あなたの愛はもう要りません。

たろ

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6話  ダイガット。

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「はあ……どうしていつもビアンカの前ではこうなるんだ」

 ビアンカが冷たい表情を全く崩さず俺の部屋から出て行った。

 もともと結婚なんてしたくはなかった。17歳は早い。

 しかし、政略結婚に子供の意思なんて必要ない。いずれ侯爵家を継ぐ者として、拒否権なんてない。

 でもまさかビアンカと結婚なんて………



 幼い頃。
 彼女に初めて会ったのは王太子殿下の側近候補として遊び相手に王城へと登城していた時だった。

 ビアンカは母親に連れられ楽しそうに庭園を走り回っていた。

「かあさま!はやくはやく!ここにきれいなおはながさいているわ!」

「わかったわ、すぐに行くわ」

 ビアンカの母はとても美しく子供の俺が見惚れてしまうくらい目を惹く女性だった。その娘もまた愛らしく、とても可愛かった。

「おい、ダイ、何見てるんだ?」

「殿下……あそこの親子は誰でしょう?」

「ミラー伯爵夫人とビアンカだよ」

「……ビアンカ」

「僕の母と夫人は従姉妹なんだ。遠縁になるのかな」

「そうですか……」

 殿下が横で話してくれているのに耳に入らない。

 ビアンカの笑顔に目が奪われた。

 多分あれが俺の初恋。

 なのに今の彼女との関係は冷たい状態が続いていた。

 本当はビアンカにお土産のお菓子を渡すつもりだった。

 バァズと楽しそうに笑い、美味しそうにお菓子を食べている姿に、苛立ちと悔しさが募った。

 ビアンカが笑顔を向けるのがどうして俺じゃない?




 フランソアに強請られ放課後、生徒会活動が終わってからパティスリーへ行った。

 別に二人でのんびりとしていたわけではない。

「ダイガット、ソフィアパティスリーに予約しているの。ついて来てくれないかしら?お義母様に買いに行くように頼まれているの」

 フランソアとは幼馴染だ。

 彼女は、幼い頃に母を亡くし新しい母がやって来た。

 義母とうまくいかず、よく俺の屋敷にやって来ては泣いていた。

「泣かないで」

「だってお義母様から叱られてばかりなの」

 フランソアは義母に虐げられているようだった。

「僕が守ってあげる」

 それは幼い頃の正義感からだった。



 それからはフランソアのそばにいて、いつも泣いている彼女の話を聞いてあげたり、屋敷に居づらいと泣いた時には我が家に泊めてあげたりもした。

 俺にとってフランソアは幼馴染で妹みたいで、守ってあげなければいけない存在だった。

 今日も義母に命令されてお菓子を買いに行かされた。

 だから付き合ったのだが。

 ビアンカにもお菓子をお土産に買って帰れば喜ぶと思ったのに、あの冷たい態度はなんなんだ。

 結婚して、どう向き合えば良いのか分からず、フランソアに相談したら、ビアンカも戸惑っているだろうから、しばらくはそっとしてあげたほうがいいと言われた。

 そうこうしている間に気がつけば一年が過ぎていた。

 いや、ただ、もうどう話しかければいいのか分からず彼女に対してずっと目を逸らしてきた。

 学園で彼女を見かけても、話しかけようとしてもすぐに去っていく。

 屋敷でビアンカを探してもなかなか会うことができなかった。

 結婚しているのに屋敷で会えないなんて……

 勉強と生徒会、侯爵家の跡取りしとしての仕事、さらに殿下の側近としてそばにいることが多く王城で過ごす時間も多い。ビアンカと関わる時間はあまりなかった。

 今日、勇気を出して声をかけたのに、無視された。

 俺自身の態度が悪いのは自分でもわかっている。それでもなんとか歩み寄ろうとしたのに……

 くそっ。


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