あなたの愛はもう要りません。

たろ

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18話

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「あら?」

 楽しそうに話しかけてきたのはフランソア様だった。

 そういえば今夜はこの屋敷に泊まると言っていたな。

 ぼんやりと彼女を見ているとフランソア様は私の様子をまじまじと見つめた。

 お互い目が合い……私は彼女に特になにか話したいこともないし、とりあえず無視することにした。

 ベッドに横になっているので布団を頭まで被せて寝る。

 うん、関わらないが一番。

「ビアンカ様……貴女がいくらダイガットに媚を売ろうと、気を引こうと、彼が好きなのはわたくしなの」

 はい、知ってます。
 布団から顔を出さずに心の中で返事をする。

「ダイガットが貴女なんて構うわけがないでしょう?たかが使用人のくせに!さっさとこの屋敷から出て行きなさい」

 はい、私も出て行きたいです。
 でも今出て行けば学園を中退することになり、外国へ行ってもまともな職につけないんだもの。
 ここにいるのは背に腹は代えられないってやつだわ!
 仕方がないの。
 ダイガットたちに嫌われていてもこの屋敷で使用人として扱われても、とりあえず卒業までの辛抱だもの!

「お金が欲しいなら恵んであげるわ!目障りなの!ダイガットはわたくしのものなの。彼と結婚するのはわたくしだとずっと決めているの!
 ダイガットはずっとわたくしを守ると約束したのよ?突然現れてわたくしの前をうろちょろするなんてほんと、目障りだわ」

 チッと舌打ちするフランソア様。

 あの儚げでか弱いのは演技?うん、知っていたけど。

 あざとさだけなら多分学園で一番かも。

「貴女、聞こえているのに返事すらしないの?ほんと鬱陶しい!」

「………」

 黙っていると突然クスクス笑い出した。

「この部屋を見ればわかるわ。貴女って愛されてないどころかおじさまやおばさまにも邪険に扱われているのね?なんてみすぼらしい部屋!
 ここは日のあたりも悪く使用人部屋よね?結婚してるなんて誰も信じないでしょうね?夫に嫌われ、夫の両親にも嫌われ、使用人のように扱われてる。
 わたくしのようにダイガットに大切にされ、たくさんの人たちに愛されているのを見て羨ましいでしょう?うふふふっ」

 うーん、全く羨ましくないです。好きでもない人に愛される必要はないし。

「聞いたわ。貴女、父親に捨てられてこの屋敷に無理やり嫁がされたのでしょう?捨てられて利用されて、惨めよね?」

 嘲りと侮辱。

 この言葉にすら反応なんてしない。そう、絶対しない!

 布団の中でグッと手を握りしめた。

『うるさい!』
 本当はそう言い返したかった。でも、我慢した。この人と同じ目線で話すことは難しいだろうと思った。相手にするのも馬鹿らしい。

「ふふふふっ。本当のことを言われて何も言い返せないのね?ああ、楽しいわ!
 ダイガットはわたくしを可哀想だと思ってる。でも本当に可哀想なのは貴女よね?だって誰にも愛されていないのだもの」

 本当のことを言われて言い返すことができなくなった。

 うん。私は父に捨てられた。継母たちからも疎まれ嫌われた。この屋敷でも使用人たちからは優しくしてもらえたけど、侯爵家の人達からはいまだに嫁として認めてもらえないし嫌われてる。

 フランソア様のようにあざとくできないし、猫被ることもできない。義母たちのご機嫌をとってまでここの屋敷にいたいとも思わない。
 まぁ、あと二年なんとかここに置かせてもらいたいから、仕事も頑張ってるし、小銭稼ぎも頑張ってはいるけど。

 布団をかぶっているせいかまた頭がボーッとしてきた。熱が上がってきたみたい。フラフラする。

「………フランソア様……まだお話は続きますか?そろそろ私……眠りたいのですが」

「まぁ!やっと返事をしたと思ったら態とらしい!何が眠りたいよ?出て行きなさいよ!さっさと!」

 フランソア様は布団を剥いで寝ているわたしに向かって、サイドテーブルに置いてあったピッチャーの蓋を開けてバシャッと水をかけた。

「ふんっ!いい気味よ!惨めな貴女にピッタリだわ!」

 満足したのかフランソア様は部屋を出て行った。

 義母は出てきて、濡れて惨めな私に「何も言い返すこともできないなんて、呆れるわね」と冷たく視線を投げつけ、部屋を出て行った。

 フラフラしながら濡れた服を着替えながら、制服のままだったことを思い出した。

 明日、こんなしわくちゃのボロボロの制服で学校に行くことになると思うと、さらに惨めな気持ちになった。

 義母が隠れたのは、使用人にみられたくなかったからなのかとなんとなく理解した。

 私に会いにきたことを知られたくなかったのだろう。

 その夜、ひとり高熱の中、苦しんだ。

 お母様に会いたい………その言葉を口に出すことはない。もし出したならば……もう我慢できない……大泣きしてしまうから……







 夜中、誰かが私を看病してくれたことなど全く気が付かなかった。










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