あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
5 / 125

5話

しおりを挟む
 ダイガットの後ろについていくと、階段を上がる。

 私が踏み入れてはいけないと義母に言われた場所。

 結婚して一年。

 政略結婚で、父に捨てられた私はこの屋敷で一応彼の妻、そして、『使用人』としての立場で暮らしている。

 彼もそれを承知しているはず。なのに今日はどうして2階へと連れてきたのだろう。

 メイドですら2階に来て掃除やお茶出し、主人の世話をするのに私は絶対に2階に上がる許可は出ない。

 それはこの屋敷の使用人ですらないと言われているようで、少し寂しくもあり……でも、学園を卒業すれば離縁してここを出ていくつもりなので、なんの心残りもなく去っていけるかもしれないとも思う。

 離縁してもらえればなのだけど。

「入れ」

 冷たくひと言言うと、さっさと部屋に入ったダイガット。

 私はやはり躊躇わずにいられない。

 もしこの部屋に入れば、後々、部屋に入ったことを知った義母になんと言われるのだろう。

「何をしている、さっさと入れ」

「………」

「そこに座れ」

「…………」

 一人用のソファに座るように指示され仕方なく座った。

 ダイガットは、肘掛けに手を置き、忙しなく指を動かしていた。

 イライラしているのだろう。

「君はバァズと仲がいいんだな」

 ああ、楽しそうに話しているのを見られたんだった。

「幼馴染なんです」

「ふうん」

「フランソア様とダイガットと同じですわ」

 にこり。
 「だから、あなたと同じよ、浮気だなんて思っていないわ」と彼にわかるように微笑んで見せた。

「はっ、同じ?」

「ええ、幼馴染なんですもの」

「あっ………でも、私はバァズと腕を組んで歩いたりはしないわ……そこがちょっと違うかしら?」

 ふふふっともう一度笑ってみせた。

「ふざけているのか、フランソアは僕にとって大切な幼馴染なんだ」

「あ、それも私と同じです。バァズは私にとって(弟みたいで)大切なんです」

 話はそれだけなのかしら?と、どうしてわざわざここに呼んだのか不思議な顔をして彼を見た。

「………どうして、君は夕食の時間に顔を出さないんだ?」

 え?今更⁈一年も経った今頃そんなことを聞くの?

 驚いた顔をした私の反応に眉根を寄せて私を睨むダイガット。

「………その場所に私の料理はありましたか?」

「…………」

 返事をしようとしないダイガットは思い出しているようだった。

「………覚えていない」

「侯爵夫人に、私の席はないと言われております」

「………嘘だろう?」

「あの、今更ですか?一年も経っているのに……」

 呆れ気味に思わず呟いた。

「……俺は……毎日勉強と鍛錬で忙しく、家族で食事をすることはない……」

「なるほど」

「今日は……フランソアとカフェへ行って、お土産にお菓子を買った……だから、食べてもらおうと久しぶりにみんなと食べようと思ったんだ」

「まぁ、私が結婚してからは初めてですか?」

「……いや、たまには家族と食べている」

「ですよね?そこに私がいなくても今まで違和感はなかったのだろうと思われますが?」

「………君は無理やり僕と結婚させられて意固地になっていると聞いていたんだ」

「ならばそう思っていれば良いのでは?」

 別にどう思われても構わないし。

「………たまたま使用人が話しているのが聞こえたんだ………母が機嫌が悪いのでビアンカが食堂から出られないでいると……使用人に問いただしたら……君はいつも食堂で使用人と同じ食事を摂っていると聞いたんだ」

「毎日とても美味しくいただいておりますわ」

 嫌味ではなく本当に料理人たちの愛情がこもっているもの。

「……どうして今まで俺に言わなかった?」

 あら?僕から俺に変わってるわ。

「……特に困っているわけでもないし、侯爵家の使用人は皆とても優しいし家族みたいで大好きなんです」

「………使用人が?家族?」

「はい、結婚して全く知らない場所に嫁いで、心細かった私に皆とても優しいんですよ?」

 あなた達侯爵家の人たちと違って。

 ダイガットはなぜか傷ついた顔をしたけど、「これ以上ここに居たら侯爵夫人に知られたら叱られてしまいますわ」としっかり彼に伝えて部屋を出た。

「待て、なぜ夫婦なのに俺の部屋に居ることが叱られるんだ?」

「それは……貴方は何も知ろうとしないのですね?」

 呆れてこれ以上何も言う言葉は出なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ
恋愛
「赤ちゃんができたの」 母の言葉に目眩がした。 我が家の両親は恋愛結婚。身分差から駆け落ち同然で一緒になった二人は未だにその愛は消えず、燃え上がり続けているのだからある意味凄いわ。 でもね? どうしてそんなにも子どもを作ってしまうの⁉ 私を入れて子どもは七人。お父さんの給料ではお手伝いさんなんか雇えるわけもなく、おっとりしたお嬢様気質の抜けないお母さんだけで家事育児などできるはずもなく。 そうなると働き手は長女の私だ。 ずっと小さな頃から弟妹のお世話と家事に明け暮れ、それなのにまだ産むと言うの? 「……ねえ、お母さんにとって子どもって何?」 「うふふ。それはね、愛の結晶よ」 愛。愛って何? 私はあなたの愛のために働き詰めなのですけど? 自分達の手に余るなら、そんなモノなど捨ててしまえっ! ❦R-15は保険です。 連載中のものが止まったままのくせに!とは言わないで(泣) 現在、作業中のものがなかなか終わらなくて息抜きのための不定期連載です。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる

春野オカリナ
恋愛
 初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。  それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。  囚人の名は『イエニー・フラウ』  彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。  その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。  しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。  人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。  その手記の内容とは…

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

ガネット・フォルンは愛されたい

アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。 子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。 元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。 それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。 私も誰かに一途に愛されたかった。 ❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。 ❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。

処理中です...