【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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本編 

副官の好奇心

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 ――一時は噂に過ぎなかった全面戦争という事態が、現実味を帯び始めてきた。


「団長、息をつく暇がありませんね」

「ああ……、仕方のないこととはいえ、気が重いな」

「帝国が簡単に引き下がるとは思っていませんでしたが、動きが早すぎませんか」

 ここにきてようやく防衛戦の事後処理を終えたリュディードは、続いて情報収集や近々行われる軍略会議の準備に追われていた。

「砲撃戦で退けられたとはいえ、魔導防壁を突破したのは快挙だろう。勢いづくのも当然だ。私が帝国側の人間だとしたら、勝機を見出すに足りる戦果だ」

「……確かに……。国境防壁が完成してからずっと、帝国は目立つ戦果を挙げていませんでしたね」

「帝国軍部の強権もいつまでも続くとは限らん。勢いに任せて押し切るつもりだろう」

 皇国諜報部隊の動きも活発になり、不穏な帝国の動きが伝えられる回数が増えている。重苦しいものに胸を押さえつけられる気分になるが、それでもできる限りのことをやり尽くすしかない。


 ――そんな多忙を極める最中で、リュディードが気になっていたのは団長セディウスの体調だ。

 防衛戦後から苦渋に満ちた表情で眉間に皺を寄せてばかりいて、それが大きな心配の種だった。

 団長がいつも大らかに笑っているからこそ、安心して自分たちは任務に勤しめるのだ。どうにかして元気づけたいと、なにかと気を回していた。

 それが……ここのところ、以前にも増して笑顔でいるときが多い。加えて、顔色が驚くほど良くなったのだ。

 毎朝している剣術稽古のときも、前よりも身のこなしが軽やかになった気がする。こんなにまで急激に回復するような、なにか特別な出来事が団長に起こったのだろうか。

 これは少し……いや、かなり気になる。

  一体なにが彼の心を癒やし、眉間に皺を寄せるほどの苦悩を取り払ったのか。副団長として……というより、やや個人的な興味に近い疑問が湧いた。




「――休憩にしましょう」

 茶を淹れて休憩を促した際に、言外にその疑問を匂わせて話をぶつけてみることにした。

「団長、このところ顔色がいいですね。一時期は心配しましたが、安心しましたよ」

「……ああ、よく眠れているからだな」

「そうですか。それは良いことですね。なにか……いいことでもありましたか?」

 団長が少し視線をさまよわせる。

「いいことか……。あるにはあったな」

 奇妙な間があった。怪しい。なにかを隠している気配がする。

「…ネウクレアと、その……、親しく意思の疎通ができるようになった」

「――彼とですか」

「ああ見えて、素直で可愛げがある」

 ……素直で、可愛げがあるのか。

「素直……ですか。私は論理的という印象ですが……」


 それに加えて、前線部隊預かりになってからは、無愛想で物騒な部類の男であるという印象も追加されている。

 ファイスからなんとも楽しそうな顔で、『相変わらず不愛想だけど、仮想敵ってことで模擬戦に放り込むと面白いぞ。アイツ頭がいいし、色んな魔導術式仕掛けてきて動きがえぐいからな!』……という話を、昼食兼情報交換の時間に聞いたばかりだ。

 人懐っこく頻繁に話しかけるファイスにすらも、ネウクレアは不愛想らしい。

 だとすると、素直で可愛げがあるのは団長に対してだけ。二人が親密な関係だということだ。

 低く枯れた声で全身鎧を着た、まるで歴戦の猛者のようなあの騎士が、団長の癒しになっている……? 


 ……想像すると、違和感しかない。


「――ネウクレアは、情緒が薄いが……彼なりに豊かな感情がある。向き合えば見えてくるものがあるのだ」

 団長の語り口がとても柔らかい。

 男らしくも端正な顔に、慈愛すら感じさせる穏やかな笑みまで浮かんでいる。団長の笑顔が眩しい。いつにも増して、眩しい。神々しいくらいだ。


 ……もうこれはこれで、いいのではないだろうか。


 ここまで団長を癒してくれたネウクレアに、感謝の印として差し入れをしたいくらいだ。


 ――しかし、彼の好みが分からない。


 彼が魔導研究機関から支給されている飲食物を譲ってもらい口にしてみたことがあるが、あの酷い味をいつも食べていて平然としている彼は、舌が完全に死んでいる。絶対にそうだ。

 味の優しい、砂糖菓子なら喜んでくれるだろうか。なんなら団長と語らいながら食べてくれでもしたら、なおいい。団長も、甘味は嫌いではない。


「そうですか……。彼は独特の言動をしますし、一時はどうなることかと思いましたが、良好なやりとりができるようになったのでしたら、喜ばしいことです」

「ああ、大丈夫だ。リュディード、お前には心配をかけたな。いつもすまない」


 公爵家の長子という出自、騎士団随一の魔力量、魔導術式の扱いの巧みさ……すべてに恵まれながらも、それに驕ることなく努力を続ける団長は、尊敬すべき男だ。

 リュディードの持つ俯瞰的な才能を過分なほどに認めてくれて、副団長に抜擢してくれた上司でもある。今こうして騎士として……副団長として騎士団を支えていられるのも団長がいたからこそだ。

 なにが起ころうとも皇国を守るため、彼とともに持てる力を尽くして自分なりに戦い抜くつもりだ。

「心配をかけた分、しっかり私たちを引っ張っていってください。よろしくお願いしますよ」

「ふふ。ああ……承知した。これからも頼むぞ」


 ――団長に頼りにされることが誇らしい。


 熟さなければならないことは多肢に渡る。しかし、それらを大変だとは思わない。戦場に斬り込むのはファイスの役目だが、裏方として騎士団を支えるのは自分の役目だ。

「はい。了解しました団長」



 ……ネウクレアとの関係については、我らが団長の癒しのため、これ以上は探りを入れずにそっとしておこう。

 しかし、差し入れの件は確定事項だ。彼には、ぜひこれからも団長と仲良くしていてほしい。

 リュディードは、にこやかに微笑む顔の裏でそう思っていた。



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