婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話

buchi

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正面突破 第二弾

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 しかし、『鳥類大図鑑』と『国際労働の移動とそのメカニズム』『商業財務の記録法論』を送ったあたりから雲行きが怪しくなった。お礼状はさらに熱がこもってきた上、内容についての議論も充実してきたのだが、ソレジャナイ感が漂い始めた。

「夜中の強行突破しかない」

 前回の成功体験が殿下に自信をつけた。
 あの感激をもう一度。

「いや、おやめになった方が……」

 ここで止めなければ側近失格である。

「止めてくれるな。母上には内緒だ」

「……え。無理」

 夜陰に紛れて殿下は走っていってしまった。

 以前同様、伯爵家の塀を軽々と飛び越えた殿下は、今回は正面玄関から突入を試みた。

「まあ、これはエドワード王子殿下!」

 執事も女中頭も大歓迎してくれた。前回も、正面玄関から入ったら大歓迎してもらえたと思う。ただし案内先がエレン嬢かアマリア嬢の部屋になるのが問題だっただけで。

「マリゴールド嬢とお話したい」

 狡猾にも殿下は付け加えた。

「遠隔地からの領地経営の問題点について議論したくて参った」

 その話題にせよ、なんにせよ、もう遅いんだけど?

 執事と女中頭の配慮で、なぜか書斎ではなくマリゴールド嬢の寝室に通された殿下は、マリゴールド嬢を目を細めて見つめた。

「お城を出てから数週間たつけれど、いかがお過ごしでしたか? ずっと健康になられたようですね」

「はい。おかげさまで」

「でも、まだ全然細いようだ。しっかり召し上がらないといけませんよ」

「もう大丈夫ですわ。それで今日は領地経営のお話があるとかで」

 ズイと殿下は前に出た。

「あなたと僕が結婚した時、どこに住むかで領地経営に問題が生じるかなと心配になりまして」

 ゆるりとマリゴールド嬢は微笑んだ。

「殿下はお好きな方とご結婚なさる権利がおありです」

 殿下はちっとも婚約者のマリゴールド嬢と関わりを持ってくれなかった。マリゴールド嬢が殿下との結婚に消極的だったとしても無理はない。

「僕にその権利を認めてくれるか、マリゴールド嬢」

 マリゴールド嬢は一見平静そうだった。だが、殿下の返事にショックを受けていた。やっぱり、婚約解消のために来られたのだわ。

 名ばかり婚約者だったから仕方ない。

 マリゴールド嬢が浮かない様子で目を伏せたのを見て、殿下は突然理由を悟った。

 自分より財産家の令嬢と思うと、なんとなく負担を感じて、疎遠になってしまっていた。そこを、トンデモ叔父夫婦に付け込まれ、下女生活を送る羽目になったのだ。
 マリゴールド嬢は体重が十キロも落ちてしまった。まだ、十六歳の彼女にとっては、心身ともに大打撃だったに違いない。

「あの時は申し訳なかった」

 殿下は謝った。

 両親が亡くなった時、自分が慰めに行きさえすれば、叔父夫婦なんか邸内に入ることさえできなかったに違いない。それは侍女頭にこんこんと諭された。
 それから、ぺらっぺらに痩せたマリゴールド嬢を抱き上げた時に、湧き出た妙な感情を思いだした。
 殿下がマリゴールド嬢の世話になるではない。
 殿下がマリゴールド嬢を守るのだ。

「あなたをないがしろにしていた。僕なんか必要ないと思っていたのだ」

 マリゴールド嬢は恋愛イベントなんかやらない。浮ついてもない。子どもの頃からいいなと思っていた。

「僕にはあなたが必要だ。ずっと一緒にいて欲しい」

 殿下は言った。

「あなたのことが大事なのだ」

 やっとマリゴールド嬢の表情が和らいだ。わかってくれたか。

「殿下が知人として、私を少しでも気にかけてくださるのなら、あんな悲劇は二度と起きません。感謝いたします」

 知人じゃない! 婚約者になって!

「ものすごく気にかけているのだ」

 殿下がもう一段強めの力説をした。

「全面的に頼って欲しいのだ。わかるか」

 正面突破だ。

「あなたのすべてのお世話をしたい」

「世話なら侍女が……」

「結婚して欲しい」

 ご結婚なされば、好きなように出来ますよ……師事した王妃様の有能侍女頭の言葉が少々変異されて王子殿下の脳内によみがえった。

「僕が好きな人と結婚する権利があるって、今、あなたはおっしゃいましたよね」

 ズズイッと殿下はさらに一歩前に出た。

「それなら……僕と結婚してください、マリゴールド嬢」


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