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127話
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「こうして世界は救われ、みんなは幸せに暮らしましたとさ。おしまい!」
劇が終わり並んでお辞儀をした子供たちに拍手喝采が起きる。
まさかの演目は俺とティーナが最初に来たときに起こっていた疫病を、旅をする聖者とその付き人が治していくというものだった。
初めはみんな暖かい眼で見ていたが、子供たちの真剣な表情や雰囲気に途中からすすり泣く声が出始め、最後はシスターの中にも涙を流す人がいた。
「ふむ、なかなかのものだったじゃないか」
「確かにそうだけど……子供がやるにしては内容が重すぎないか?」
周りに聞こえないようにシリウスと言葉を交わす。
「それは当人の眼で見ているからだ。神を信仰する教会だけじゃなく国民、それに子供からすればあの絶望的だった状況を覆したのは奇跡なんだよ。本来なら公式に語り継がれてもおかしくないくらいのね」
「そういうもんなのかなぁ。街も落ち着いてるし、あんまり大したことなくてよかったと思ってたんだけど」
「君が目立ちたくないという意図を国民全員が汲んでくれてるのだよ。この劇は君への感謝でもあるのかもしれないな――さてと、私はバレる前に帰るとしよう」
手を振り去って行くシリウスを見送る。
言われてみれば街を歩いていても大半がお礼や挨拶くらいしかなかった……気がする。
今だってこの中に俺やティーナのことを知る人は何人もいるはずなのに、誰も変に近づこうとする人はいない。
「リッツさん、なんだか恥ずかしいですね」
「あぁ、どうやら俺たちが思ってる以上みたいだ」
ティーナに続いてギルバートさんたちがやってくる。
「ユリウス、どうだ。お前なら動けたか」
「僕には……できません。ですが、いつか追いついてみせます。ティーナさんに相応しい男となるためにも」
「よく言った! それでこそ我が息子だ!」
「ティーちゃんがお嫁さんに来てくれて本当によかったわぁ」
正面きって言われたティーナは顔が真っ赤だ。
修行から戻ったユリウスの表情はどこか現実を見据えるように落ち着いているが、きっとウェッジさんがうまいことやってくれたんだろう。
「ううぅっ……ティーナお嬢様がこれほど慕われるようになられたとは……」
「お嬢様のお転婆はここから始まったのです。まさか、あのあと自ら人質になるなんて……あのときはさすがの私も生きた心地がしませんでした」
「ひ、人質ですと!?」
「ハリス殿、あれほどの気概を持つ人物などそうそうおりませんぞ。ここでもなんですし、話の続きは次のお休みにでも取っておくというのは?」
「それは名案ですな、老いぼれの楽しみがまた一つ増えましたぞ」
ハリスの休日ってファーデン家に遊びに行くことが多いのかな?
気が合うのか、バトラさんとも仲が良いようだし、それならそれで俺も嬉しいんだが。
「どれ、そろそろ日も落ちる頃だし帰るとするか」
「リッツ様、帰ったらお話を聞かせてください!」
「そんな大げさな……あーいや、そうでもないのかな? でもアンジェロと会った時なんて神獣ということすら知らなかったからなぁ」
「ワフッ!」
短い道中をみんなで帰るとさっそく夕食になり、いつもよりあれこれと聞かれた。
「ふぁーーー……なんだか今日は疲れた……」
「リッツ様、私がマッサージをしますよ!」
「少しお願いしようかな」
「ワン!」
ベッドにうつ伏せになるとニエとアンジェロが背中に乗ってくる。
「もうちょい下で……あ~そこ。アンジェロ、お前座ってるだけじゃないか?」
「こらアンジェロ! そこは私の場所です!」
背中で暴れないでくれ……。
結局アンジェロに続きニエまで俺の背中で横になり始めた。
喋り過ぎて疲れたしもうこのまま寝ちゃってもいいかな……。
重くなった瞼を閉じようとしたとき部屋の扉がノックされる。
「リッツ、ちょっといいかしら」
「んあ……どうぞ……って!? 師匠ちょっと待っ」
「あら、お取り込み中だった?」
「ご、誤解です! ちょっと疲れたのでマッサージをしてもらってたんです!」
「リッツ様、ミレイユさんのお力を借りましょう! グッとしてもらえば楽になるはずです!」
「なんだそういうことだったのね。ほら、暴れないの」
「ちょ、待っ……あぎゃーーーーーー!!」
――――
――
「というわけで、二人のこともあるし聖域に行くというのはどうかしら」
「俺もそう思ってたんですけど如何せん場所がわからないんですよね。いずれは聞いてみようと思ってはいるんですが……痛ッ! アンジェロ、もう少し優しく頼むよ」
「ワフッ?」
師匠に筋肉が硬まっているといわれグッとされた俺はうつ伏せのまま動けなくなっていた。
どういう理屈かわからないが、あとはアンジェロに背中をふみふみしてもらえば、徐々にほぐれるらしい。
聖域については場所さえわかれば下見に行こうと思ってたけど……さすがに何も手掛かりがない状況ではなぁ。
「場所については心当たりがあるわ。これから私は知人に会いにしばらく空けるけど、準備は任せていいわね?」
「本当ですか! それなら俺もウムトとリヤンに話を聞いてみます。何も情報がないよりマシだと思いますから」
「リッツ様、ティーナさんにもお伝えしておいたほうがいいんじゃないでしょうか」
「あぁそうだったな。あんまり巻き込みたくはないんだが」
「仲間外れにすると怒られますよ~。ティーナさんだけじゃなく、エレナさんだって力になりたいって言ってましたし、ちゃんと説明しないと!」
「……仕方ない、まずはティーナたちに話を通してからにするか」
実際のところ解呪を持つティーナの協力がなければなんともしようがないからな。
そうと決まれば早めに話をつけに行くとしよう。
劇が終わり並んでお辞儀をした子供たちに拍手喝采が起きる。
まさかの演目は俺とティーナが最初に来たときに起こっていた疫病を、旅をする聖者とその付き人が治していくというものだった。
初めはみんな暖かい眼で見ていたが、子供たちの真剣な表情や雰囲気に途中からすすり泣く声が出始め、最後はシスターの中にも涙を流す人がいた。
「ふむ、なかなかのものだったじゃないか」
「確かにそうだけど……子供がやるにしては内容が重すぎないか?」
周りに聞こえないようにシリウスと言葉を交わす。
「それは当人の眼で見ているからだ。神を信仰する教会だけじゃなく国民、それに子供からすればあの絶望的だった状況を覆したのは奇跡なんだよ。本来なら公式に語り継がれてもおかしくないくらいのね」
「そういうもんなのかなぁ。街も落ち着いてるし、あんまり大したことなくてよかったと思ってたんだけど」
「君が目立ちたくないという意図を国民全員が汲んでくれてるのだよ。この劇は君への感謝でもあるのかもしれないな――さてと、私はバレる前に帰るとしよう」
手を振り去って行くシリウスを見送る。
言われてみれば街を歩いていても大半がお礼や挨拶くらいしかなかった……気がする。
今だってこの中に俺やティーナのことを知る人は何人もいるはずなのに、誰も変に近づこうとする人はいない。
「リッツさん、なんだか恥ずかしいですね」
「あぁ、どうやら俺たちが思ってる以上みたいだ」
ティーナに続いてギルバートさんたちがやってくる。
「ユリウス、どうだ。お前なら動けたか」
「僕には……できません。ですが、いつか追いついてみせます。ティーナさんに相応しい男となるためにも」
「よく言った! それでこそ我が息子だ!」
「ティーちゃんがお嫁さんに来てくれて本当によかったわぁ」
正面きって言われたティーナは顔が真っ赤だ。
修行から戻ったユリウスの表情はどこか現実を見据えるように落ち着いているが、きっとウェッジさんがうまいことやってくれたんだろう。
「ううぅっ……ティーナお嬢様がこれほど慕われるようになられたとは……」
「お嬢様のお転婆はここから始まったのです。まさか、あのあと自ら人質になるなんて……あのときはさすがの私も生きた心地がしませんでした」
「ひ、人質ですと!?」
「ハリス殿、あれほどの気概を持つ人物などそうそうおりませんぞ。ここでもなんですし、話の続きは次のお休みにでも取っておくというのは?」
「それは名案ですな、老いぼれの楽しみがまた一つ増えましたぞ」
ハリスの休日ってファーデン家に遊びに行くことが多いのかな?
気が合うのか、バトラさんとも仲が良いようだし、それならそれで俺も嬉しいんだが。
「どれ、そろそろ日も落ちる頃だし帰るとするか」
「リッツ様、帰ったらお話を聞かせてください!」
「そんな大げさな……あーいや、そうでもないのかな? でもアンジェロと会った時なんて神獣ということすら知らなかったからなぁ」
「ワフッ!」
短い道中をみんなで帰るとさっそく夕食になり、いつもよりあれこれと聞かれた。
「ふぁーーー……なんだか今日は疲れた……」
「リッツ様、私がマッサージをしますよ!」
「少しお願いしようかな」
「ワン!」
ベッドにうつ伏せになるとニエとアンジェロが背中に乗ってくる。
「もうちょい下で……あ~そこ。アンジェロ、お前座ってるだけじゃないか?」
「こらアンジェロ! そこは私の場所です!」
背中で暴れないでくれ……。
結局アンジェロに続きニエまで俺の背中で横になり始めた。
喋り過ぎて疲れたしもうこのまま寝ちゃってもいいかな……。
重くなった瞼を閉じようとしたとき部屋の扉がノックされる。
「リッツ、ちょっといいかしら」
「んあ……どうぞ……って!? 師匠ちょっと待っ」
「あら、お取り込み中だった?」
「ご、誤解です! ちょっと疲れたのでマッサージをしてもらってたんです!」
「リッツ様、ミレイユさんのお力を借りましょう! グッとしてもらえば楽になるはずです!」
「なんだそういうことだったのね。ほら、暴れないの」
「ちょ、待っ……あぎゃーーーーーー!!」
――――
――
「というわけで、二人のこともあるし聖域に行くというのはどうかしら」
「俺もそう思ってたんですけど如何せん場所がわからないんですよね。いずれは聞いてみようと思ってはいるんですが……痛ッ! アンジェロ、もう少し優しく頼むよ」
「ワフッ?」
師匠に筋肉が硬まっているといわれグッとされた俺はうつ伏せのまま動けなくなっていた。
どういう理屈かわからないが、あとはアンジェロに背中をふみふみしてもらえば、徐々にほぐれるらしい。
聖域については場所さえわかれば下見に行こうと思ってたけど……さすがに何も手掛かりがない状況ではなぁ。
「場所については心当たりがあるわ。これから私は知人に会いにしばらく空けるけど、準備は任せていいわね?」
「本当ですか! それなら俺もウムトとリヤンに話を聞いてみます。何も情報がないよりマシだと思いますから」
「リッツ様、ティーナさんにもお伝えしておいたほうがいいんじゃないでしょうか」
「あぁそうだったな。あんまり巻き込みたくはないんだが」
「仲間外れにすると怒られますよ~。ティーナさんだけじゃなく、エレナさんだって力になりたいって言ってましたし、ちゃんと説明しないと!」
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