【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
62 / 97

第62話 目立たない令嬢

しおりを挟む
目立たない令嬢を目指すことを決めたので、以前同様、地味目な格好で、毎日最下位クラスに向かう。

ただ、魔術のクラスに入れてもらえることとなったので、そこはうれしい筈だった。

ところが、魔術のクラスには高位貴族が圧倒的に多い。

しかも困ったことに、身分順で席が決まっているらしい。身分が高いほど、魔法量が多いと言う俗説が信じられているらしい。

「そんなことないでしょ?」

初めてその話を聞いた時、私はそう反応した。

「成績順でいいではありませんか! 平民だって魔力を持つ者は大勢いるでしょう?」

私はセス様のことを念頭に置いて言った。

しかし、時間の許す限り魔術のクラスに出席していくうちに、残念ながら、身分順も成績順も、私にとってはすごく不利だと言うことに気がついた。

どっちでも、多分一番前。

公爵令嬢になった最初は、全科目に参加してやると息巻いて実行したが、内情がわかってくると、ここは遠慮すべきだったと後悔した。

意外に魔力持ちと言うのは少ないらしい。その上、魔力のレベルが低い。

殿下やセス様、自分自身のことを標準にしていたので、ちょっと呆然とした。

クラスに参加したら、絶対に目立ちまくるわ……。実技とか。


私は見学生と言う立場に固執した。

「見学でいいです。見学で」

「公爵令嬢ともあろうお方が、なぜ、正式に授業を受けずに見学生のままなのかしら?」

「魔力不足ですってよ?」

彼女達(高位貴族の同級生のご令嬢方)は悪そうな顔でニヤリとした。

「きっと、偽者なのよ。魔力のないアランソン家のご令嬢だなんて、あり得ないわ」

噂が噂を呼んだ。

偽アランソン公爵。

はなはだ不本意だったが、何しろ、見学生のままの方が、まだ目立たないと思う。

それに、試験が怖いもん。

だって、例えばポーションの授業の場合、いきなり一升瓶三本分の命のポーションを持ち込んだら、先生は気絶してしまうと思う。

その上、山羊先生に言った通り、大勢の高位貴族令嬢方は私にいい感情を持っていないに違いなかった。

例えば……
魔法の授業で、私は、ばったりアデル嬢に会ったのである。
何となくだが、アデル嬢は、私に好感情を持っていないような気がする。
どうしてだっけ?


私はポンッと手を打った。忘れていた。

「アデル様」

私は呼びかけた。
私はアデル嬢から、夏の終わりのダンスパーティの時、殿下のエスコート役をアデル嬢にするよう頼まれていた。

なんだか、あれからいろいろあった。

夏の終わりの恒例のダンスパーティーも悪獣騒ぎで延期になっているらしい。

忘れていたが、私はアデル嬢に金貨十枚を返さなければならないのである。

残念ながら、アデル嬢を殿下のパートナーに据える件はどうも無理っぽいからだ。

「あの、アデル様」

この人の家名なんだったっけ。

「何ですの?」

あ、やっぱりお怒りみたい。でも、なぜ?

「アランソン様、良いところでお会いしましたわ。お昼をご一緒しませんこと?」

「え? 食堂ですか?」

いやいや、食堂は! 例のスターリン男爵令嬢姉妹がいるから!

「んまあ、何おっしゃってるのかしら。アランソン公爵閣下ともあろうお方が」

別にまだ爵位襲名披露をしたわけでもないのに、なぜみんなでアランソン公爵閣下とか呼ぶのだろう。

「ポーシャで結構ですわよ」

そう言うと、アデル嬢が悪い笑顔になった。

「では、ポーシャ様、食堂で」

だから、食堂は嫌だって! でも、アデル嬢は人の話を聞かない系。堂々と去ってしまった。

アデル嬢は聖女の素質があるそうで、回復魔法の授業をとっているのである! 人の話を聞かないのはそのせいだって! 関係あるのかな……

しかも授業が始まってしまい、私は、一番後ろから、生徒全員の頭を眺めながら、通信魔法のメモを取ることになった。

通信魔法は、絶対に身につけたい魔術だった。アデル嬢との食堂会食よりこっちの方がはるかに重要だ。

ただし、憧れはセス様のお手紙魔法である。断じて殿下の魔鳥のウ○チお手紙ではない。

なので、私は真剣にメモをとった。

生徒じゃないので、立ったままだったが、立って見ている平民の生徒は大勢いる。
彼らが私に遠慮して、最前線で、メモらせてくれるのは、目立ってるんじゃないかと心配だけど、ありがたい。

先生が自分自身で手本を見せてくれる。今回は紙だ。

「このように念じつつ、紙を折る。紙の質は何でもいいです。手触りで合いそうだと感じられる紙なら特にいいですね……」

先生は器用に紙を折り、魔術を込める。

「なかなか飛ばないことは分かってます。むずかしいですからね」

そうかー。むずかしいのかー。

やさしい先生だな。生徒に配慮してくれてる。

「そして、このように念じます。校長室へ飛んで行け! サンハイッ」

サンハイッ……て、なんだろな?

まっ、そう簡単に届く訳ないよね。
テキトー、テキトー。

手元の書き損ねのメモを手に取り、畳んで、口の中でつぶやいた。

「校長室へ飛んで行け! サンハイッ」

ピクッと紙が動いたのは、教室の中でも数名のみ。

だが、私のメモはスサササーッと割と大きめの効果音と共に浮き上がり、窓が開けられていなかったので、ガシャーンと大音響を立ててガラスを突き破って、ものすごい勢いで飛んでいった。

どこへ……

……多分、校長室へ……かな?

宛先も自分の名前も書かなかった。

届く訳ない……はずなんだけど……?


クラス全員と、後ろの席の見学組全部が、ガタタッと音を立てて立ちあがり、凶器のような手紙の行方を追った。

ヤバい。超ヤバい。

教室の中にはガラスの破片は少なかったが、外側には大量にばらまかれているはずだ。下に誰もいないことを祈るしかなかった。

そして、あの勢いでぶっ飛んでいった手紙は、またもやガラスを爆破して校長先生の元へ?
校長室ってどこなの?

みんな、呆然としてガラスの破片と元ガラス窓だった四角い空を見物していた。
しばらくして廊下側から、なにか軽い、音楽的な感じさえする足音が近づいて来たかと思うと、ドアがサッと開けられた。

美しい巻き毛縦ロールの黒髪が、脳天をきれいに残して、頭をぐるりと取りまいている独特なヘアスタイルの先生が、ニッコリ笑顔で入って来た。

「お手紙をどうもありがとう」

私はこの嫌味にゾッとして震え上がった。

校長先生だわ。顔は覚えていないけど、あのヘアスタイルには見覚えがある。

「誰かな? この天才は? 開いていた窓から私のデスクにスーと着地した。素晴らしい魔力だ。あざやかで手際がいい。中身の方は、授業のメモだったが、そりゃあ当然だ。きちんと一生懸命ノートを取っているね。生徒の鏡だ」

生徒の鏡は、窓ガラスを割ったりしないと思うけど。

だが、校長先生は、割れた窓ガラスに気がついたらしい。スゥウと目線が厳しくなった。

「何をしているんだね!」

ニコニコ笑顔から瞬時にして鬼のような顔つきになった。

「ダメじゃないか。窓が閉まっている。お手紙が外へ出られない。届かないじゃないか。どういうことかね? トルーマン君!」

え? ああ、そっちか。

トルーマン先生は青くなっていた。

「いや、これまでこのクラスをずっと見てきましたが、紙を浮かせることすら、なかなか難しいらしくてぇ。風が入るとより一層難易度が上がってしまうので、窓を閉めていたんですう」

なるほど。

私が通信魔法を見学にきたのは、今回が初めてだ。

この魔法も人気があって、見物人が多い。いつも他人の頭しか見えないので、一度もまともに授業を聞いたことがなかった。

アランソン公爵を名乗るのもメリットがあるな、申し訳ないけど、今日は前の方で見物できて、ご満悦だった私。

「トルーマン先生、この手紙を作った子は優秀です。絶対に通信魔法の上級クラスに入れるべきです! どの生徒ですか?」

生徒ではない私はそろそろと後退りを始めた。
目立ちたくない。

「あ、あのっ、アランソン公爵閣下ですっ」

トルーマン先生が正体をバラした時には、私は一目散に逃げ出していた。

そして、お昼。

気が進まなかったが、ものすごく久しぶりに食堂に行った。

とにかくアデル嬢に金貨十枚を返して、第二王子殿下とのエスコート作戦がうまく行かなかったことを伝えなければならない。

「リーマン嬢」

私は必死になってアデル嬢の家名を思い出した。失礼があってはならない。

アデル嬢には取り巻きのご令嬢がおり、一方の私は誰もついていない。

アデル嬢は派手なドレスを身にまとっていた。
前はこんなじゃなかったような?

私はアデル嬢よりずっと地味で飾りの少ないドレスを着ていた。
というより、アデル嬢の取り巻きの誰よりも、断然地味で飾りの少ないドレスだった。

どうやら、アデル嬢は、侯爵令嬢ということもあって、順当に、元アランソン公爵令嬢姉妹の代わりに令嬢第一位の座に輝いているようだった。

いわば校内の社交界を牛耳っている状態らしい。

ありがたや。

校内の花形令嬢代表を進んで務めてくれるなんて、なんていい人なんだろう。

それは、本来、私がやんなきゃいけないパートだった。なにしろ公爵令嬢と言うか、公爵そのものだから。
一番えらいのである。

ドレスだって一番豪華でなくてはならないだろうし、一番堂々として、何より一番偉そうにしてなくてはいけない。

無理。

「あーら、親友のアランソン女公爵が来たわ、皆さま」

食堂へ入ると、アデル嬢が大声で言った。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。 理由は、お家騒動のための避難措置である。 八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。 ★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。 ☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。 ☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...