【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

文字の大きさ
23 / 59
本編 

剣術稽古

しおりを挟む


 ――なにかと多忙を極める騎士団長のセディウスだが、それでも毎日の鍛錬は欠かさない。


 ほとんどの団員が、まだ寝静まっている早朝。


 ネウクレアをひとしきり甘やかし送り出した後に、駐屯地の南東にある雑木林へと向かう。軽装で剣を帯びた姿で、雑木の間を風のように軽やかに走り抜けていく。

 清浄な朝の空気を味わいながら、不規則に並ぶ木々や枝、岩などを巧みに躱しながら縫うようにして進むと、やがて小さく開けた場所に出る。

 ――この広場が、彼にとっての鍛錬場だ。

 騎士の本懐は、守護者であることだ。書類の処理に追われがちな日々ではあるが、体を鈍らせてしまってはならない。

 鍛錬場で部下たちと混ざって体を動かすのも悪くはないのだが、どうも皆がそわついてしまうので控えている。彼らは、やたらと手合わせをしたがるのだ。

 ……その中で、落ち着いて鍛錬するのは難しい。



 人の気配のない、自然の静けさがセディウスの逞しい長躯を包み込んでくれる。

 さらさらと吹く風が枝葉を揺らし、心地よい音を奏でる。

 見上げた明けの空の美しさに心を和ませながら、細く、長く、独特の深い呼吸を繰り返し軽く体を解す。

 そのついでに術式を複数、中空に描き出しては発動させずに消していく。

 何十回と繰り返すことで、練度と集中力を養うのだ。セディウスのそれは正確かつ、驚異的な速度だった。
 


 雑木の向こうから、もう一人の騎士が広場に駆け込んできた。

「団長、おはようございます」

 ――リュディードだ。
 
 息を切らせた様子もなく、軽やかな足取りでセディウスのそばに躍り出て、略式の礼をした。

 セディウスと同じく軽装で、腰には剣がある。

「おはよう、リュディード」

 穏やかな声で挨拶を返すと、リュディードは微笑んですらりと剣を抜き放った。

「よろしくお願いします」

 すっと、正眼に剣を構える彼に対して、「……ああ」と、応えて、セディウスも剣を抜いて構えた。


 


 ――刹那、鋭い音が響き渡る。




 最初の一撃はリュディードからだった。

「ふっ……!」

 短く息を吐きながら鋭く放たれた一閃を、傾けた剣で受け止めたセディウスは、リュディードの剣を自分の剣の腹上で滑らせて横へと流す。

「……っ!」

 流された力に姿勢を崩されるのを堪え、リュディードが滑らかに素早く剣を切り返す。

「はっ!」

 振り上げられた刃がセディウスを襲うが、そのときにはその軌道上に彼の姿はない。

 空を切った切っ先を引き戻し、リュディードは迎え撃つ姿勢へと移る。

「くっ……!」

 短い振りだが腕のしなりの利いた、セディウスの重い一撃が剣にぶつかり激しい火花が散った。

 間を置かず何度も同じ重さの一撃が続く。

 彼の的確な一撃ごとに、リュディードは押し潰されないよう腰を据えて構え、流麗な腕の動きで剣を捌いては威力を逃していく。


 
 ――少しずつ陽が昇り、柔らかい光が満ち始める中で、静けさを破る剣戟の音が絶え間なく続く。



 魔導術式に頼らない、純粋な剣技のみのぶつかり合いだ。

 幾度かの重い斬撃を凌ぎ切ったリュディードが、反撃に転じる。

 普段の上品ですらある態度から一変した、勇猛さを見せる動きは鋭くも、彼らしい繊細さがある。

 空を切り裂く音を響かせながら、止まることなく流れるような足運びで攻め立てる。

 セディウスは青い瞳に真剣な光を閃かせ、確実にそれらを受け止めた。

 数度の防戦後に軽い一撃で巻き込むようにして切っ先を払い、右に均衡を崩されたリュディードのわずかに浮いた左足の脛へと蹴りを放つ。

 その一瞬で、彼の流れは断ち切られた。

「くっ!」

 蹴りを避けて瞬時に右足で地面を蹴り、土ぼこりを引きながら低く飛んで逃げたリュディードに追いすがり、セディウスは立て続けに強さを変えた斬撃を放って追い込んでいく。



 ――やがて、リュディードが息を荒げ始めたところで、セディウスがすっと身を引く。



「はっ、はぁっ……、団長、ありがとうございました……」 

 息を弾ませながらも、リュディードが礼をする。その表情は、晴れやかだ。

「ふ……、今日もいい動きだったぞ。ありがとうリュディード」

 それに応えてセディウスも礼を返す。呼吸の乱れは少なく、声は穏やかなままだ。

 こうして、セディウスとリュディードはいつも早朝に稽古をしている。


 ――リュディードは、騎士団内で特に魔力量が少ない騎士だ。


 元来、皇国の騎士は魔導に重きを置く傾向がある。

 加えて帝国の銃火器類の発達により、弾丸を防ぐ防壁術式を扱う必要に迫られる近年の戦線状況において、魔力量の少なさは命を危うくする要因となった。

 防壁術式をほぼ発動できない彼は、そのために戦線を退いたのだ。

 ……だが、それ以前の動乱期においては、十代後半の若さで前線部隊に所属し、多くの敵兵を討ち取ってきた強者つわものだった。

 群を抜いた剣技の才があり、いまだに古参の間で一目置かれている。

 戦いの中で磨かれた剣技があるからこそ、セディウスの相手を務められるのだ。

 彼との鍛錬は、セディウスにとって心置きなく剣に没頭できる貴重な機会だ。

 逆にリュディードにとっては……尊敬する団長と交わす特別な研鑽の場であり、戦線に出られない不遇のなかで騎士としての矜持きょうじを保つ精神的な支柱となっている時間なのだった。


「――さて、今日も書類と格闘だな……。いかんせん量が多い……せめて筆記を減らせないものか」

 彼にしては珍しいくらいに酷くうんざりした顔で、肩を揉みながらセディウスが言うと、リュディードが小さく苦笑した。

「そうですね。忙しいとはいえ、改革していかないといけませんね……」

「ここのところ、記入の抜けが多い。特に前線部隊だ。あれらは文字を書くのを億劫がる。どうしたものかな」

「はは、確かに。ファイスが筆頭ですよ。副団長なのに、まったく彼ときたら……」

 拳を強く握るリュディードを見て、セディウスが「あまり強く小突いてやるなよ。あれでも堪えるようだからな」と小さく吹き出す。



 



 ――剣戟の音が止んで静けさを取り戻した広場に、小鳥たちのさえずりが響き、陽光が次第に輝きを増していく。

 清々しい風が吹く中を、二人は肩を並べて愚痴をこぼしながら歩いて広場を後にした。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

処理中です...