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ウォーカー子爵は賢い
しおりを挟む「いえ、そう言うわけにはいきませんわ。わたくしは現在貴族の娘ではありませんもの。単なる一般人が領主の家へ泊まるなんてあり得ませんもの。子爵に迷惑がかかってしまいます」
アリスもミリーもショーンも子爵家に泊まる理由はない。と言う。
「アリス様は息子の同級生です。息子の同級生を泊めるのは当然のことではありませんか? 不思議でも何でもありません」
そう来たか……流石に伊達に歳を食っているわけではなさそうだ。それに真意は伝わっているのね……現在私は一般人。かたや子爵家の当主。子爵にそこまで言われてお断りをするのは失礼にあたる。
ショーンとミリーを見遣ると、頷いていた。お言葉に甘えると言う事ね。
「子爵様、それではお言葉に甘えましてお世話になりますわ」
大人しく子爵の言葉に甘える。
「はい、それでは部屋にご案内をします。あぁ、そうだ。宿に荷物がございましたらうちの使用人に取りに行かせます。しかしアリス様の荷物に手を触れるのは憚れます。宜しかったら馬車を出しますのでアリス様のお付きの方もご同行願えたら助かります」
常識的な方で気遣いも出来る。
「それでは私が。ミリーはお嬢様に付いていてくれ」
執事の姿をしたショーンが言う。
「えぇ。分かりました」
その後ランチをとり、私とミリーは客室へショーンは宿へと荷物を取りに向かった。
「ねぇミリー」
「はい、なんでございますか?」
「こういうことがあるって予想していたのね?」
私だけバカみたいじゃない……
「私達はどういう状況になってもお嬢様をお助けするのが使命だと思っております。他にもお嬢様についていきたいと言っていた者もいたのですが、私とショーンに任せると言い送り出してくれました。ですのでお嬢様と旅をするのは楽しいです。何があっても私達が対処しますよ」
子爵に会ったのも偶然だったし……宿もたまたまショーンが探してくれたのだもの。
「ありがとう。頼りになるわね。これからもよろしくね」
******
「女将さん、これ残り二日分の宿代です」
ショーンは泊まっていた宿に支払いを済ます。三日間の宿泊予定だったが、キャンセルすることになり宿に迷惑がかかってしまう。
「良いんだよ、その分お客さんを泊めれば良いんだからさ」
「いいえ。三泊で三人分の宿泊がなくなるとなると困りますよね? これは気持ちですので受け取ってください。それに子爵様にご連絡もいただいたのですし」
宿の女将に宿泊費を渡すショーン。
「まぁね、見るからに高貴な方とわかる品の良さだったからね。貴方様に尋ねた時に否定はしなかったからこれは訳ありだと思ったけれど、犯罪者ではないと言うのも目に見えて分かったし、貴族様の難しいしきたりなどは解りゃしないけれど、子爵様とはそう言う約束になっていてね」
女将はそう言うが、怪しい客が宿泊するとなったら不審に思い誰かに相談するだろうし、逆に高貴な人となるとまた相談をしたくなる。貴族相手に粗相をしたくないし、面倒だろう。子爵に直接連絡してくれたのはたまたまだがうまく行ったと思う。
お嬢様があのバカ王子に婚約破棄をされた事はもうすぐ広まるだろう。じき学園は長期休みに入り、寮にいる生徒は皆家に帰る事になる。家に帰ると学園であった事を話すだろうからあっという間に国中の貴族の耳に入ることとなる。学園であった事を家で話し、茶会などで話題になる。
そしてその頃には陛下も旦那様も帰国されこの件を知る事になる。
その前に王太子殿下やクレイグ様が戻ってくる。
お嬢様が現在どう言う立場か知ったら何があったかすぐに調べてくれるだろう。
その頃にはお嬢様はグレマン領にいる事になるのだが……何が待ちかねているかは未知数だ。第三王子が連絡を入れてくれていると思う。
グレマン領は国の端にある場所。先代から隣国のとの諍いは少なくなり、輸入にも力を入れているし、武力に優れていることから悪さをするものには厳しい処置をすると言うことで有名。領民もそんな領主を慕っているそうだ。犯罪率は少ないと聞く。最近では紅茶の栽培も盛んで良質な茶葉は王室御用達となっている。
荷物を持ち女将に礼を言った。
「まさか首都の伯爵家のご令嬢だとは思わなかったよ。こんな宿に来られるような身分の方じゃないから驚きだ」
「お嬢様は女将の料理をおいしいと言っていましたよ。お世話になりましたし、気を使わせてしまいましたね。ブラック伯爵家のアリスフィアお嬢様の付き人としてお礼を言います」
ここでしっかりと名前を出しておけば、後々婚約破棄の噂が立った時も悪くは思われないだろうし、何かあった時にお嬢様を悪く言うことはないだろう。
「首都の貴族のお嬢様と言ったら我儘三昧だと思いきや、あのお嬢様は違うんだね。貴族のお嬢様の見方が変わったよ」
これで良い。
ウォーカー子爵はお嬢様の隠している言葉の部分にもしっかり対応していた。細かい気遣いもできるし賢い方だ。何かあった時は味方になってくれそうだ。
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