戦場は急速にその熱を失っていった。
そうして、セディウスがようやくネウクレアの安否を確認する動きを取れるようになったのは、立っているのが味方だけになったころだった。
それに気付き始めた騎士たちが、急激に攻勢を強める。
「今だ! 押し返せ!」
なにが起きているかは判然としないが、この機会を逃す無能はいない。セディウスはネウクレアの身を案じながらも、目の前の難局を乗り切るべく剣を振い、ヴァイド兵を制圧していく。
「軽度の負傷兵はこちらへ! 重篤者は天幕へ搬送しなさい!」
「了解!」
「おい、魔力回復薬をこっちに飲ませろ! 止血剤はそこのヤツに!」
――後方には、支援部隊とリュディードの姿があった。
ようやく防壁へ近付けたのだ。声高にやり取りをしながら怪我の応急処置や、魔力枯渇した者への魔力回復薬の供給などを始めている。
回復薬をがぶ飲みした魔導部隊の騎士が、よろめきながらも立ち上がって再び攻撃を放とうとする。
それをリュディードが髪を振り乱しながら羽交い絞めにして「死ぬ気ですか! 大人しくしていなさい!」と、怒鳴りながら止めた。
その代わりと言わんばかりに支援部隊の隊員が、近付いてくる敵兵を弓で巧みに仕留める。攻撃系の魔導術式を扱えず、前線に立つことがない者たちでも、騎士団に属する者はえてして血気盛んかつ戦意旺盛である。
爆発に巻き込まれても生き延び、鉄片と血だらけの身体になりながら猛然と敵に襲い掛かる、ファイスのような戦狂いの側面を持つ男に比べたら、一般市民並みに可愛いものだが。
「――撤退! 撤退だ!」
ヴァイド鈍りの共通語の絶叫が、聞こえた。
たった一人が放ったその言葉に敵兵は総崩れになり、逃げ惑い始めた。我先にと仲間を押し退けながら防壁の穴へと殺到する彼らの狂乱ぶりは、騎士たちがあ然とするほどだった。
頼みの砲撃が止んだことに、ようやく気付いたのだろう。数の差をものともしない騎士団の猛攻に晒され続けた末の、逆転劇。もはや騎士団を磨り潰すだけの気力は残っていないと見えた。
「よし! 一気に追い出すぞ! 尻に火を点けてやれ!」
まだ興奮状態にあるのか、目を背けたくなるような凄惨な姿になっても闘い続けていたファイスが、追い打ちをかけようと特大の魔導術式を発動させた。
「ファイス、そろそろ休め!」
「ぐうっ!」
焦りながら彼に駆け寄り、締め落とすことで術式発動を止めさせた。くたりと力を失ったファイスの身体を腕に抱えて、セディウスは深々と息を吐いた。
――危なかった。
あのまま発動していたら、おそらく魔力が尽きて昏倒していた。負傷し、体力が消耗した状態での魔力枯渇など、身体にどんな影響があるか……。出血も酷いというのによく今まで動けたものだ。
そんな酷い状態で救護班に拾われたら、ただでさえ神経質で小言の多いリュディードがなんと言うことか。近くにいて止めなかったセディウスも含めて、耳の痛くなるような小言を、山と言われることになるだろう。
いや、今の状態でさえも酷い。ファイスへの集中砲火は確定しているか。
「ファイス!」
青ざめた顔で、同僚の名を叫びながら駆け寄って来たリュディードに彼を託した。血で汚れるのも厭わずに、彼はファイスをセディウスの腕から抱き取り、傷の具合を確かめ始める。
「任せたぞ」
「了解です。……こんな無茶をして! 出血が酷い……。救護班! 担架を!」
ファイスは、リュディードに任せておけば問題はない。
目を覚ましたときに、戦闘の興奮が残っていて逃亡兵狩りに飛び出そうとしたとしても、羽交い絞めにされて怒鳴られれば正気を取り戻すだろう。
セディウスは再び前を見据えた。
「平原に逃げた敵の追撃は禁止する! 駐屯地内への侵入者は確実に討ち取れ! 皇国内に逃がしてはならん!」
「了解!」と、殺気立った低い声がいくつも返され、駐屯地内へと逃げようとしているヴァイド兵を容赦なく背後から討ち取っていく。
国境を超えた時点で、命の保証などない。禍根は徹底的に潰さねばならないのだ。
――戦場は急速にその熱を失っていった。
そうして、セディウスがようやくネウクレアの安否を確認する動きを取れるようになったのは、立っているのが味方だけになったころだった。
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