【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

文字の大きさ
37 / 59
本編 

晴れ渡った空の下で

しおりを挟む


 ――ネウクレアの体がようやく癒えた頃。


 トウルムント公から、彼に新しい鎧が届けられた。鎧の入った箱が運び込まれたセディウスの天幕には、受け取り手のネウクレア当人だけでなく、リュディードとファイスも顔を出した。

 箱の中には鎧の他に『今後も騎士団に所属し引き続きセディウスの指導を受けろ』という実に簡潔な内容の命令書も入っていた。

「……裏がある気がします」

「その可能性は否めんな。しかし、騎士団での所属と私の指導は継続とされている。公は、ネウクレアの成長を望んでいると見ていいのではないか?」

「そうだと信じたいですね」

 セディウスとリュディードは公の認めたらしき速筆の命令書を睨みながら、不快な表情を隠さなかった。公は、ネウクレアを実験体として扱っていた人物なのだ。すべてが疑わしく感じてしまうのは仕方のないことだ。


 ……それでも、ネウクレアが騎士団に留まれるという事実は、セディウスの心に深い安堵を与えた。彼を抱き締めて甘やかせる日々が、これからも続いていくのだ。これ以上のことはない。


「この鎧、何か仕込まれているのではありませんか」

「それは判じかねるが、ネウクレアの姿を隠すには最適だ」


 彼の姿は美しくはあるが、反面で奇異でもある。偏見や好奇の視線に晒され、つまらない揉め事で煩わされたりするよりは、全身鎧姿でいた方がいいのだろうとも思う。

 それに……あどけなく愛らしい姿はできるだけ知る者が少ない方が、セディウスとしても安心できるのだ。そこには彼の独占欲が、多分に含まれている。


 団長と同僚の懸念をよそに、箱から鎧を取り出し素早く身に着けたネウクレアは、脚や手首を動かして具合を確かめ始めていた。

「どんな具合だ」

「以前よりも適合性が高い。快適だ」

 ――まんざらでもない様子。

 どうやら着心地が、かなりいいらしい。

 セディウスはネウクレアの返答を聞いてなんとはなしに、苦々しい思いが湧いた。ここまですんなりと快適だと言わしめる鎧を与えるとは……。外見に関しても、厳めしさが薄れた優美な輪郭になっていた。

 ……彼なりにネウクレアを可愛がっているのだろうか。

 これまでネウクレアに非人道な行いをしてきたあの魔導公が、そんな感情を抱いているとは思い難いが……、そうであるのなら、この先の懸念も少しは薄れる。


 ……トウルムント公の存在は、セディウスにとっては理不尽な矛盾を含む存在だ。


 彼がいなければ、そもそも皇国はとうに帝国の手に落ちていただろう。

 今こうして、リュディードやファイスたちと共に騎士として歩むこともなかった。愛しいネウクレアを、この腕で抱き締めて甘やかすことも。かけ替えのない者たちも、セディウス自身でさえも……彼の手のひらの上で守られてきたのだ。


 ――感謝を、してもいいのだろう。一生涯のすべての感謝を込めても足りないほどの。


 だが、得体が知れない。まるで救いと災いの入り混じった化身のような、人として受け入れがたい魔導狂いの老翁。それが、これからもセディウスの中で変わらない魔導公ゼス・トウルムントへの認識だ。



「――実に良好」

 ネウクレアは軽く拳を振る動作をしてから、鎧を見て瞳を輝かせていたファイスの方を向く。

「至急、手合わせを要求する」

 大抵受け身のネウクレアが、珍しく自分から要求をした。そのことにファイスは「至急なのか!」と、目を丸くして驚き、続いて嬉しさを爆発させて「よし!」と、大声で叫ぶ。

「今すぐ鍛練場行こう!」

 弾むように飛び跳ねながらネウクレアに拳を向けて、ネウクレアもまたファイスに拳を向ける。

 二人の拳が合わせられた。

 動きが滑らかで、息もぴったりだ。

「おや、これはこれは……」

 リュディ―ドが小さく笑った。微笑ましいものを見る目になっている。

「承知した」

「あっ、やっぱり演習場にしような! 思いっきりぶっ放そう!」

 ファイスから物騒な言葉が飛び出した。

「なっ! 待ちなさい! ファイス! 剣だけにしておきなさい!」

「あー! 聞こえない! 聞こえない! ネウ、早くいこう!」

「了解。全速力で演習場に急行する」

 不穏な言葉を聞きとがめたリュディ―ドが緩めた顔を引き締め、目を吊り上げながら止めようとするが、ファイスはネウクレアとともに恐ろしい速さで走り去っていった。

「待ちなさい!」

「リュディ―ド、見逃してやってくれ。あんなに楽しそうにしているんだからな」

「だ、団長、ですが、きっと演習場が穴だらけになりますよ」

「あの二人を含めた、前線部隊に修繕させればいい。いい鍛錬になるだろう」

 大らかに笑いながらセディウスが後の始末に関して言及した。

 やらかした分だけ、しっかり仕置きをしてやるから放っておけ、という意味だ。

「ああ、そうですね。……はぁ、まあでも……ふふ、なんだか私も楽しい気分ですよ。こんな日が来るなんて、今まで想像できていませんでしたから」

「そうだな。これから、きっと長く平和な時代が来る。私たちが、ネウクレアが守った皇国で新しい時代がはじまるのだ」

 演習場の方から、爆発音が響いて来た。

 かなりの大きさだ。

 ファイスかネウクレアのどちらかが発動させた術式だろう。それも特大の。

「……大丈夫でしょうか」

「まあ、大丈夫だろう。ファイスは不意撃ちされた砲撃の爆発さえ凌いだ男だからな」

 ネウクレアは言わずもがなだ。二人なら、軽く遊んでいる程度のことだろう。

「そうだといいのですけれど」

 晴れ渡った空の下、爆発音が立て続けに響く。

「はは。これは、始末が大事になるな」

「はい……」

 鎧の入っていた空の箱とともに天幕に残された騎士団長とその副官は、演習場の方から上がり続ける爆発音に、苦笑しながら肩を竦めるのだった。








 ※トゥルーエンド。ひとまず終幕です。

 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。やんわり評価頂けると嬉しいです。

 番外編は不定期で連載予定です。副官コンビの日常、ファイスとネウクレアの短編などなど。お楽しみ頂ければ幸いです。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

処理中です...