【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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本編 

焦土に佇む者

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 ――彼は、無事だろうか。


 駐屯地内の残存敵兵の捜索は、部下たちに任せておけばいい。近くにいた騎士数名を従えて、平原へ飛び出していったネウクレアの後を追うことにした。

 周囲に敵の気配はない。砲撃隊が布陣していたと思われる辺りに、もうもうと黒煙が上がっているのが見える。

「……これは、凄まじいな」

「よく砲弾にやられなかったものですな」

「殲滅すると言っていたが、本当に成し遂げたか」


 ――彼の軌跡を追うのは簡単だった。


 炸裂した砲弾によって抉れたのが明白な、大きな穴が点々とあり、無数の鉄片が散らばっていた。魔導防壁と遠距離攻撃で処理したのだろうか。

 砲弾の爆発に吹き飛ばされずに平原を駆け抜けて、敵部隊に真っ向から突撃したのだ。魔導に長けた騎士団内でも、これと同じことができる者はおそらくいない。

 ……恐ろしい使い手だ。

 黒煙の上がる場所へ近付いていくと、たった独りだけ立つ人影があった。

 草を舐める残り火の熱気で黒鋼の全身鎧が揺らめき、春の穏やかな陽光を受けて、鈍い青色に輝いていた。

 まるで、奇怪な幻を見ているようだった。

「ネウクレア!」

 草原をかき分けながら焦げた大地へ踏み入り、ゆっくりと歩み寄る。

 草が根こそぎ焼かれて開けたそこは、煙が漂う中に破壊されたいくつもの大砲と、なにか恐ろしい力で叩き伏せられ事切れたとわかる兵士の無残な屍が垣間見えた。

 たった独りの騎士が成したとは思えないほどに、凄惨な戦いの跡。

「……怪我はないか」

 身の内を伝う戦慄を声に出すことなく、セディウスは平静を装い彼に問う。

「無傷。今後の活動に支障は、ない……」


 そう答えた直後、ネウクレアの体はぐらりと傾いた。


「――なっ! ネウクレア!」

 頭部を地面へと打ち付ける前に、寸でのところで受け止める。鎧と激しくかち合い、鈍く腕が痛んだがそれどころではない。

「がはっ、ぐっ、うっ、ああっ……」

「これは……、魔力枯渇か!」


 ――魔力量が膨大で魔導を多用する者であればなおのこと、枯渇したときの反動は大きい。吐き気、めまい、全身の痛みや倦怠感……身体機能の不全にすら陥ることもある。

 セディウス自身も枯渇を経験したことがあり、その尋常でない苦しみは嫌と言うほど知っている。

 ――体を震わせ、呻くネウクレアは重度の魔力枯渇だろう。外傷は確かに見当たらないが、これだけの暴れ振りを見せるほどの戦いであったのなら、魔力が枯渇したとしても不思議はない。


 早急に戻り、回復薬を飲ませなければ。セディウスは、ネウクレアの体を肩に担ぎ上げた。

「んっ、嫌に軽いな」

 予想外の軽さに均衡を崩しそうになり、踏み留まった。

 厚みのある厳めしい鎧をまとっているというのに、それに見合わない軽さだった。彼の体はどうなっているのか。しかし、今はそれを気にしている場合ではない。

 しっかりと担ぎ直し「戻るぞ!」と、部下たちに声を掛けて駐屯地へとひた走る。

「ぐっ、あ、はぁっ、ううっ……」

「耐えろ、すぐに処置をするからな」

「う、うぐっ、あぁ……っ」

 肩からずり落ちそうになる体をしっかりと腕で抱えながら、救護用の天幕へと駆け込む。回復薬を飲ませるために兜を脱がせようとしたが、小さく首を振って拒絶された。

「極力、晒すなと指示、され……うっ、ごほっ……!」

「なにを言っている、苦しいだろう! 早く兜を脱げ!」

「うぁ……ぐっ、う……!」

 頑なに兜を脱ぎたがらないどころか、小さく体を丸めて耐える仕草をする。

 そうまでして素顔を見られたくないのか。

 一体、どういうことだ。鎧越しに弱々しい体の震えが伝わってくる。早く苦しみから解放してやりたいというのに!

 強引に外すことも考えたが、騎士団の支給している鎧とはかなり違う――それでも騎士団の意匠は入っている――鎧の兜は、留め金はあれど指を掛けても外れない。

 セディウスがさらに言い募ろうとすると、「団長」と、横合いから聞こえた声がそれを阻んだ。

 振り仰ぐと、副団長リュディードの姿があった。その顔には疲労が滲み、団服は血で汚れていた。

「ここは人目が多いですから、無理もありません。別の天幕で説得してあげてください」

 極めて穏やかで、冷静な口調で言いながら、彼は回復薬を差し出してきた。

「……そうだな。その方がいいだろう。私の天幕へ運ぶ」

 高ぶっていた感情が萎んでいく。

「ありがとうリュディード。助かった」と、礼を言いながら回復薬を受け取った。

 するとリュディードは微笑んで「いいえ。ネウクレアをお願いしますね。私はここの対応で手一杯ですから」と、返してくれた。

 感情の高ぶりを解し、そっと背中を押すような柔らかい言葉選びだ。

 そこには、彼らしい細やかな配慮が溢れていた。

「回復薬を飲ませることができたら、できるだけすぐ、こちら側に戻る」

「はい、了解です」



 ――セディウスは副官の気遣いに感謝しながら、再びネウクレアの体を肩に担いで足早に救護班の天幕を出た。
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