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19話
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「ビアンカ!久しぶりね。やっと体調が戻ったの?」
馬車を降りると私を見つけたマリアナが令嬢らしからぬ姿で大声を出しながら走ってやってきた。
「マリアナ……周りが見てるわよ」
「あら?そんなの気にしないわ。私を誰だと思っているの?これでも公爵令嬢よ?誰も私に何も言えないわよ」
この国で四家しかない公爵家のご令嬢のマリアナ。
いずれは王家に嫁ぐだろうとも言われているのに、いいのかしら?
本人は嫌がってまだ王太子殿下との婚約は成立していないけど、彼女が王太子殿下の婚約者になることは周囲ではすでに周知されている。
でもお互いあまり仲が良くなくて、上手くいかないかもと周囲は心配してもいるのだけど、どうなるのかしら?
「ビアンカ様ぁ!」
「バァズ!」
マリアナと並んで歩いていると前からバァズが駆け寄ってきた。
ふふっ。子犬みたいで可愛い。
「寝込んでいたと兄から聞きました。本当はお見舞いに行きたかったのですが、やめておいた方がいいと兄に言われて我慢してました」
「それは正解だわ。私もお見舞いには行かなかったのよ?先触れを出したのに、ビアンカの体調が思わしくないからとお断りされたの」
「心配かけてごめんなさい。なかなか熱が下がらなくてずっと寝込んでたの」
「ねぇ?ダイガット様は顔を出したの?」
「ううん、全く。多分フランソア様がお泊まりに来られていたからお忙しかったんじゃないのかな」
「はああああ?なに、それ?」
「ビアンカ様、なんで笑ってるんですか?」
笑ってる……うん、もう笑うしかないわよね。
私の部屋から、庭で二人が寄り添うように笑い合い、手を繋ぎ歩いている姿を見せつけられた。
そう、見えたと言うより「見て見て!」って感じで見えてしまった。
ベッドから見える窓の向こうに仲睦まじい二人の姿。別にダイガットに対してなんとも想っていなくても流石にムカついた。
こっちは高熱で寝込んでるんだぞ!
足だって腕だって肩だって、痛いんだぞ!
なんだか惨めで悔しくて、泣きたくないのに悔し涙が滲んだ。
フランソア様が水をかけたせいで熱が出たわけではない……と思う。
怪我のせいだけでもない……と思う。
多分毎日が気が張った生活の中で、あの時、もういいやってなんだか投げやりな気持ちになって、気持ちが緩んでしまった。
一気に体調が崩れた。
成績の維持と屋敷に帰ってからの仕事、毎日が時間に追われ、ゆっくり休む暇すらなかった。
でもおかげでしっかり休むことができたし、なんでもほどほどに頑張らないといけないなと思った。
義母も流石に寝込んでいる間、仕事を回してこなかった。
メイド長は心配して毎日顔を出してくれて、少しだけ甘えさせてもらえたもの。
悪いことばかりではなかった。
そう思えば笑っていられる。
だけど二人に本当のことを話すつもりはない。話せばさらに怒って、宥めるのが大変そうだもの。
馬車を降りると私を見つけたマリアナが令嬢らしからぬ姿で大声を出しながら走ってやってきた。
「マリアナ……周りが見てるわよ」
「あら?そんなの気にしないわ。私を誰だと思っているの?これでも公爵令嬢よ?誰も私に何も言えないわよ」
この国で四家しかない公爵家のご令嬢のマリアナ。
いずれは王家に嫁ぐだろうとも言われているのに、いいのかしら?
本人は嫌がってまだ王太子殿下との婚約は成立していないけど、彼女が王太子殿下の婚約者になることは周囲ではすでに周知されている。
でもお互いあまり仲が良くなくて、上手くいかないかもと周囲は心配してもいるのだけど、どうなるのかしら?
「ビアンカ様ぁ!」
「バァズ!」
マリアナと並んで歩いていると前からバァズが駆け寄ってきた。
ふふっ。子犬みたいで可愛い。
「寝込んでいたと兄から聞きました。本当はお見舞いに行きたかったのですが、やめておいた方がいいと兄に言われて我慢してました」
「それは正解だわ。私もお見舞いには行かなかったのよ?先触れを出したのに、ビアンカの体調が思わしくないからとお断りされたの」
「心配かけてごめんなさい。なかなか熱が下がらなくてずっと寝込んでたの」
「ねぇ?ダイガット様は顔を出したの?」
「ううん、全く。多分フランソア様がお泊まりに来られていたからお忙しかったんじゃないのかな」
「はああああ?なに、それ?」
「ビアンカ様、なんで笑ってるんですか?」
笑ってる……うん、もう笑うしかないわよね。
私の部屋から、庭で二人が寄り添うように笑い合い、手を繋ぎ歩いている姿を見せつけられた。
そう、見えたと言うより「見て見て!」って感じで見えてしまった。
ベッドから見える窓の向こうに仲睦まじい二人の姿。別にダイガットに対してなんとも想っていなくても流石にムカついた。
こっちは高熱で寝込んでるんだぞ!
足だって腕だって肩だって、痛いんだぞ!
なんだか惨めで悔しくて、泣きたくないのに悔し涙が滲んだ。
フランソア様が水をかけたせいで熱が出たわけではない……と思う。
怪我のせいだけでもない……と思う。
多分毎日が気が張った生活の中で、あの時、もういいやってなんだか投げやりな気持ちになって、気持ちが緩んでしまった。
一気に体調が崩れた。
成績の維持と屋敷に帰ってからの仕事、毎日が時間に追われ、ゆっくり休む暇すらなかった。
でもおかげでしっかり休むことができたし、なんでもほどほどに頑張らないといけないなと思った。
義母も流石に寝込んでいる間、仕事を回してこなかった。
メイド長は心配して毎日顔を出してくれて、少しだけ甘えさせてもらえたもの。
悪いことばかりではなかった。
そう思えば笑っていられる。
だけど二人に本当のことを話すつもりはない。話せばさらに怒って、宥めるのが大変そうだもの。
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