22 / 59
本編
朝の風景
しおりを挟む――目覚めると感じる、温かさ。
セディウスの骨格が太く筋肉の発達した逞しい腕が、ネウクレアを抱き締めている。
彼の肌の匂いや脈動を感じていると、深く精神が安定する。腕の中で大きな手に撫でられなが就寝すると、心身ともに良好な状態で目覚められる。
こうして触れ合うことで、様々な発見がある。
早朝に目覚めて最初に見る色は、セディウスの深い青色をした瞳だ。これは『美しい』ものと評価できる。目元や口元が緩められ、好意的な感情が過多に感じられてとても好ましい。
「……んっ、セディウス……」
胸の奥が、柔らかい熱に満たされる。
それが接触に対する欲求に変換され、無意識のうちに彼の胸元に頬をすり寄せてしまう。
「おはよう、ネウクレア」
「おはよう、セディウス」
頭や背中を撫でられながら、朝の挨拶を交わす。
セディウスと挨拶を交わすのは心地がいい。彼と自分との関連性が高まる感覚がする。
副団長のファイスとリュディードも、こういった挨拶の類をする。ファイスの声は、大きく鮮鋭で非常に活発な印象を受ける。リュディードのそれは、セディウスに近い穏やかさがあるが、やや平坦だ。
これは、騎士団のような集団生活においては、必要不可欠なものと推察した。
セディウスの自分よりも高い体の熱が、心地いい。もっと撫でてほしい。このまま接触を続けたい。だが、彼には騎士団長の職務がある。継続は断念せざるを得ない。
「……起床、する……」
腕の中から抜け出そうとすると、セディウスの腕の力がわずかに強くなる。
彼も自分と同様に、接触を継続したい欲求があると判断できる行動だ。これを感知すると、騎士団長が継続を求めているのだから、継続は可能……と、判断しかけて止めている。
実行することは許容されない。
騎士として活動することが、騎士団に派遣された主目的なのだ。この心地いい接触は、ネウクレアが感知した脈拍変化から始まった、想定外な解析のための行為だ。主目的の妨げとなってはならない。
セディウスから離れると、肌寒さにわずかな不快感を覚えるが、現時点では過度ではない。ゆっくりとベッドを下りて、手袋や鎧などを身に着けていく。
兜を被る前に、「セディウス、なでてほしい」と、頭を彼の肩へとすり寄せながら要求し、撫でられながら本日の任務を確認する。
「朝はいつも通りファイスたちとの基礎鍛錬及び模擬戦だ。休憩を挟み、昼からは石積に魔導防壁を追加してくれ、詳細はリュディードに確認を取れ」
「了解した。鍛錬と模擬戦、魔導防壁の追加。夕刻までに任務を完了する」
「よし、頼んだぞネウクレア。気をつけて行って来い」
セディウスの穏やかな声に送り出されて、ネウクレアは静かに天幕を出た。
――天幕の外は、まだ夜明け前だ。
鮮やかで眩しい陽光の茜色が、夜闇を押し上げて、遠く大渓谷に続く西の稜線を美しく彩る。天上にある星たちの瞬きは、息を潜めているように儚い。
この頃合い、大半の騎士たちは眠っている。まだ鳥のさえずりも聞こえない静けさの中、巡回の騎士らに気づかれることもなく、自身の天幕に帰り着いた。
薄闇の中で兜を脱いで棚に置き、片隅に置いている木箱へ歩み寄る。
そこに納められているのは、薄い油紙で包まれた棒状の固形物と、広口の瓶に入った薄青い液体だ。ひとつずつ手に取り、脇にあるベッドへと座る。
まず固形物を包んでいる紙を破り、薄緑色のそれを両手で持ってかじった。何度も咀嚼して時間をかけて平らげてから瓶を開封し、また両手で持って小さく喉を鳴らしながら飲み干していく。
食べ終えた後の紙と瓶は、研究機関に回収されるため、別の木箱へと入れて保管する。
――これがネウクレアの食事だ。
砲撃防衛戦後、居住用天幕への案内のほかに、食堂の利用方法についても説明されているが、一度も利用はしていない。
以前にリュディードが、『貴方、食事はどうしていますか。食堂では取らないですよね。天幕で取っているんですか』と、質問をしてきたことがあった。
現状そのままを返答したところ、彼が固形物と飲料液の試食を希望したため、ひとつずつ提供した。
その後、試食を実行したリュディードはネウクレアが摂取しているそれらに関して、懸念を示した。
栄養価が高く、身体機能になんら問題はないと説明したが――。
『温かいものを食べた方が良いですよ。それに栄養価は高いとしても、この味は酷すぎます。貴方は平気なのですか』
――などという、発言を返された。
彼は、この栄養摂取方法に問題があると判断したのだ。
温度と味の違いに、何の利点があるのだろうか。リュディードの言う問題点を解析するためには、様々な飲食物を摂取し比較する必要がある。
……だが、緊急性はない。
ネウクレア自身が、現状維持で問題ないと判定しているのだから。
身体の状態は極めて良好だ。
上り始めた陽光によって、天幕内が温かみのある柔らかい光に包まれるころ。
ネウクレアは兜を被り、鍛錬場へと向かった。
143
あなたにおすすめの小説
もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—
なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。
命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。
ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。
気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。
そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。
しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、
「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。
もふもふに抱きしめられる日々。
嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる