あなたの愛はもう要りません。

たろ

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34話

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「安易にこの国を出るつもりなのか?」

 思わずドキッとした。

 本当はあと2年、侯爵家で頑張るつもりだった。

 ダイガットに何度となく離縁を申し入れたけど無視された。まぁ、それも当たり前だった。
 政略的な結婚を許可も得ず簡単に終わらせることは出来ない。
 それでも彼には私が離縁する意思があることを知っていて欲しかった。

 フランソア様との二人の愛を邪魔するつもりはないと態度で示してきたつもりだ。

 あまりいい反応はなく、感謝されることもなく冷たい目で見られるか不機嫌になるだけだったけど、内心は喜んでいるのかもしれないと思っている。

 だから定期的に彼に離縁の意思をこれからも何かきっかけがある度に示すつもりでいた。

 でも、それも終わらせて、学校を中退してこの国を出ようかと考えている。

 もちろん侯爵家にはお世話になったのでダイガットにも手紙ではなく直接離縁を申し入れるつもりだ。

 そして侯爵夫妻にも、離縁してこの国を出たいと告げる。

 父にはもちろん話すつもりはない。話せばすぐに継母に伝わる。

 外国での暮らしが落ち着けば、王妃様やシャルマ夫人には手紙を書くつもり。

 でも殿下には何も知らせるつもりはない。彼と私の間には何もない。

 ただ久しぶりに会話をしただけ。この花を返せば終わり。

 彼の問いに私は。

「このお花は外に持ち出すことは出来ません。とても綺麗な青い薔薇はあなたの元にあってこそ価値があるのだと思います」

 私には相応しくない。もうすぐ平民になるのだから。

 この数年こっそり貯めたお金がある。本当はもう少し貯めたかったけど仕方ない。

 平民になれば贅沢などしなくてすむので、お金もそんなにかからないだろう。

 使用人達と過ごすことが多かったおかげで、平民の暮らしについて色々知ることができた。

 家を借りること、料理を作ること、働いて稼げる賃金がどれくらいなのか、知識だけで考えるとなんとかなりそうだった。

 ただ頼れる人がいない中、急ぎこの国を出ないといけない不安は多少はある。

「俺には頼れない?君の継母を野放しにはしない、俺はお前の主人だろう?」

「もうあなたの家来ではないし、あなたの妹分でもないわ」

「俺はお前を守ることができなかった。ダイガットと結婚してやっとお前も幸せになると思っていた」

 結婚して幸せになる?
 ダイガットと仲の良い殿下は知っているはずじゃない?
 フランソア様だけを慈しんでいる彼と?
 馬鹿じゃないの?

 心の声が聞こえたのかしら?

 苦笑した殿下。
「幸せなんかじゃなかったのに気がついていた」

 ええ、この一年幸せではなかった。
 でも、辛くもなかった。平和に過ごすことができたもの。

 たくさんの知識を蓄え、侯爵家の仕事をさせてもらえたので、これから生きていくための力をつけることができたし、こっそり内職もしていたので、少しはお金も貯まった。

 悪いことばかりではなかった。

 でも何も答えなかった。

「…………」

「ビアンカ、青い薔薇の花言葉を知ってるか?」

 知ってるわ。
 何度も本で読んだ。

 「奇跡」「夢かなう」「不可能なことを成し遂げる」といった、努力によって実現した「希望」を象徴する。
 と書いていた。

 幼い頃の思い出の花。

 そして、私の心の拠り所。

「殿下………いつかまたこの青い薔薇を見ることができたら……」

 えっ?

 突然抱きしめられた。

「なんで俺はお前の苦境を知ることすらできなかったんだ……すまない……お願いだから俺に助けさせてくれ」

 私は首を横に振った。

「殿下、知ってます?名だけとは言え、一応ダイガットの妻なんです」

 もうすぐ離縁するつもりだけど。

 マリサは側に居ながら、殿下に何も言わず黙って私達を見守っていた。

 いや、この状態、なんとかして欲しいのだけど……力強すぎるわ、殿下。












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