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35話
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殿下に………思わず……
「もう!いい加減にしてください!!」
マリサさんは「殿下、そろそろ離して差し上げてください」と苦笑していた。
彼の腕の中からなんとか抜け出し、ひたすら文句を言って、執務室から飛び出した。
多分私の顔は真っ赤だったと思う。
執務室から出ていく時、殿下は「ビアンカ、何照れてるんだ?ほんとまだまだお子ちゃまだな」と揶揄われた。
いやいや、ほんと、信じられない!
ブツブツと文句を言いながら執務室を後にして、私は呼吸を整えるため、少し外の空気を吸うことにした。
ここの庭園は、殿下が青い薔薇を咲かせている場所だった。
見事に咲いている青い薔薇に思わず目が奪われた。
「今日が最後ね」
ここを出てしまえば、もう殿下にお会いすることも、お母様との思い出に浸る場所も失くなってしまう。
「さぁ、帰ろう」
ぽつりと呟いて歩き出した。
宮廷から出るための門へとのんびりと歩き始めた。
ここには着の身着のまま運ばれてしまったので、何も持ってきていない。
侯爵家までの道のりは歩くとまあそれなりに時間がかかるけど歩けないほどではない。
侯爵家には今日帰ることは知らせていない。うるさいダイガットがいつ帰ってくるのかと待っているかもしれないと思うと、知らせないで突然帰ったほうがいいと思った。
今日もいい天気だし、のんびり歩くにはちょうどいい。
ここで過ごした日々はとても居心地が良く、とても大切にしてもらった。
すれ違う何人かの人は私のことを覚えていてくれて「気をつけて帰るんだよ」と心配して声をかけてくれた。
そして……門を出ようとした時、聞き覚えのある声が私の名を呼んだ。
「ビアンカ!」
その冷たい声は……
「ミラー伯爵……」
お父様だった。
この声を忘れるわけがない。
お父様に捨てられたと思った時から、私は彼を『お父様』と呼ばないと決めていた。
もし会うことがあったら必ず『ミラー伯爵』と呼ぼおと思っていた。
縁を切られ捨てられた私はもう彼の娘ではない。
この1年、自分なりに伯爵家のために侯爵家の嫁として頑張ったし耐えてきたんだもの。
一応は育ててもらった恩は返したつもりだ。
足りないと言われればそれまでだけど、継母からの今回の暴力とそれを何も言わず見逃したのだからもういいだろう。
話すことなんてない。
彼の目は冷たさの中、なぜか複雑な表情が窺えた。
私が『ミラー伯爵』と呼んだことが不快だったのかしら?それとも、目の前に私の姿があることが不快なのかしら?
継母と再婚してから私を見る目は冷ややかだった。もう私のことを血の繋がった娘だなんて思っていないようだったもの。
継母を愛し彼女の言うことだけを聞いて、私の存在を無視し続けたこの人にこの国を去る私だけど別れの挨拶する気になれない。
でも最後に継母に『あなたのカーテシーはみっともない』と言われ続け、泣きながら必死で練習したカーテシーを彼の前で披露した。
「失礼致しますわ、伯爵」
精一杯の笑顔を見せて振り返ることなく門をくぐった。
見上げた空はやはり青かった。
「もう!いい加減にしてください!!」
マリサさんは「殿下、そろそろ離して差し上げてください」と苦笑していた。
彼の腕の中からなんとか抜け出し、ひたすら文句を言って、執務室から飛び出した。
多分私の顔は真っ赤だったと思う。
執務室から出ていく時、殿下は「ビアンカ、何照れてるんだ?ほんとまだまだお子ちゃまだな」と揶揄われた。
いやいや、ほんと、信じられない!
ブツブツと文句を言いながら執務室を後にして、私は呼吸を整えるため、少し外の空気を吸うことにした。
ここの庭園は、殿下が青い薔薇を咲かせている場所だった。
見事に咲いている青い薔薇に思わず目が奪われた。
「今日が最後ね」
ここを出てしまえば、もう殿下にお会いすることも、お母様との思い出に浸る場所も失くなってしまう。
「さぁ、帰ろう」
ぽつりと呟いて歩き出した。
宮廷から出るための門へとのんびりと歩き始めた。
ここには着の身着のまま運ばれてしまったので、何も持ってきていない。
侯爵家までの道のりは歩くとまあそれなりに時間がかかるけど歩けないほどではない。
侯爵家には今日帰ることは知らせていない。うるさいダイガットがいつ帰ってくるのかと待っているかもしれないと思うと、知らせないで突然帰ったほうがいいと思った。
今日もいい天気だし、のんびり歩くにはちょうどいい。
ここで過ごした日々はとても居心地が良く、とても大切にしてもらった。
すれ違う何人かの人は私のことを覚えていてくれて「気をつけて帰るんだよ」と心配して声をかけてくれた。
そして……門を出ようとした時、聞き覚えのある声が私の名を呼んだ。
「ビアンカ!」
その冷たい声は……
「ミラー伯爵……」
お父様だった。
この声を忘れるわけがない。
お父様に捨てられたと思った時から、私は彼を『お父様』と呼ばないと決めていた。
もし会うことがあったら必ず『ミラー伯爵』と呼ぼおと思っていた。
縁を切られ捨てられた私はもう彼の娘ではない。
この1年、自分なりに伯爵家のために侯爵家の嫁として頑張ったし耐えてきたんだもの。
一応は育ててもらった恩は返したつもりだ。
足りないと言われればそれまでだけど、継母からの今回の暴力とそれを何も言わず見逃したのだからもういいだろう。
話すことなんてない。
彼の目は冷たさの中、なぜか複雑な表情が窺えた。
私が『ミラー伯爵』と呼んだことが不快だったのかしら?それとも、目の前に私の姿があることが不快なのかしら?
継母と再婚してから私を見る目は冷ややかだった。もう私のことを血の繋がった娘だなんて思っていないようだったもの。
継母を愛し彼女の言うことだけを聞いて、私の存在を無視し続けたこの人にこの国を去る私だけど別れの挨拶する気になれない。
でも最後に継母に『あなたのカーテシーはみっともない』と言われ続け、泣きながら必死で練習したカーテシーを彼の前で披露した。
「失礼致しますわ、伯爵」
精一杯の笑顔を見せて振り返ることなく門をくぐった。
見上げた空はやはり青かった。
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