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44話
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馬車の旅はとても快適だった。
ビリーさんは同じ馬車に乗り、私が飽きないようにいろんな話を聞かせてくれた。
他国での出来事、それぞれの国の違い、特色など自らがいろんな国を周っているからこそ知り得る情報。
「ビリーさん、私の祖母はオリソン国の出身なんです」
「知っております。王妃様のお母様とビアンカ様のお祖母様は御姉妹でしたよね?」
「ええ、そして共にこの国に嫁いできて二人はとても仲がよかったの。ひとりは王妃として娶られ、母は伯爵家に嫁いだの。お父様とは……とても愛し合っていたと聞いていたのに……亡くなってすぐに新しい母が嫁いできたわ……」
もしかして母は殺されたかもしれない。
何度頭の中で考えてももちろん答えは出ない。
だけど私を見るあの冷たい眼差し、私を鞭で打つ時の楽しそうに嗤っている顔を思い出すと、私が疎まれていることはわかる。目障りなんだろうなと感じた。
だから15歳で家を追い出すように侯爵家に嫁がされた。
お父様は………気づいているのかしら?お母様が殺されたかもしれないことを。
愛だの恋だのそんな気持ちを知らない私にはわからない。でもお父様はお母様を愛していたはず……だってお母様はとても幸せそうにいつも微笑んでいたもの。
お父様はもともとあまり表情が変わらない人なので、冷たいのか優しいのかよくわからない。
それでもお母様が愛した人なんだから悪い人ではないと思う。お母様が生きている時は忙しくてもそれなりに共に食事をとったりしていた。でももうあの頃の記憶は曖昧でお父様が笑った顔なんて覚えていない。
物思いに耽っているとビリーさんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ごめんなさい……えっと、なんだっかな?」
「オリソン国が今回の旅の最終目的地なんです」
「まぁそうだったんですね」
私はオリソン国を目指そうとは思っていなかった。
オリソン国は流石に遠く、私の旅費では隣国が精一杯だったし、そんな遠くまで自分が行けるとは思っていない。
「………もしも会うことがあれば……祖母に私は元気だと伝えていただけますか?」
もちろんビリーさんが簡単に会えるわけがないのはわかっている。
幼い頃、2回会ったことがある祖母。とても綺麗で優しい人だったと記憶している。
「オリソン国のダッド侯爵家でしたよね?」
「よくご存知で」
「一緒に目指しませんか?オリソン国までは少し時間はかかりますが、もうすぐ国を出ます。出てしまえばミラー伯爵夫人の手の者も簡単に我々を襲うことはできません。こちらもそれなりに強者を護衛として雇っていますし、我々は行った国々で顔を広めておりますので、公爵家の手の者よりも他国では味方も多いのです」
「私が足手纏いになるのではないですか?」
「大丈夫ですよ?バァズ様とも約束しましたし、姉にも頼まれました。貴女を無事に届けると。ダッド侯爵家にも早馬で知らせを送っておきますので安心してください」
なんだか私が考えているよりも話はとても良い方へと向かっている。
遠くてなかなか会えないと思っていたお祖母様に会える。
「お願いしてもいいのでしょうか?お恥ずかしいのですが、私はビリーさん達になんのお礼もできないのです」
正直に話した。手持ちのお金だけではとても旅費としては足りない。
もちろんそのお金を渡そうとしたけど受け取ってはもらえないでいる。
なのに宿に泊まる時もひとり部屋を用意してくれるし毎回食事もしっかり食べさせてもらえる。
せめて向こうに着いたらお祖母様にお願いしてお金を借りようかと考えていたら、ビリーさんは笑って言った。
「お礼は侯爵家と顔合わせをしてもらえるだけで十分ですからね?他国の貴族と知り合えるのは商売人としては宝物を見つけることと同じくらい有難いことですから」
ビリーさんの率直な言葉に素直に受け入れ「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。
本当はオリソン国まで行くのは商会の仕事とはいえとても大変なことは馬車に乗っていたら耳にする。
みんながこっそり愚痴を言っていたことを。だから、向こうに着いたら祖母にわがままを言ってみんなに良くしてもらおう。
たくさんのお礼をおねだりしよう。
ビリーさんは同じ馬車に乗り、私が飽きないようにいろんな話を聞かせてくれた。
他国での出来事、それぞれの国の違い、特色など自らがいろんな国を周っているからこそ知り得る情報。
「ビリーさん、私の祖母はオリソン国の出身なんです」
「知っております。王妃様のお母様とビアンカ様のお祖母様は御姉妹でしたよね?」
「ええ、そして共にこの国に嫁いできて二人はとても仲がよかったの。ひとりは王妃として娶られ、母は伯爵家に嫁いだの。お父様とは……とても愛し合っていたと聞いていたのに……亡くなってすぐに新しい母が嫁いできたわ……」
もしかして母は殺されたかもしれない。
何度頭の中で考えてももちろん答えは出ない。
だけど私を見るあの冷たい眼差し、私を鞭で打つ時の楽しそうに嗤っている顔を思い出すと、私が疎まれていることはわかる。目障りなんだろうなと感じた。
だから15歳で家を追い出すように侯爵家に嫁がされた。
お父様は………気づいているのかしら?お母様が殺されたかもしれないことを。
愛だの恋だのそんな気持ちを知らない私にはわからない。でもお父様はお母様を愛していたはず……だってお母様はとても幸せそうにいつも微笑んでいたもの。
お父様はもともとあまり表情が変わらない人なので、冷たいのか優しいのかよくわからない。
それでもお母様が愛した人なんだから悪い人ではないと思う。お母様が生きている時は忙しくてもそれなりに共に食事をとったりしていた。でももうあの頃の記憶は曖昧でお父様が笑った顔なんて覚えていない。
物思いに耽っているとビリーさんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ごめんなさい……えっと、なんだっかな?」
「オリソン国が今回の旅の最終目的地なんです」
「まぁそうだったんですね」
私はオリソン国を目指そうとは思っていなかった。
オリソン国は流石に遠く、私の旅費では隣国が精一杯だったし、そんな遠くまで自分が行けるとは思っていない。
「………もしも会うことがあれば……祖母に私は元気だと伝えていただけますか?」
もちろんビリーさんが簡単に会えるわけがないのはわかっている。
幼い頃、2回会ったことがある祖母。とても綺麗で優しい人だったと記憶している。
「オリソン国のダッド侯爵家でしたよね?」
「よくご存知で」
「一緒に目指しませんか?オリソン国までは少し時間はかかりますが、もうすぐ国を出ます。出てしまえばミラー伯爵夫人の手の者も簡単に我々を襲うことはできません。こちらもそれなりに強者を護衛として雇っていますし、我々は行った国々で顔を広めておりますので、公爵家の手の者よりも他国では味方も多いのです」
「私が足手纏いになるのではないですか?」
「大丈夫ですよ?バァズ様とも約束しましたし、姉にも頼まれました。貴女を無事に届けると。ダッド侯爵家にも早馬で知らせを送っておきますので安心してください」
なんだか私が考えているよりも話はとても良い方へと向かっている。
遠くてなかなか会えないと思っていたお祖母様に会える。
「お願いしてもいいのでしょうか?お恥ずかしいのですが、私はビリーさん達になんのお礼もできないのです」
正直に話した。手持ちのお金だけではとても旅費としては足りない。
もちろんそのお金を渡そうとしたけど受け取ってはもらえないでいる。
なのに宿に泊まる時もひとり部屋を用意してくれるし毎回食事もしっかり食べさせてもらえる。
せめて向こうに着いたらお祖母様にお願いしてお金を借りようかと考えていたら、ビリーさんは笑って言った。
「お礼は侯爵家と顔合わせをしてもらえるだけで十分ですからね?他国の貴族と知り合えるのは商売人としては宝物を見つけることと同じくらい有難いことですから」
ビリーさんの率直な言葉に素直に受け入れ「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。
本当はオリソン国まで行くのは商会の仕事とはいえとても大変なことは馬車に乗っていたら耳にする。
みんながこっそり愚痴を言っていたことを。だから、向こうに着いたら祖母にわがままを言ってみんなに良くしてもらおう。
たくさんのお礼をおねだりしよう。
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