異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
147 / 158
2度目の夏至祭

170

しおりを挟む


とてもとても濃かった夏至祭2日目。
もうやり遂げた…!達成感が…!



「はーい、コーネリア様、お風呂からですよー」

「ああああああああついに来てしまったこの日があああああああ」

「さーて、お風呂の後はエステですからね!
安心してください、ちゃーんとご飯の時間もきっちり取ってますからね!」
「往生際が悪いですよコーネリア様。諦めて御用意下さいませ」



私がうだうだしていても、もう慣れたようにターニャとライラがパッパと用意を済ませていく。

お風呂に入れば、湯船にいるうちに手や足、肩のマッサージ。髪を洗ってキレイさっぱり。

上がれば体中にオイルを塗られ、擦り込まれ、パウダーをはたかれ、薄化粧を済まされ、楽な服を着せられてランチ…



「はっ!」

「はーい、ランチですよコーネリア様。
今日はお好きなクラブハウスサンドですよ!」

「いつの間にここに!?」

「なーに言ってるんですかもぉー。食べたらネイルして、お着替えしたらお茶の用意しますからね!今日はこれまでみたいに、向こうでお食事出来ませんからおやつしっかり食べて下さいよ!」
「一応、摘める程度の物は御用意しますが、お時間があるかどうかはわかりませんからね」



てきぱき、てきぱきと用意を済ませられていく私。
ど、どうしよう。シオンさんから貰ったコサージュ…まだ胸に付けるかどうかの心の準備ができてない!!!

『胸に飾るのは求愛プロポーズを受け入れた証』

そんな事をわかっていて尚、平気な顔して付けられる訳がない!だってだって、シオンさんいつの間にそんなのしれっと用意してるのあの人!子供だからって相手してなかったじゃない!

確かに、シオンさんは魅力的だ。
はっきり言って、好きだ。
しかし!私は本気で彼を受け入れる心構えができていない!
未だ、私は還る方法が見つかればそちらを取るつもりでいる。なのに、彼の想いを受け取っていいのだろうか。残される彼の気持ちは?自分の元を去られる経験などさせたくはない。

全てをわかった上で受け入れてくれる。
そんな都合のいい人がいるわけがない。
近衛騎士団副団長、カイナス伯爵家当主。エル・エレミアにおいて盤石の地盤がある彼には、いつか消えてしまう私のような汚点を残す訳にはいかないのだ。



「はい、コーネリア様~腕上げてくださ~い」

「もうドレス着てる!!!」

「どれだけぼんやりしてるんですかもう~」
「コーネリア様、あまり思い詰めてはいけませんよ。お好きなようになさいませ。私達はどんな結末でもお支えします」

「ライラ・・・」

「そうですよぅ、コーネリア様?私達は貴方が大好きなんですから。カイナス様に翻弄されてる事もですけど!」

「あばばばばばば」



翻弄!翻弄と来ましたか!
確かにそうだよなあ。こんな風に恋心に振り回されるのは久しぶりだ。ずっと、こんな感覚忘れていたかも。

全てを話す事はできない。
それでも、今だけは、あの人と向き合ってみようか。
この世界で出会って、惹かれた意味があると思いたい。
この出会いを期に、彼にも新しい出会いが生まれるかもしれない事を信じて。私ではないかもしれない、運命の人に出会うきっかけになるかもしれないのだから。



「・・・ありがとう、2人とも」

「ふふ、ようやく笑ってくれましたね、コーネリア様」
「ええ。・・・こちらのコサージュは、如何致しますか?」



このコサージュは、シオンさんの真心。
だったら、これは彼に任せよう。



********************



「コーネリア様、カイナス伯爵がお迎えに参りました」

「ええ、今行きます」



夕刻、日がゆっくりと落ちる時間帯。逢魔が時とでも言うのだろうか。私はゆっくりと部屋を出て、玄関ホールに繋がる階段をゆっくりと降りる。

玄関で待つ、セバスと会話するシオンさん。
セバスに促され、振り返った彼の瞳が私を認めると、甘く彩られた。
・・・くそー!!!なんだあの顔!!!カメラ!カメラ持ってこい誰か!あれ絶対スチルだろ!!!永久保存!!!



「平常心ですよ、コーネリア様」

「合点ですよライラ先生」



後ろから私の荷物…ストールやバッグを持って付いてきてくれているライラが耳打ち。そうだ平常心だ!落ち着け私!

階段をあと数段残す所で、シオンさんが迎えに来てくれる。
私は差し伸べられた手を、手袋越しに軽く掴んだ。その手をキュッと握り返してくれる。あああああときめくー!



「とても・・・お綺麗です、コーネリア姫」

「ありがとうございます、シオンさん。素敵なドレスやアクセサリー、びっくりしました」

「驚かせたかったので、つい」



ふふ、と笑うシオンさん。
あああ、私を見る視線のなんと甘いことよ。
これは気がなくてもフラっと転んじゃうよホント。

セバスが私にストールをふんわり掛け、ライラが持ってきた荷物を受け取り、馬車まで送ってくれた。馬車には先にシオンさんが乗り、私はセバスの手を借りて乗る。中ではシオンさんが手を引いて席に座らせてくれた。ドレスのね、裾がね…



「コーネリア様、あちらでは旦那様がお待ちでございます。私も後からすぐに参りますので」

「ええ、お願いね」

「承りました。カイナス伯爵、では王宮まで当家の姫君のエスコートをお願い致します。馬車では紳士でお願い致しますよ?」

「勿論です、大切に送り届けさせてもらいます」

「では。良き星夜祭を」



恭しく礼をするセバス。
馬車の扉がパタン、と閉まり、私達はしばしの間、2人きりの時間を過ごす事になった。



********************



カタカタカタ、とゆっくりと馬車は王宮へ進む。
今日はたくさんの貴族が王宮での夜会に出席する。そこで私は『コーネリア・タロットワーク』として正式に夜会でデビューする。
これからは『タロットワーク』として生きていく。・・・元の世界地球へ還るその日まで。



「・・・緊張していますか?」

「しますよそれは・・・もう帰りたいくらいです」

「はは、姫らしいですね」

「シオンさん意地悪です~」

「意地悪は姫もでしょう?・・・俺が贈ったコサージュはお気に召しませんでしたか」



ドッキーーーン!!!ついに来たぁーーー!!!
そうだよね!誤魔化されてくれないよね!
心臓が口から飛び出そうなくらい、動悸が激しい。

私は、そっとセバスが持たせてくれたバッグを開けた。
そこから、コサージュをそっと取り出した。



「・・・えっと。どこから出しました?」

「え?ここからですけど」

「そこに・・・入り・・・ましたか?」



まじまじ、と見るシオンさん。確かに、ボリュームあるコサージュ。クラッチバッグのような小さなバッグだ、普通なら入らない。そう、



「あっ。マジックバッグ、ですか」

「そうです。って、あ」



しまった、マジックバッグって貴重品でした。
魔術研究所で試作品でバカスカ作られてるから、私はあんまり貴重品と思えなくなってるけど、よく考えたら一般的に手に入らないお宝でした。



「いえ、今更コーネリア姫の持ち物に普通の品があるわけないですね」

「えっ、これ、そういうんじゃなくてですね!失敗作というか試供品というか!」

「そういう事にしておきましょうか。こうしてコサージュを持ってきてくださったのですから」



はっ!元の話に戻った!
けれど、きちんと話をしなければ。
私の為にも、彼の為にも。



「シオン、さん」

「はい、姫」

「これ、とても嬉しかったです。と、同時に困りました」

「はい」

「私は、子供・・・ですけど。シオンさんが、好き、です。だけど」

「待ってください、コーネリア姫。俺からも話したい事が」

「ごめんなさい、先に言わせてください。卑怯ですが、私の事、お話します。・・・話せる、限り」



シオンさんは、答える代わりに私の手を軽く手に取って握り返してくれる。手袋越しだけれど、温もりを感じる。
彼の目を見るのが怖い。なんて臆病なんだろう、私。

ひとつ深呼吸をして、話し出す。
王宮に着くまでに、どうか。私に、勇気を。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...