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旅立ち
しおりを挟む「私の家の馬車を使ってください!」
子爵に強く言われたが、そこはやんわりと断りを入れる。
「そこまでお世話になることは出来ません。私達には私達の旅がありますもの。馬車も予約しましたから今さらキャンセルは出来ませんし宿泊をさせていただき、領地の案内までして頂いたこと感謝いたします。ご子息様が帰って来られた際にはどうかよろしくお伝えくださいませ」
実際は同級生であってもちゃんと話をしたことはない。クラスは違うけれど図書館などで顔を合わせたことはあるし挨拶くらい? かしら。悪い印象はない。
「そうですか……道中お気をつけて。もしまた我が領土にお寄りの際には是非我が家へお越しくださると嬉しいです」
お世話になった二日間は、ウォーカー子爵の領土の名産品などを紹介してもらい、乳搾り体験やヨーグルトを作っている所を見学させてもらいとても有意義な時間を過ごすことができた。領民は穏やかな人が多い印象だったし、領主様であるウォーカー子爵に敬意を払いながらも話しかける姿勢や、それに応じ領民と話をする子爵。とても良い関係性なのだと思わされた。
「とても有意義に過ごせました。学ぶ事も多くこちらでの御恩は忘れません」
頭を下げ挨拶をしていると子爵家の使用人が子爵に耳打ちをする。そろそろ予約の時間が近いようね。
「残念ですがタイムリミットのようです。せめてもの気持ちとしてこちらを」
子爵がショーンに渡したものはバスケットで子爵家の名産品とランチが入っていた。
ショーンは子爵と何か話をしていたようだが私とミリーには聞こえなかった。
「それではお嬢様、いきましょうか?」
お嬢様と言っているけれど、ショーンもミリーも私も既に貴族と使用人ではない服装をしている。
ちょっと良いところの一般人という感じ。
「えぇ、行きましょう、それではお世話になりました」
子爵に敬意を払うようにカーテシーをした。それからショーンが予約してくれた馬車に乗った。
「随分と人が少ないのね?」
「……三人分ではなく十人分の席を買いました。長距離を移動するには広い方が良いですから……」
「贅沢ね……」
「人が多いと何かあった時に対処が遅れる可能性もありますからね」
貸し切りにしたから時間が掛かったのね。
******
(ここから時間軸が少し違います)
「ただいま戻りました」
学園が長期休暇に入りウォーカー子爵の息子が帰ってきた。
「おぉ、グレッグ戻ってきたのか、疲れているだろうが少し話を聞きたい!」
子爵は息子グレッグに詰め寄る。執務室へと行き息子に学園で何があったのかと聞く事にした。
「あれ? 父上ご存知なんですか? この件はどこでお聞きになったのですか? 口外しないようにとお達が出ているのに……」
子爵はアリスフィアが子爵領にきていて、宿の女将から貴族だと思われる人が宿泊をしている。と連絡を受けた事を話し出す。
「え? ブラック伯爵令嬢がうちに?! 嘘でしょう?」
驚くグレッグ。それもそのはず、アリスフィアはウォーカー子爵家と反対方面へ行っているはずなのだから……
「いや、事実である。アリス様を間違えるわけない」
何度もパーティーで見かけていた。気品漂う美しい令嬢。しかしシンプルなワンピースを身につけていたアリスは年頃の娘と言った可愛らしい感じもしていた。王族に嫁ぐと言うのは色々と大変なのだろう。そう思った。
「……父上がそう言うのなら間違いないのでしょう。しかし令嬢はクレマンへ行ったと思っていましたが……」
「色々とあるのだろう。しかしなぜ婚約破棄などしたんだ? 第五王子は愚か者なのか?」
「父上、そんな事思っていても口に出してはまずいですよ。僕だからいいものの」
と言い口を噤むグレッグ。
「思っていてもと言う事は、お前もそう思っていると言うことではないか!」
似たもの親子である。
「……生意気だと言う理由で全校生徒がいるパーティーで婚約破棄をするような王子ですから……令嬢は悪くないです。しかも王都から追放とか意味がわかりませんよ。新たに婚約者にすると宣言した方は令嬢の血の繋がっていない親戚筋で……元孤児です」
王子が悪い! とも言ってはいないが言わなくてもそこはわかるだろう。
「よくもまぁ世話になっている家のお嬢様の婚約者を奪おうとしたものだ。アリス様はトップレベルの学力を誇り語学にも優れているんだよな? 件の令嬢はそのアリス様に劣らないと言う事か?」
ある程度の年齢になると婚家に花嫁修行へと行く事になり、その家のしきたりなどを覚える事になる。アリスは一般的な貴族の常識は幼い頃から身についていて、王宮では王族としてのしきたりを習っていた。なので比べようとする方がおかしいことだった。
「……いえ、足元にも及ばないと言ったら失礼にあたるでしょうが、やはり……です」
「だよな。これから王都は大変そうだが私はアリス様の味方で居たいと思う。ここだけの話だが、令嬢の執事の言葉によると恐らくグレマンに向かっていると思う」
「あぁ! なるほど。グレマンですと安全なルートを行くとなるとうちを通りますね。第三王子殿下が小さな声でクレマンと言った時になんとなく違和感を覚えたのですが、そう言う事だったのか……」
ショーンは決してグレマンへ行くとは言わなかったのだが、なんとなーくそれとなーく伝えた。それを子爵は感じとり馬車を出すとまで言っていた。
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