146 / 158
2度目の夏至祭
169
しおりを挟むジリ、ジリ、と互いの距離を縮める僧兵達。
その数20人ほど。ていうかこの部屋これだけ人がいても距離ある程度あるって広いわねえ。
「何呑気に眺めてるのよ、あんたは!」
「おい、あっちが突っ込んできたらチャンスだぞ、抱えてでも逃げろよ?」
「わかっている」
そんな中、私は奥で勝ち誇った笑みを浮かべる大司祭を見る。
やだわー、初老ってほどじゃないのにこんなに野望剥き出しで。でもあっさり負けてやるつもりはない。私は堂々と出ていかなくては。だって悪いことしてないもん!
「・・・仇なす者に戒めを。『捕縛魔法・鎖』」
「ぐあっ!?」
「なっ!」
僧兵の足元に輝く、大きな魔法陣。そこから幾重もの鎖が生まれ、彼等全ての動きを封じた。
あまりの光景に、魔法を食らった僧兵達、大司祭、巫女や神官も言葉が出ない。わなわな、と震える大司教が悲鳴のように声を荒らげた。
「そんな、そんな馬鹿な!ここで神聖魔法以外の魔法が作動するはずが」
「そう、神殿にはそういった機構が組み込まれている。
─────けれど、その魔法を組み込んだのは何処の誰?」
「なっ!そ、そんな馬鹿な!」
かつて、この国は『魔術の頂点』と呼ばれる一族が興した。
王宮も、神殿も、この王都も。
全ての素地を作り上げたのは、他でもない。
タロットワークの一族だ。
その一族に名を連ねる私が、神殿で魔法を使えない訳が無い。
異世界人の私だから、その恩恵には与れないと思ったけれど、何がどう作用しているのかわからないが、私にも『タロットワーク』の恩恵があるのだ。
─────『名前を名乗る』というのはそれだけの力があるのかもしれない。魔法という奇跡があるこの世界には。
これだけでは神殿を無事に出られる保証はない。
だからこそ、今、この時間を使ってする事がある。
覚悟、決めなきゃ。
「セバス」
「はい、コーネリア様」
「『指輪』を」
手を出せば、何処から現れたのかわからない『タロットワークの影』がそっと小さなベルベットの袋を恭しく乗せる。
それを握りしめれば、チャリン、と金属の触れ合う音がした。
「は?どこから、おい」
「セバスチャン殿?」
「えっ、ちょ、何するのよコズエ?」
「─────キャズ、ディーナ、ケリー。貴方達が私を守ってくれると言ってくれて嬉しかった。自分の身を危険に晒してまで、守ってくれるって言ってくれて嬉しかった。
だから、私も、私に出来ることを返します」
緊張する。こんな風に、誰かの命を、人生を背負う決断をする事を。そこまで気負わなくていいのかもしれない。でも私はこの話を聞いてからずっと、勝手に自分を戒めた。
でも今、彼等は私に全てを預けてくれた。だとすれば、私はそれに応える必要があるんだ。
「キャズ・シールケ。
ディーナ・クロフト。
そして、ケリー・クーアン。
─────『タロットワーク』の名において、ここに騎士爵の称号を授けます。
私の剣となり、盾となり、自らを戒め、『騎士』の誓いに恥じる事なく、人生を全うする事を誓えますか?」
そう、これが、抜け道。
王国騎士、近衛騎士、それぞれが神殿と不文律を決めている。だがしかし、王位継承者…取り分け『タロットワークの騎士』となる者はそれに縛られることは無い。
王位継承者がさずける騎士爵の称号は、爵位とはまた違うもの。身分を示すものでもあるが、その人間の『品位』を認めた証となるものだ。
そして、特に『タロットワークの騎士』となったものは格が違う。この証を持つ者は『魔術の頂点』にその人格を認められたという誉れそのものとなるからだ。
3人は、驚きはしたものの、すぐに私に膝を折った。
特に、ディーナ。彼女の瞳にあるのは、歓喜と、畏敬の念。
「お受け致します、コーネリア姫。不詳、ディーナ・クロフト。貴方様を我が剣の主とできます事、光栄に思います」
「我が剣の全てを、我が主へ。ケリー・クーアン、タロットワークの騎士となる事を誓います」
「騎士でない我が身に誉ある名誉を頂き、心より忠誠と親愛を。キャズ・シールケの名に誓います」
「ありがとう、3人とも。貴方達の人生を縛る事はしません。思うように、自由に生きてください。貴方達が今、私に力を貸してくれるように、私もその為の力となりましょう」
ベルベット袋から指輪を出す。
タロットワークの紋章に、小さな宝石が嵌っている。
ガーネット。私…『コズエ』の誕生石だ。この指輪をしている人が、『私』、コーネリア姫の騎士である事を示す証。
ひとりひとりの指に嵌める。
サムリングとして作ってもらったから、あんまり剣を使う時に邪魔にはならないと思うんだけど。
感慨深げに3人とも眺めている。うん、似合う似合う!
「じゃ、これで一蓮托生ってことで」
「気分ぶち壊さないでよ!」
「せめてもう少し浸らせてくれないか、コズエ・・・」
「まーこれで、ここで暴れてもタロットワークの騎士としてなんとかなるな」
「と、いうよりも。ここで暴れてもお咎めなし、っていう保険だけど?」
「「「は?」」」
「だから。皆は王国騎士とかギルドとかよりも、私の騎士って役目が優先されるわけで。神殿と不可侵結んだのは私じゃないし」
「「「あ」」」
「なので、『私を無事に脱出させる』という大義名分があれば・・・ね?」
にっこり、と私は微笑む。そしてパチン、と指を鳴らせば、キィン!と硬質の音が響いて捕縛魔法・鎖の拘束が溶けた。
解放された僧兵達は、今目の前で起きた事が信じられないと言った様に、身動きが取れない。
そんな彼等に、私は最後通告。
我ながら、いい性格してるわあ~。
「それでは皆様。私の騎士達が存分にお相手しましてよ?お覚悟なさいましね?私、敵となる方に手加減するような慈悲の心を持ち合わせておりませんので」
「ちょ、嘘だろ」
「不味くないか?」
「タロットワークを敵にするのか?大司祭様!」
「ヨハン・グリッシーニ。ここで終わりにするのならば、私に刃を向けた事を不問としましょう。勿論先程言った様に、今回の合同結婚式での騒動に付いてはきちんと判断させてもらいますが」
『どうしますか?』と言外に問いかけた。
しかし、ヨハン大司祭は顔を真っ赤にして怒りを堪えている。あー、これは無理なやつ?まあ強行突破してもいいんだけどさあ。
ディーナやケリーがやる気だしねえ。
1番ヤル気なのはキャズなんだが。割りと…好戦的だよね…
しかし、1番いい所を持っていくのはこの人なのである。
「煩い、煩い煩い!お前達!そのおん…」
「─────我等が主に対し、不遜である。それ以上その醜い言葉を主に向けるのであれば、貴様の命を貰い受けるが、是とするか」
「は、はっ、はっ・・・、ひぃ」
「ヨハン・グリッシーニ、貴様など我等が主の手を汚すに値せぬ」
身を切られるかのような、冷たく鋭く研ぎ澄まされた殺気。
押し殺した声に、震える程の本気を込める。
そう、ヨハン・グリッシーニの背後。
闇から溶けるように姿を現した当代一の『影』が、首筋に薄く鋭利な獲物を添え、静かに問いかける。
周りの僧兵も、その声音に耐え難いものを感じたのだろう。失禁し、震え、腰を抜かす者が続出。カオス、ここに極まれり。
「セバス、その位に」
「は、御意に。・・・よろしいのですか、このような小物をのさばらせておいて」
脳裏に浮かぶのは、堂々としたゼクスさんの姿。
『今後使う時もあるかも知れぬ』と教わった心得。
見た目通りの歳であれば戸惑う事もあっただろうが、私も青臭いことだけを良しとする小娘ではない。
社会に出れば、本音だけでなく建前がないと成立しない事もある。部下に命令するには感情を押し殺す事もある。そう、必要悪とでも言うのだろうか…
「彼にはまだ、使い道があるのだもの。生きていてくれないと困るわ?後始末を付ける人がいないと」
「そうでしたね、生贄は必要です」
「ええ、レオノーラには神殿を立て直してもらわなくては。・・・ああ、補佐が必要ね?」
「お任せ下さいませ、全ては主の心のままに」
ゆらり、と陽炎のようにセバスの姿が消える。
あれどうなってんだろ…もうあの人に至っては魔法とかそういうんじゃないんだよホントに。
あんなのに目を付けられたら生きてられないだろうな…
「・・・バケモンだろあの人」
「知らないわよケリー、枕元気をつけてよ」
「やめろ!トリハダ立つわ!」
「さて、帰りましょ。この人達は放置しといていいわよね?」
こくこく、と頷くレオノーラさんと中心とした巫女達と残りの神官たち。私達が部屋を出る時はもう平身低頭で見送られた。
怖いわよねえ、セバスの能力目の当たりにするとねえ。
「んで?俺達どうすりゃいいんだ?」
「え、普通に過ごしてくれればそれで?その指輪も目立つから隠しといてくれていいわよ?」
「いいのかコズエ、いや、コーネリア姫。
騎士として側にいるものじゃないのか?」
「うーん、普通はそうなんだろうけど。
私、言ったじゃない?『自由に生きて欲しい』って。
私の護衛は基本的に彼等がしているから、今後私が『コーネリア姫』として外に出ないと行けない時の対外的な護衛としては指名させてもらうかもしれないけど。キャズもそれでいいよね?」
「わかったわ。騎士の2人より私がいい時もあるわよね。その時はギルドに直接打診して。私が『タロットワークの騎士』になった事はギルドマスターに報告しておくから」
「うん、よろしくね。ディーナとケリーもそれでいい?
王国騎士団には、こちらから使者を送って説明してもらうわ。変に気負わなくていいからね」
なんだか納得してないような顔もしているけど、私が皆の覚悟に応えたいと思った形だよ、と説明すればわかってもらえた。
だって皆自分の人生曲げてでも私を守ってくれようとしたんだよ?それに応えないと…ねえ?
463
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる