【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
61 / 97

第61話 学校側の申し出

しおりを挟む
山羊先生の部屋だから山羊先生だけが部屋に残って当たり前だけど、先生は、二人きりになって、すごく気まずそうだった。

「なにがあったのですか?」

いや、ホント、何が起きたのだろう?

先生はビクビクしていた。

「あなたが前におっしゃったではありませんか」

私は首を傾げた。前?

「ほら、学内の体制を改めさせるって」

「誰がそんなこと言いました?……」

「閣下でしょうが、閣下が勝手に!」

忘れてんのかと言いたげに、山羊髭先生は、髭を振り立てて文句を言った。

「私は何もしてませんよ?」

私は言った。

「えっ?」

山羊髭は意外そうに顔を上げたが、私は続けた。

「ウチのおばあさまか、王族の誰かが気にしたのでしょう。いずれにせよ、私じゃありません」

私だったら、まずこのチーゲスト先生をクビにするもん。

「元のアランソン公爵、その実スターリン男爵と手先だった者は粛清されました」

山羊先生が説明した。

「まあ」

と言うことは、山羊先生、スターリン男爵派ではなかったのね。新発見だわ。
しかし、スターリン男爵派でもないのに、あの扱いか。

「あなたがスターリン男爵派でないなんて、信じられませんわ。私に対する扱いを見る限りでは、間違いなくスターリン男爵派でしょう」

私は言った。

「わ、私はスターリン男爵派じゃありません!」

「でも、元平民なんか気に入らないと言ってらしたわよね」

私は意地悪く聞いてみた。

「そ、それは……」

山羊髭がくちごもったので、私はかさにかかった。

「公爵ごときでは相手にならぬと言うなら、仕方ないですわ。この学校は、先生にとって役不足。もっと高貴な場所がふさわしいと言うことですね」

どうも、この山羊髭相手だと口がすべる。
地味で目立たない令嬢を目指すはずだったのに、いけないわ。

「とりあえず用件はなんなのですか? 謝罪のために呼びつけたのですか?」

またまたー。つい、口が過ぎちゃうな。

「あなたの寮の部屋を貴族棟へ変更……」

「結構ですわ」

それは困る。今、私は一棟丸々全部使っている。
絨毯もセットされているし、自室はチマチマ魔改造した。元に戻すのは面倒くさい。

次年度、本当の平民が入ってきたら考える。その頃には自邸から通えるようになっているかもしれないし。

「しかし……」

「貴族寮にはスターリン姉妹の取り巻きも残っているのでしょ? 逆恨みされて、いじめられたり毒を盛られたら困ります」

「誰もいじめたり、毒を盛ったりしませんよ。むしろ、いじめたり、毒のテストをされたら困ります」

私はジロリと山羊髭を眺めた。

その通りだな。

いや、しかし相変わらず、山羊髭、無礼。

「断ります。万が一、寮で誰かに何かあった時、責任、取れますの?」

山羊髭は悩み出した。
寮の管理者は彼で、寮で何か騒ぎが起きれば山羊髭の責任になる。

一方、私は、こと山羊髭に限り、結構な恨みを持っている。退学を勧められたり、住むところがないと悩んだ時も、知ったこっちゃないと即刻退去を求められた。

魔力なしの平民だからとあれだけ情け容赦なかったのだ。私が山羊髭に遠慮するわけない。

つまり、私を下手に怒らせると、寮でどんな事態が起きるか想像がつかない。しかも私の方が山羊髭より魔法量は遥かに多く、山羊髭がどうにかできる可能性はゼロ。
もちろん、私が被害者になるはずがない。
下手に貴族寮なんかに移すと、危険性がアップするに決まってるだろ。

「で、では、貴族寮にもお部屋だけは用意いたします。どちらにお住まいになられても構いません」

妥協案を出してきたな。

「あと、アンナはクビにしました」

「あら、どうして?」

「スターリン家に連なり、ポーシャ様の動向を報告していたようで」

私は呆れた。

「アンナさん、部屋に入ったこともないくせに、よくも報告だなんて出来たわね」

「ええ?」

山羊髭は知らなかったらしく、本気で変な声を出した。

「報告する内容がないと思うわ。普通、内偵者スパイって、誰が部屋に来たかとか、ゴミ箱へ捨てられた手紙の内容を読んだり、お菓子の箱からどこへ行ってたのか探ったりするんでしょ?」

山羊髭は大いに感銘を受けたらしかった。

「ほおお。そんなことするものなのですか、内偵スパイって。閣下はお年の割に博識ですなあ」

いや、それは私が内偵者スパイに登用されたらの話だけど。
それくらい、やらない?

「アンナさんは、部屋の中はおろか、外回りの掃除すらしてなかったわよ?」

私は言いつけた。

「職務怠慢よ。あれではどんなに寛容な家でも務まらないわ。ずっと放置していたあなた方に責任はあると思いますよ」

我ながらど正論。だけど今更で誰の役にも立たない。

山羊髭は震え上がって言った。

「あの、今回からお掃除に三人、侍女代わりを一人学校からお付けしますので」

「いらないわよ。公爵家から侍女は呼びます。お掃除担当もね」

侍女のあても、お掃除担当のあてもないが、呼んでもらっては困る。

「せめて、お掃除担当は、こちらが用意せねばと思っております!」

山羊髭は、権威主義者、差別主義者だが、まじめはまじめなのだ。その妙な律儀さ、他に使い道はないのかしら。

「いりません。結構ですわ。これまで放置してきたのですよね? 何を今更ですわ」

寮の中を他人にウロつかれるのは困る。
実は、いろいろなポーションの研究中なのだ。こっそり持ち出されて売られても困るし、絨毯もある。
操作できないだろうが、誤作動されたら、お手上げだ。


先生はもじもじしていた。まだ続きがあるらしい。

「それとクラスですが、最高位の貴族のクラスにお移りを」

「あら、何言ってるのかしら。私がアランソン公爵とわかっても、放置でしたわよね。高位貴族の皆様は、スターリン男爵家と親交がおありなんじゃございません? 私、そんなところへ行って、皆様から嫌悪されたり恨みの目線を受けるのは嫌ですわ。アランソン公爵位は両親のものであって、スターリン男爵こそが簒奪者なのですけど、この学校では、そう言うふうにはなっていないらしいですし」

「とんでもありません。それは誤解です。どの生徒もよく理解しておりますっ」

山羊先生が口からツバを飛ばして訂正してきた。

「高位クラスの生徒たちは、アランソン公爵令嬢、もとい公爵閣下が高位クラスへお移りになられ、お知り合いになれる機会を得ることを切望しております」

「あらあ。でも……確かスターリン男爵令嬢ご姉妹は、高位クラスに残ってらっしゃるのよねえ?」

山羊髭は、急いで返事した。

「スターリン男爵令嬢は男爵家らしく、最下位クラスに移ってもらいます。今日からでも。そしてアランソン様は高位クラスへお移りを」

「でも、親しいお友達が不運な目にあったことは心情的に許せないとお考えの方もいらっしゃるのでは? 最高位のクラスには、そう言う方々が大勢おいでだと思います。私、お友達になってくださる方が欲しいんですの。最高位のクラスでは無理でしょう」

「む、むしろ、お友達になれたらと思う令嬢方の方が多いと思います!」
 
そりゃそうだろう。なにしろスターリン男爵は、今、投獄されている。
もっと早く何らかの措置が決まるはずだったのに、悪獣騒ぎで居心地の悪い牢屋に入れられっぱなしだ。
親が毒殺罪とかで投獄されている令嬢に友情を誓う手合いが何人いるか知らんけど、そっちの方がいい人かもしれないと思うわ。

「でも、学校の判断によりますと、アランソン公爵家は最下位なのですよねえ? 少なくとも夏休みが終わるまでは、そうでしたわ」

どうも山羊髭には言葉が過ぎちゃうな。

高位貴族のクラスの周辺には、学年は違うが殿下のクラスもあるはず。
殿下には会いたくない。
私は最下位クラスで十分です。
最近はみんなも話をしてくれるようになったしね。

「そんなぁ」

山羊先生のご提案をことごとくお断りして、私は部屋に戻った。
面倒だが、勝手に部屋に入られては困るので、ドアと窓には厳重に封鎖魔法をかけておいた。

攻撃系はサッパリなのに、この手の隠密系にはやたらに強いのである。

そして、私はこっそり、最近の楽しみに浸った。

アランソン公爵家から巻き上げてきた魔法の地図。

全国に散らばる絨毯ポイントを閲覧できる。

もちろん注目は、エッセン。

殿下がいるところだ。

はるか彼方から、推しの大活躍を密かに観賞できるのだ。その姿や顔を見られないのは残念だけど。

「殿下、ステキ」

だが、私は気がついた。

以前見た時より、黒や焦茶の点の数が少ない。

黒と焦茶は悪獣だ。

「マジ?」

私は魔法の地図にかじりついた。

セス様があの時言った言葉は本当だったのか。
効果はありました!って。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

『身代わりに差し出された令嬢ですが、呪われた公爵に溺愛されて本当の幸せを掴みました』

鷹 綾
恋愛
孤児院で「九番」と呼ばれ、価値のない存在として育った少女ノイン。 伯爵家に引き取られても待っていたのは救いではなく、実の娘エミリアの身代わりとして、“呪われた化け物公爵”フェルディナンドの婚約者に差し出される運命だった。 恐怖と嘲笑の中で送り出された先で出会ったのは―― 噂とは裏腹に、誰よりも誠実で、誰よりも孤独な公爵。 角と鱗に覆われたその姿は、血筋ではなく、長年にわたる呪いと心の傷によるものだった。 そしてノインは気づく。 幼い頃から自分が持っていた、人の痛みを和らげる不思議な力が、彼の呪いに届いていることに。 「身代わり」だったはずの婚約は、やがて 呪いと過去に向き合う“ふたりだけの戦い”へと変わっていく。 孤独を知る公爵と、居場所を求めてきた少女。 互いを想い、手を取り合ったとき―― 止まっていた運命が、静かに動き出す。 そして迎える、公の場での真実の発表。 かつてノインを蔑み、捨てた者たちに訪れるのは、痛快で静かな“ざまぁ”。 これは、 身代わりの少女が本当の愛と居場所を手に入れるまでの物語。 呪いが解けた先に待っていたのは、溺愛と、何気ない幸せな日常だった。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ
恋愛
誰もが羨む、名門貴族との理想の結婚。 そう囁かれていたジェシカの結婚は、完璧な仮面で塗り固められた**「白い誓約」**だった。 愛のない夫。 見ないふりをする一族。 そして、妻として“正しく在ること”だけを求められる日々。 裏切りを知ったとき、ジェシカは泣き叫ぶことも、復讐を誓うこともしなかった。 彼女が選んだのは――沈黙と、準備。 名を問われず、理由も裁きもない。 ただ「何者でもなくいられる時間」が流れる、不思議な場所。 そこに人が集まり始めたとき、 秩序は静かに軋み、 制度は“裁けないもの”を前に立ち尽くす。 これは、声高な革命の物語ではない。 ざまぁを叫ぶ復讐譚でもない。 白い仮面を外したひとりの女性が、 名を持たずに立ち続けた結果、世界のほうが変わってしまった―― そんな、静かで確かな再生の物語。

神様、恋をすれば世界は救われるのですか? 〜余命二年の侯爵令嬢が、選ばれなかった未来の先で最愛を見つける物語〜

お月見ましろ
恋愛
余命は、十八歳の卒業式まで。 彼女の死は、そのまま世界の終わりを意味していた。 世界を救う条件は――「恋をすること」。 入学式の朝、神様は笑って言った。 「生きたいなら、全力で恋をしなさい」 けれど誰かを選べば、誰かの未来が壊れる。 魔法学園で出会った三人の少年は、それぞれの形でアイリスを必要としていた。 守ることに人生を捧げ、やがて“忠誠”を失っていく従者。 正しさを失わないため、恋を選択として差し出す王族。 未来を視る力ゆえに、関わることを拒み続けた天才魔術師。 「恋は、選択なのか」 「世界より、大切なものはあるのか」 これは、「正解のない選択」を何度も突きつけられながら、最後に“自分の意志”で未来を選び取る少女の物語。 ――世界よりも、運命よりも、 ひとりにしないと決めた、その選択の先へ。 【毎日更新・完結保証作品(全62話)🪄】 ※運命選択×恋愛、セカイ系ファンタジー ※シリアス寄り・溺愛控えめ・執着・葛藤・感情重視 ※ハッピーエンド

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...