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次の町は川と夕日が美しい

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 長距離を走る馬車は定員が十人だったのだが、ショーンが十人分+チップを払っていたのでそれはそれは広い空間だ。

 御者は緊張していた。いくら安全な道を通るにしてもおそらく十人分を支払って貸切にするようなら富裕層である事は確かだし、貴族の可能性もある。


 もし強盗などに襲われたらどうしようとか、脱輪をしたらどうしようか、横柄な態度に出られたらどうしようかとドキドキしていた。ちなみに御者は三人で交代制だ。


 いつもは二人が御者席に乗り一人は馬車内にいるのだが、今回は中にいる方が地獄……何か失礼があっては命に関わるかもしれない。と三人はぎゅっと詰めて御者席で三人並んで座っていた。


 道中では昼食の為に休憩を取る旨を伝えた。馬車を止め食事やトイレを済ませる。長距離は疲れるので身体を伸ばしたりなどそれぞれ好きに過ごす事となる。


 アリスは御者に声をかけ、ウォーカー子爵から渡された軽食や菓子を渡した。御者は驚きながらもそれを受け取った(断る事は出来ないと思った)


「皆さんもどうぞ。たくさん頂いたので早く食べないと傷んでしまっては勿体無いですから。それにみんなで食べた方が美味しいです」

 にこりと微笑むアリスに御者達は驚きを隠せなかった。御者達にとって富裕層は苦手であった。なぜなら自分達のような人間は下々だとあごで使うような嫌な人間が多い印象だったから。


 休憩を何度か挟み、二日かけて着いた町は川と夕日が美しい伯爵領だった。


 本来ならば三日かかる距離だが、十人乗りの馬車に三人しか乗っていないので、荷物も軽くいつもよりも早く到着した。天候に恵まれたのも功を奏した。


「ありがとうございました」
 
 御者が礼を言うとアリスは首を傾げた。



「お礼なら私たちが言わなくてはなりませんわ。お陰様で無事にこの町に着くことが出来ました」

 ふふっと笑みを漏らす。

「あ、そうだわ。良かったらこれどうぞ」

 アリスは鞄の中からキャンディを出して三人に渡した。

「疲れた時に甘いものを口にするとホッとしますもの。また長距離移動があるのでしょう? お気をつけて」


 休憩所で買ったキャンディを御者に渡した。

「ありがとうございます。お嬢様方もどうかお気をつけて。良い旅を!」

 頭をペコペコと下げて御者達は去っていく。新たに客を乗せ子爵領に移動するのだそう。


「アリス、長旅でお疲れでしょう。まだ半分といったところです。まずは宿を取り馬車の予約をしてきます。ミリーはアリスとカフェで休んでいてくれ」

「えぇ、分かったわ。さぁアリスいきましょうか」


 馬車を降りたらお嬢様ではなくアリスと呼ばれた。設定は守ってくれるらしい。


「えぇ、ショーン兄さんお願いしますね」


 アリスとミリーは近くのカフェへと行った。


 カフェではお茶と焼き菓子を頼み、まったりと過ごした。あとは宿が取れれば問題はない。


 実はこの町、お母様の友人の伯爵家が管理している領地で夕日が美しいと評判である。

 話には聞いていたけれど実際に目にした事はない。見聞を広める為にはも悪くないと思っている自分がいた。


「この町にはカフェが多いのね」


 王都から離れた町で規模は大きくはないがカフェを含む飲食店が多い印象だ。


「えぇ。この町では毎年お菓子のコンテストが開かれていて王都からも人が訪れるほど有名ですよ」


「まぁ。だから伯爵夫人もお菓子作りをされるのかもしれないわね」


 夫人は王都の屋敷で茶会を開くときは手作りのお菓子を振る舞っていた。それがとても好評でよくお土産に持たせてくれた。


 カフェから町並みを眺めていると、ショーンが戻ってきて宿が決まったと教えてくれた。


 早速宿へ向かいチェックインをして身体を休めた。この町では長距離の馬車の予約が取れなかったそうだが、商人と交渉して荷馬車に乗せてもらえることとなった。グレマンまで行く手前の町まで乗せてくれるようだ。

 荷馬車は現地で商品を仕入れてくる為に物を載せないようで人間三人と手荷物くらいなら問題ないみたい。ショーンの交渉術は素晴らしいわね。


 商人に頼むのだからお礼を弾んだのでしょうケド……これで一気にグレマンまでの距離を稼げる事になる。


「急な宿泊だったから夕飯は用意できないようだが近くにレストランがあるからそこで食事をしよう」


 部屋でのんびりとお茶を飲んでいるとそう言ってきたので、簡単な服に着替えてレストランへと行った。

 高級レストランではなく一般のお客さんがわいわいと楽しむ町のレストランだった。

「お魚がとても美味しいわ」


 川魚の香草焼きが出てきたが新鮮でとても食べやすく白ワインにとても合う。

「ワインは一杯までですよ、アリスは強くないのですから」


 マリーにストップをかけられた。ショーンもミリーもアルコールが強い。そんな二人から見たら私は弱いのだろう。


「きゃぁぁっ」


 悲鳴が聞こえて、そこには倒れ込み息の浅い男性の姿が。


「スティーブ! スティーブ!」

 泣きながら男性の名前を呼ぶ女性。周りもオロオロしていて、スタッフが男性の背中を摩っていた。




「まぁ、過呼吸だわ! 大変」

 アリスがそう言い男性の近くに駆け寄った。

「「アリス!」」

 ショーンとミリーが止める前にアリスが駆け出してしまったので慌ててアリスの後を追う。


「失礼します。この方のお名前はスティーブさんでよろしいのですか?」

 連れの女性に確認をすると、頷く。



「スティーブさん、聞こえますか? ゆっくり息を吐いて下さい。ゆっくりですよ。吸って、吐いてー、ゆっくりですよ? 上手ですね。スティーブさん続けましょう」

 そう言ってスティーブを落ち着かせて呼吸を安定させた。

 これでヨシっと!








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