あなたの愛はもう要りません。

たろ

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22話

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 馬車なんて押せるわけないのに、押して見ようとした私を継母は見て馬鹿にするように嗤った。

「あなた、本気で馬車を押すつもりだったの?」

 嘲笑うその言葉に恥ずかしくて顔が赤くなった。

「惨めねぇ………父親に捨てられ嫁ぎ先では使用人のように扱われ、ビアンカ、あなた、幸せなの?」

 幸せ?そりゃ幸せです!
 まずあなたの拘束から逃げ出せたのだもの!

 父の冷たい態度に傷つくことも無くなったのよ?

 だけどもしそう言ったら、すぐに連れ戻されそうで怖い。

 強く人から言われるとあまり言い返せないのは、この人からの抑圧に耐えてきたからかも。

 少しでも言い返せば『罰』を受けていたもの。

 いまだに太ももの怪我は治っても痛みが心に残っているからか、疼いてしまう時がある。


「本当にあなたっていつもそう。自分だけが辛い思いでもしているかのように、そんな情けない顔をする。ほんっと、イライラする!だから誰からも愛されないし、誰からも振り向いてもらえないのよ!」

 継母の怒りはさらに激しくなりたくさんの人が行き交う中で罵倒され続ける。

 そんな時、一人の女の子が突然継母のドレスを触ろうとやってきた。

 まだ2歳にもならない可愛らしい平民の女の子。

「かぁいい」

 片言を言いながらトコトコやってきて継母のドレスを触ると「きぃれぇ」とにこりと笑った。

 継母は私に怒っていて、気が立っていたところに平民の女の子が高級なドレスを素手で触ってきたのに耐えられず、払いのけた。

「汚い手で触らないで!」

「申し訳ございません」
「いったぁい!うわぁーーん」

 女の子の母親が慌てて女の子のそばにやってきて土下座をして謝り続けた。

「鞭をちょうだい」

 継母は、母親の背中に鞭を容赦なく打ちつけた。

 平民が貴族の夫人のドレスを触ろうなどしてはならない。

 それは確かなんだけど、相手は幼子。親が目を離したすきにやってきた。

 親が鞭で打たれるのは可哀想だけど仕方がない。だけど継母は、その隣にいる幼い子供に鞭を向けた。

「やめてください、お願いします」

 母親の懇願など無視して継母は幼い子供に鞭を向け腕を振り上げた。

 あの鞭の痛さも怖さも一番理解しているのは私。なのに体は勝手に動いた。

「バシッ」

 幼い女の子を庇って覆い被さった私の背中に容赦なく鞭が打たれた。

「あら?ビアンカ、代わりに鞭で打たれたいの?いいわよ。代わりなんだからたくさん叩かせてもらうわ」

 何度も背中に鞭が当たる。制服を着ていても痛みが走る。女の子は私の体のおかげで何も見えていない。それでも継母の声と周りのざわつく声に異変を感じ泣き出した。

「大丈夫、怖くないわ」

 私は女の子に優しく声をかけた。

 白い制服の背中は、血で赤く染まり始めていた。
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