異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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2度目の夏至祭

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振り返り、階段から降りてくる愛しい姫を視界に映す。
ああ、こんなにも、嬉しいものなのか。

愛しい女性が、自分の選んだドレスを纏って自分の所へ来てくれる。自分の為に美しく装ってくれる事の、なんと幸せな事よ。



「とても・・・お綺麗です、コーネリア姫」



自分の声が上擦って聞こえる。
不味いな、浮かれすぎだろう?こんな事では先が思いやられる。これから王宮まで紳士に姫をエスコートしなければならないと言うのに!

ともすれば、心のまま姫を抱き締めてしまいたくなる。
そんな心を読まれたのか、馬車に乗り込んだ際に執事殿に釘を刺された。

わかっています、勿論、手は出しません。
あー、こんな風に葛藤している事もあの執事殿にはお見通しなのだろうな・・・
しかし、コサージュを付けていない事が気にかかる。姫には気に入らなかったのかな?

コサージュの事を聞いてみれば、姫が目に見えて狼狽したのが分かった。そんな反応に自然と笑いが漏れる。・・・嫌われては、いないのだろうな、と。

団長の言ったことが耳に残る。
『追いかけろ、口説き落とせ。追えば逃げるが、諦めなければ姫は絶対お前に落ちる』
姫の様子を見ていれば、本当にそれがひしひしと解る。さて、逃がさないように追い詰めていかなければ。姫の逃れる場所は、自分の腕の中にしかないと気付かせなければね。



********************



膝の上に置いたコサージュ。
白と水色の花、アイスブルーのアクアマリン、金色のリボン。

シオンさんがくれた真心。
きちんと、応えないと。



「私は、貴方が好きです。・・・でも、私はこの先、ずっと貴方の側には居られない。それがこのコサージュを受け取りはしても、付けられない理由です」

「・・・その理由を、詳しくお伺いしても?」

「ごめんなさい、詳しく・・・は、まだ、言えません」

「まだ、という事はそのうち話してくれる気になりますか?」

「えっ、あの、えーと、その」

「なるほど、話す気になってくれるかどうかは、俺次第と言う所でしょうか」

「あの、シオンさん?私、何も」

「いいですよ?それでも。それでも貴方は、俺を選んでくれるのでしょう?姫」



あっ、あれー?どうしてこうなった?
シリアスさんはどこに行った?なんかシオンさんにぐいぐい押されているような気がするんですけど?

シオンさんは距離を詰めるでもなく、軽く馬車の壁に凭れつつ、頬杖をついて私を見つめる。
ああくそー!!!それもスチルなんですか?なんなんですかこれ!



「あの、シオンさん?」

「俺も貴方にきちんとお伝えしなければいけない、と思ってはいるんです。いきなりこんなオジサンが、姫のような若い女性に本気になった訳を話さない事には、真面目に受け取ってもらえないでしょう?」

「ほ、本気、って」

「ですので、今は端的に。詳しい話はそうですね・・・明日以降でどうでしょうか?今宵は星夜祭。楽しく過ごしたいですしね」

「あのー」

「さて、コーネリア姫?俺を受け入れてくれる気持ちが貴方の胸にあるのであれば、俺の想いコサージュを身に付けてもらいたいのですが、如何です?」

「ひいっ」

「そんなに怯えなくても。取って食ったりしませんよ。俺は団長と違って、いくつもりですからね」

「てっ、手順てなんでしょうかっ」

「おや。・・・姫は小悪魔ですね?もう聞きたいのですか?」

「あっ、大丈夫です後でいいです」

「はは、お利口さんだ。さて、コーネリア姫、コサージュを貸してください」

「ハイ・・・」



ダメだなんか負けた気がする。
無理につつくと大変な事しか起きない気がします。
なんだろうこの余裕?こっちは時間をかけても構いませんよ?という大人の余裕ですよ!小憎たらしい!



「ところで、いいのですか?コーネリア姫。コサージュを俺が付けても」

「・・・いいんです。話をして、その結果で、シオンさんに付けてもらおうと思っていたので」

「つまり、姫は俺が受け入れるならば、姫の全てを俺に任せてくれる、という事ですか?いやはや、これはまた情熱的すぎて目眩がしますね」

「えええ!?そこまでの意味は全く!」

「冗談ですよ、ではここでいいですか?」



コサージュを付ける場所。
鎖骨の下あたり、スーツを着ていれば社章とかを付ける辺りだ。ドレスもコサージュを付けてもデザインに支障がないように作られている。

シオンさんの指が、ゆっくりとコサージュの針をドレスへ付けてくれた。ゆっくり離れる瞬間、耳元に降る吐息のような声。



「───愛しています、コーネリア」

「っ!」

「今日だけは、『シオン』と呼んでくれたら嬉しい。2人だけの時だけは、ね」

「ず、ズルくないですか?」

「ん?何が?」

「耳元で囁かないでくださいっ」

「こうやってそっと告げる事で君は俺の事を意識してくれるかなって。駆け引き、かな?」

「も、もう!知りません!の馬鹿!」



ぎゃあああああ、と心の中では悲鳴をあげて悶える私。
耐えろ!耐えるのよ私!さすがにここで発狂する訳には!別の意味で今、SAN値がゴリゴリ削られています!アイデアロールお願いします!そろそろファンブる気がするよ!

しかし無意識に『シオン』と呼んだ事に気付くことなく、シオンさんと反対側を向いて平常心になろうとしている私。
その背後でシオンさんが顔を真っ赤にして目元を手で覆い、『これは卑怯だろ、さすがにこれは不味い、まずいまずいまずい落ち着け俺』と唱えている事に気付かなかった。

そのまま、一言も話せないまま王宮へと馬車が着いた。
シオンさんは私に手を差し伸べ、ゆっくり馬車から降ろしてくれる。



「・・・さて。ゼクスレン様は、と。あそこですね」



馬車がいくつも着く場所。それでも私は1番いい場所に降ろして貰えた。さすがはタロットワークです。
ゼクスさんの隣には、しっかりセバスがいる。…馬車を追い越した…ってことよね?走った?まさかね?



「さて、コーネリアを送り届けて頂き感謝する、カイナス伯爵」

「いえ、滅相もない。確かに送り届けさせて頂きました」

「済まんが、1曲目のダンスが終わるまでは儂が連れていくとするでな。きちんと2曲目には迎えに来てくれんとコーネリアがガッカリするからな」

「な、ゼクスさん!」
「勿論、必ずお迎えに上がります。待っていてくださいね、コーネリア姫」



優しく微笑み、では、と一礼してシオンさんは中の広間に入って行った。続々と到着する貴族達も、扉を入り、広間へと散っていく。

その背を見ながら、私ではなく他の人と寄り添っていたとしても…私は受け入れる、と思った。ダメな女だな、私。あれだけ想いを向けられても、素直に受け取ってあげられない。



「さて、行こうか、コーネリア」

「はい、ゼクスさん。セバスも」

「ええ、お供致しますよ」



*******************



広間には既にかなりの人々がいた。
皆、こぞって着飾り、話をしている。俺も顔見知りの騎士を見かけて共に談笑する事に。彼も俺と同じく、騎士上がりの伯爵だ。



「まあ・・・ご覧になりまして?ほら、あれ・・・」
「あちらにいるのは、タロットワーク大公ですの?」

「庭園に降りてらっしゃるなんて、珍しい。あそこは平民達の為に解放した場ではなかったかしら?」
「あら、隣にいる方は・・・あれが、秘蔵の姫君ですのね」



ざわり、と貴族達の騒めき。
どうやら、ゼクスレン様とコーネリア姫が庭園にいるのを見つけたらしい。確か、庭園で蛍が放されるのを見る約束をした、と言っていたっけ。

夏至祭、最後の夜は王宮で夜会…星夜祭が開かれ、平民達には王宮の庭園が解放され、そこでは蛍が放される。夜の庭園、仄かな魔法の灯りの中、ふわりふわりと蛍が飛ぶ光景はまさに「星夜祭」なのだと話していた。



「・・・懐かしいな、俺も昔はああして庭園で蛍を見た」

「リグルドもか?俺もだよ。懐かしいな」

「悪い、思い出させたか?」

「謝るなって。もう過ぎた事だよ」



そう、俺が庭園で蛍を見たのは、かつての婚約者とだ。
星夜祭の夜会は貴族といっても全てが参加するとは限らない。俺のかつての婚約者は貴族ではあったが、子爵家の令嬢。俺は侯爵家の子息ではあるが、騎士になった事で夜会の参加は強制では無くなっていた。
彼女の提案で、夜会よりも2人で一緒に蛍を見よう…という事で共に見た記憶があった。

だが、あの頃は上から他の知り合いに見つかったらどうしよう、と気が気でなかったような気がする。彼女にもそれは伝わっていただろう。俺はあまりいい婚約者ではなかった。今だから思える、後悔。



「・・・に、しても。やっぱり決まってるなカイナス伯爵」

「何を言ってるんだリグルド。そちらこそよくお似合いで、バルザス伯爵」

「はは、どうにも着慣れない服に着られている気がするよ。シオン、お前今日は誰かをエスコートして来てないのか?」

「何か探りを入れてないか?リグルド」

「いやあ、ははは。実は俺の姉の旦那がアントン子爵と懇意でね」

「あ、の、なぁ?」

「お前に伴侶を探す気概があるんなら、フリージア嬢にもチャンスがあるだろうと思ってさ。ちょっと若いが、子を産むには若い女の方がいいだろうしな」

「はあ・・・リグルド、悪いが」

「ああ、わかってる。お前のはかなりの難敵だぞ?勝算はあるのか?『剣聖』」

「ああ、勿論。彼女の胸にはもう、俺の想いコサージュがあるからね?」

「こりゃ、フリージア嬢は相手にならんな?」



完敗だ、というようにリグルドは両手を挙げた。

眼下には、庭園で蛍を見る幸せそうなコーネリア姫の姿。
その胸には、俺が贈ったコサージュ。

さて、セカンドダンスまでは会場を散策するとしようか。

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