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5話
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ダイガットの後ろについていくと、階段を上がる。
私が踏み入れてはいけないと義母に言われた場所。
結婚して一年。
政略結婚で、父に捨てられた私はこの屋敷で一応彼の妻、そして、『使用人』としての立場で暮らしている。
彼もそれを承知しているはず。なのに今日はどうして2階へと連れてきたのだろう。
メイドですら2階に来て掃除やお茶出し、主人の世話をするのに私は絶対に2階に上がる許可は出ない。
それはこの屋敷の使用人ですらないと言われているようで、少し寂しくもあり……でも、学園を卒業すれば離縁してここを出ていくつもりなので、なんの心残りもなく去っていけるかもしれないとも思う。
離縁してもらえればなのだけど。
「入れ」
冷たくひと言言うと、さっさと部屋に入ったダイガット。
私はやはり躊躇わずにいられない。
もしこの部屋に入れば、後々、部屋に入ったことを知った義母になんと言われるのだろう。
「何をしている、さっさと入れ」
「………」
「そこに座れ」
「…………」
一人用のソファに座るように指示され仕方なく座った。
ダイガットは、肘掛けに手を置き、忙しなく指を動かしていた。
イライラしているのだろう。
「君はバァズと仲がいいんだな」
ああ、楽しそうに話しているのを見られたんだった。
「幼馴染なんです」
「ふうん」
「フランソア様とダイガットと同じですわ」
にこり。
「だから、あなたと同じよ、浮気だなんて思っていないわ」と彼にわかるように微笑んで見せた。
「はっ、同じ?」
「ええ、幼馴染なんですもの」
「あっ………でも、私はバァズと腕を組んで歩いたりはしないわ……そこがちょっと違うかしら?」
ふふふっともう一度笑ってみせた。
「ふざけているのか、フランソアは僕にとって大切な幼馴染なんだ」
「あ、それも私と同じです。バァズは私にとって(弟みたいで)大切なんです」
話はそれだけなのかしら?と、どうしてわざわざここに呼んだのか不思議な顔をして彼を見た。
「………どうして、君は夕食の時間に顔を出さないんだ?」
え?今更⁈一年も経った今頃そんなことを聞くの?
驚いた顔をした私の反応に眉根を寄せて私を睨むダイガット。
「………その場所に私の料理はありましたか?」
「…………」
返事をしようとしないダイガットは思い出しているようだった。
「………覚えていない」
「侯爵夫人に、私の席はないと言われております」
「………嘘だろう?」
「あの、今更ですか?一年も経っているのに……」
呆れ気味に思わず呟いた。
「……俺は……毎日勉強と鍛錬で忙しく、家族で食事をすることはない……」
「なるほど」
「今日は……フランソアとカフェへ行って、お土産にお菓子を買った……だから、食べてもらおうと久しぶりにみんなと食べようと思ったんだ」
「まぁ、私が結婚してからは初めてですか?」
「……いや、たまには家族と食べている」
「ですよね?そこに私がいなくても今まで違和感はなかったのだろうと思われますが?」
「………君は無理やり僕と結婚させられて意固地になっていると聞いていたんだ」
「ならばそう思っていれば良いのでは?」
別にどう思われても構わないし。
「………たまたま使用人が話しているのが聞こえたんだ………母が機嫌が悪いのでビアンカが食堂から出られないでいると……使用人に問いただしたら……君はいつも食堂で使用人と同じ食事を摂っていると聞いたんだ」
「毎日とても美味しくいただいておりますわ」
嫌味ではなく本当に料理人たちの愛情がこもっているもの。
「……どうして今まで俺に言わなかった?」
あら?僕から俺に変わってるわ。
「……特に困っているわけでもないし、侯爵家の使用人は皆とても優しいし家族みたいで大好きなんです」
「………使用人が?家族?」
「はい、結婚して全く知らない場所に嫁いで、心細かった私に皆とても優しいんですよ?」
あなた達侯爵家の人たちと違って。
ダイガットはなぜか傷ついた顔をしたけど、「これ以上ここに居たら侯爵夫人に知られたら叱られてしまいますわ」としっかり彼に伝えて部屋を出た。
「待て、なぜ夫婦なのに俺の部屋に居ることが叱られるんだ?」
「それは……貴方は何も知ろうとしないのですね?」
呆れてこれ以上何も言う言葉は出なかった。
私が踏み入れてはいけないと義母に言われた場所。
結婚して一年。
政略結婚で、父に捨てられた私はこの屋敷で一応彼の妻、そして、『使用人』としての立場で暮らしている。
彼もそれを承知しているはず。なのに今日はどうして2階へと連れてきたのだろう。
メイドですら2階に来て掃除やお茶出し、主人の世話をするのに私は絶対に2階に上がる許可は出ない。
それはこの屋敷の使用人ですらないと言われているようで、少し寂しくもあり……でも、学園を卒業すれば離縁してここを出ていくつもりなので、なんの心残りもなく去っていけるかもしれないとも思う。
離縁してもらえればなのだけど。
「入れ」
冷たくひと言言うと、さっさと部屋に入ったダイガット。
私はやはり躊躇わずにいられない。
もしこの部屋に入れば、後々、部屋に入ったことを知った義母になんと言われるのだろう。
「何をしている、さっさと入れ」
「………」
「そこに座れ」
「…………」
一人用のソファに座るように指示され仕方なく座った。
ダイガットは、肘掛けに手を置き、忙しなく指を動かしていた。
イライラしているのだろう。
「君はバァズと仲がいいんだな」
ああ、楽しそうに話しているのを見られたんだった。
「幼馴染なんです」
「ふうん」
「フランソア様とダイガットと同じですわ」
にこり。
「だから、あなたと同じよ、浮気だなんて思っていないわ」と彼にわかるように微笑んで見せた。
「はっ、同じ?」
「ええ、幼馴染なんですもの」
「あっ………でも、私はバァズと腕を組んで歩いたりはしないわ……そこがちょっと違うかしら?」
ふふふっともう一度笑ってみせた。
「ふざけているのか、フランソアは僕にとって大切な幼馴染なんだ」
「あ、それも私と同じです。バァズは私にとって(弟みたいで)大切なんです」
話はそれだけなのかしら?と、どうしてわざわざここに呼んだのか不思議な顔をして彼を見た。
「………どうして、君は夕食の時間に顔を出さないんだ?」
え?今更⁈一年も経った今頃そんなことを聞くの?
驚いた顔をした私の反応に眉根を寄せて私を睨むダイガット。
「………その場所に私の料理はありましたか?」
「…………」
返事をしようとしないダイガットは思い出しているようだった。
「………覚えていない」
「侯爵夫人に、私の席はないと言われております」
「………嘘だろう?」
「あの、今更ですか?一年も経っているのに……」
呆れ気味に思わず呟いた。
「……俺は……毎日勉強と鍛錬で忙しく、家族で食事をすることはない……」
「なるほど」
「今日は……フランソアとカフェへ行って、お土産にお菓子を買った……だから、食べてもらおうと久しぶりにみんなと食べようと思ったんだ」
「まぁ、私が結婚してからは初めてですか?」
「……いや、たまには家族と食べている」
「ですよね?そこに私がいなくても今まで違和感はなかったのだろうと思われますが?」
「………君は無理やり僕と結婚させられて意固地になっていると聞いていたんだ」
「ならばそう思っていれば良いのでは?」
別にどう思われても構わないし。
「………たまたま使用人が話しているのが聞こえたんだ………母が機嫌が悪いのでビアンカが食堂から出られないでいると……使用人に問いただしたら……君はいつも食堂で使用人と同じ食事を摂っていると聞いたんだ」
「毎日とても美味しくいただいておりますわ」
嫌味ではなく本当に料理人たちの愛情がこもっているもの。
「……どうして今まで俺に言わなかった?」
あら?僕から俺に変わってるわ。
「……特に困っているわけでもないし、侯爵家の使用人は皆とても優しいし家族みたいで大好きなんです」
「………使用人が?家族?」
「はい、結婚して全く知らない場所に嫁いで、心細かった私に皆とても優しいんですよ?」
あなた達侯爵家の人たちと違って。
ダイガットはなぜか傷ついた顔をしたけど、「これ以上ここに居たら侯爵夫人に知られたら叱られてしまいますわ」としっかり彼に伝えて部屋を出た。
「待て、なぜ夫婦なのに俺の部屋に居ることが叱られるんだ?」
「それは……貴方は何も知ろうとしないのですね?」
呆れてこれ以上何も言う言葉は出なかった。
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