4 / 62
4話
しおりを挟む
「そろそろ仕事をしよう」
机に向かい書類に目を通す。
私の仕事はほとんど事務仕事。
書類作成や経理などで重要な決済や侯爵家が行なっている事業にはもちろん関わっていない。
たくさんの請求書を纏めたり、帳簿をつけたりする。屋敷で妻が行うであろう表の仕事は義母が行い、面倒な裏方が私に回ってくる。
これだけ大きな屋敷なのでお金の動きも大きい。
毎日毎日、減ることのないこの仕事。今までは、執事が行なっていたらしい。
「早く終わらせないと寝る時間がなくなっちゃう、それにお腹も空いたし、さっさとやってしまおう」
結婚して1年も経てば要領も良くなり、それなりに手際良く仕事もこなせる。
ただ……夕食の時間になっても私は呼んでもらえない。
ひたすら仕事をし終わったら、使用人たちが食事をする食堂へ行く。
「あ、ビアンカ様!すぐに用意します」
みんな慣れているので私の顔を見るとすぐに食事の用意をしてくれる。
侯爵家の豪華な料理が並ぶこともなくみんなと同じ料理。
でも美味しいのよね。
大きな鍋でたくさんの野菜を煮込んだクリームスープに大きな釜で焼いたふわふわのパン。
みんなが私があまりにも痩せていると心配して「奥様たちに出したあまりで申し訳ございません」と言いながらも、お肉の切れ端をステーキにして焼いてくれたりするし、必ず一品はボリュームのあるものをこっそり出してくれる。
使用人たちはみんなとても優しい。
「美味しい」
スープをいただきながら幸せ気分に浸っているとメイド長がやってきた。
「ビアンカ様、今日は奥様が少しご機嫌斜めでございます。できるだけ顔を合わせないようにしばらくこちらにいたほうがいいかもししれません」
「わかったわ、ダイガットはまだ帰っていないのかしら?」
「まだお帰りになっていないようです」
「そう……じゃあ、みんなの邪魔になるかもしれないけど、ここにいさせてね?」
父に無理やり嫁ぐように言われ、二度と屋敷に帰ってくるなと言われて、ここでは地獄の日々⁈なんて思っていたけど、使用人はみんな優しくて温かい。
メイド長はお母様と変わらない歳のせいか、私自身、彼女を母親のように慕っている。
紅茶を出して優しく微笑んでくれた。
「待っている間、ゆっくりしてください」
彼女たちといる時はホッとする時間。
屋敷の中ではいつも気を張り詰めて過ごさなければいけないのでとてもありがたい。
しばらくのんびりと過ごしているとガチャっと扉を開け、冷たい空気が部屋の中に入ってきた。
使用人たちは固まった。
おしゃべりしていたのにシーンとなった。
「………ビアンカ、話がある」
「私は特にないわ」
「ふざけるな、さっさとついて来い」
「ハア……」
仕方なく席を立ち、彼の後ろについていく。
使用人たちが心配そうに見送るのを感じて「心配しないで」と肩をすくめ笑ってみせた。
机に向かい書類に目を通す。
私の仕事はほとんど事務仕事。
書類作成や経理などで重要な決済や侯爵家が行なっている事業にはもちろん関わっていない。
たくさんの請求書を纏めたり、帳簿をつけたりする。屋敷で妻が行うであろう表の仕事は義母が行い、面倒な裏方が私に回ってくる。
これだけ大きな屋敷なのでお金の動きも大きい。
毎日毎日、減ることのないこの仕事。今までは、執事が行なっていたらしい。
「早く終わらせないと寝る時間がなくなっちゃう、それにお腹も空いたし、さっさとやってしまおう」
結婚して1年も経てば要領も良くなり、それなりに手際良く仕事もこなせる。
ただ……夕食の時間になっても私は呼んでもらえない。
ひたすら仕事をし終わったら、使用人たちが食事をする食堂へ行く。
「あ、ビアンカ様!すぐに用意します」
みんな慣れているので私の顔を見るとすぐに食事の用意をしてくれる。
侯爵家の豪華な料理が並ぶこともなくみんなと同じ料理。
でも美味しいのよね。
大きな鍋でたくさんの野菜を煮込んだクリームスープに大きな釜で焼いたふわふわのパン。
みんなが私があまりにも痩せていると心配して「奥様たちに出したあまりで申し訳ございません」と言いながらも、お肉の切れ端をステーキにして焼いてくれたりするし、必ず一品はボリュームのあるものをこっそり出してくれる。
使用人たちはみんなとても優しい。
「美味しい」
スープをいただきながら幸せ気分に浸っているとメイド長がやってきた。
「ビアンカ様、今日は奥様が少しご機嫌斜めでございます。できるだけ顔を合わせないようにしばらくこちらにいたほうがいいかもししれません」
「わかったわ、ダイガットはまだ帰っていないのかしら?」
「まだお帰りになっていないようです」
「そう……じゃあ、みんなの邪魔になるかもしれないけど、ここにいさせてね?」
父に無理やり嫁ぐように言われ、二度と屋敷に帰ってくるなと言われて、ここでは地獄の日々⁈なんて思っていたけど、使用人はみんな優しくて温かい。
メイド長はお母様と変わらない歳のせいか、私自身、彼女を母親のように慕っている。
紅茶を出して優しく微笑んでくれた。
「待っている間、ゆっくりしてください」
彼女たちといる時はホッとする時間。
屋敷の中ではいつも気を張り詰めて過ごさなければいけないのでとてもありがたい。
しばらくのんびりと過ごしているとガチャっと扉を開け、冷たい空気が部屋の中に入ってきた。
使用人たちは固まった。
おしゃべりしていたのにシーンとなった。
「………ビアンカ、話がある」
「私は特にないわ」
「ふざけるな、さっさとついて来い」
「ハア……」
仕方なく席を立ち、彼の後ろについていく。
使用人たちが心配そうに見送るのを感じて「心配しないで」と肩をすくめ笑ってみせた。
1,475
あなたにおすすめの小説
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる