あなたの愛はもう要りません。

たろ

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36話

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 久しぶりに歩くと体力が弱ってしまっていることに気がつく。

 最近は馬車で通学していたし、2週間も寝込んでいたのだから当たり前よね。

 うっ……頭を下げて送ってもらうべきだった……

 殿下に強がって見せたけど、ここは頼るべきだったかも。

 でも、殿下に迷惑はかけられない。
 結婚していることは世間には知られていないとは言え、もし知られたら……殿下が妹のように私を心配してくれたことが、彼の足を掬われることになるかもしれない。

 彼はこの国の国王陛下になる人。私なんかが関わってはいけない。

 幼い頃は王妃様とお母様が従姉妹だからと仲良くさせてもらっていたけど、今は親しくしたために醜聞になってしまうかもしれない。

 あの継母が私への嫌がらせのため何を仕掛けてくるのかわからないもの。

 王妃様や殿下にご迷惑をかけるかもしれない。

 そう思うとやはり……歩くしかない。
 せめてお金があれば……

「はああ、少しお金を借りればよかった」

 私って意地っ張りなんだよね。

 ため息混じりにしばらく歩いていたが公園を見つけたのでベンチに腰掛けた。

 喉が渇いた……
 足も疲れたし……いいお天気のせいなのか頭がクラクラする。

 貴族なんて言っても、周囲に人がいてお世話してくれる人がいなければ……ただの人。


 しばらく休んでまた歩き始めた。


 なんとか侯爵家の屋敷にたどり着いた。

 私の姿に驚いた門番の護衛が、「大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ?」と駆けつけてくれた。

「中に入れてもらえますか?」

 くたびれて弱々しい声しか出ない。

「どうぞ中にお入りください。歩けますか?」

「ええ、早く部屋で休みたい」

「すぐに誰か呼びますのでお待ちください」

 駆けつけたメイドが、私の姿に驚いてすぐに手を貸してくれた。

「ありがとう」

 彼女の体に体重を預け、手を借りて部屋へと入った。

「お水……」

「少しお待ちください」

 メイドが急いで冷たいお水をピッチャーに入れて持ってきてくれた。

 お水にはレモンが入っていて、喉の渇きを潤してくれた。
 2杯を一気に飲んで少し落ち着いた。

 ベッドに横になってからメイドに訊いてみた。

「ダイガットはまだ学校から帰っていないのかしら?」

「今日は……その……放課後…観劇に行かれると伺っております」

 とても言いにくそうだった。

 ああ、フランソア様とデートなのね。私と彼の関係を知ってるはずだからそんなに気を遣わなくてもいいのに。

 苦笑しつつもメイドの気遣いに感謝しながら「そう……執事に私がダイガットと話をしたいと言っていたと伝えてもらえるかしら?彼からの伝言ならダイガットも素直に話を聞いてくれるだろうから」とお願いをした。

「わかりました、お伝えしておきます。なのでビアンカ様、しばらくお休みください。後で消化に良いスープをお持ちいたしますね」

「料理長の、具沢山のとろーりスープ?」

「はい、料理長にリクエストしておきますね?」

「うん!」

 最近は侯爵家の人たちと食事をしていたので上品なお料理しか食べていなかった。

 使用人達と食べる料理はとっても心も体も満たされる温かな料理で、私にはお上品で高級な食材を使った料理よりみんなで食べる賄い料理の方が好きで、自分には合っている。

 メイドは優しく毛布をかけ直してくれた。

「ゆっくりお休みになってくださいね、うるさい人はまだ当分帰ってきませんので」

「………うん」

 彼女の優しい言葉に頷いて、目を瞑るといつの間にか眠ってしまっていた。


 



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