あなたの愛はもう要りません。

たろ

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50話

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「殿下にはもう会いたくない……彼には帰るように伝えてください……」

「ビアンカは今頭の中がいっぱいで苦しいわよね?わたくしだってアーシャが殺されたなんて信じたくなかったわ……あの女を殺してやりたい」

 お祖母様の顔には憎しみと後悔の念が見えた。

 遠い国にいて何も事情がわからず娘の死にショックを受けてなんとか立ち直ったと思ったらまさか殺されていたなんて……

「話を聞いた時にはすぐにでもあちらの国へ行こうと思ったわ……でもね、フェリックスの母……王妃になった彼女が『叔母さま、絶対わたくしがビアンカを守ります。そしてあの女と公爵に罰を与えます』と手紙をくれたの……わたくしはもう歳をとっていて体も弱っているわ。あちらの国へ行っても悔しいことに、わたくしの力では差し違えることもできないかもしれない……ただ、許せなかったのはビアンカの父であるミラー伯爵よ。アーシャが亡くなってすぐに再婚して………ビアンカを蔑ろにして自分だけが幸せになるなんて……許せないわ」

 お祖母様の目に狂気が走った。

 私だって許せない。私を侯爵家に嫁がせたのは両家の共同の仕事の絡みで、そこに私への優しさも愛情もないとずっと思っていたもの。
 そう思っていたのに……殿下の話を聞くとあの人はまるで私を助けるために侯爵家に嫁がせたように感じた。

 継母の目をくらませるために侯爵家に嫁がせたようにみせていた?

 継母との再婚も強制だった?でもお祖母様はそう思っていないようだった。

「アーシャをあんな男に嫁がせなければよかったのよ。わたくしが反対していれば死なずにすんだのに………」

「お祖母様……」

 お祖母様も苦しんできたのだろう。心の悲しみが顔に出ていた。やつれて疲れているようだった。

 それなのに私がこの国に来てまた迷惑をかけてしまった。辛い思い出を再び思い起こさせてしまっている。

 熱で頭が回らず上手くお祖母様の心を落ち着かせてあげられる言葉が思い付かない。

 だから私はお祖母様の手を握りしめた。

「お祖母様……元気になったら、一緒にお母様のお墓参りに行きたい」

「ええ、ええ、そうしましょう。フェリックスに会いたくないのなら伝えておくわ。あの子も勢いだけでビアンカに会いに来ても駄目だと伝えないとね。貴女のことを思っているならまずはあの公爵家とあの女をきちんと罰してからにしてもらわないといけないわ」

 私は苦笑いをしながらもお祖母様が少し落ち着いたのを見てホッとした。

 お母様は亡くなった後火葬されてこのオリソン国の侯爵家の墓で眠っている。

 今ならわかる。
 あの国では、継母がいるから安心して伯爵家のお墓で眠らせてあげることができなかったのだ。

 遠いこの国でお母様は愛する家族に見守られて眠っているのだと思うと、あの冷たい父のそばでなくてよかったのだと思えた。

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