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53話
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「うん?ずっと公爵家で仕事をしてたんだ。こっちの国でこれから暮らさなきゃならないからな。向こうで高等部の卒業資格は取ってきたからオリソン国の高等部で卒業試験さえ合格すれば卒業できる。まだ、いろいろやることが多くてしばらく会いに来れなかったが、ビアンカのことは毎日報告は受けてた。
お前も俺には会いたくないと拒否していたし、少しお前の頭と心が落ち着くまで待ってたんだ」
殿下……ううん、フェリックス様は何だかサッパリした清々しい顔をしている。
もう本人の中では、王太子ではなくなっているのだろう。
そう思うと胸がズキっと痛む。私のせいで……
何を言えばいいのかわからず俯いてしまう。
殿下のことは諦めたはずなのに……まだ好きでいていいのかもしれないなんて期待してしまう自分もいて……だけど彼のこれから先のことを考えるとやはり胸が痛い……
「ビアンカ?食事が終わったなら庭でも散歩しない?」
「……はい」
お祖母様達が私に優しく微笑んだ。
「行ってきなさい。しっかり話をしておいで」
「はい」
彼の後ろをトボトボついて行く。なんだか昔を思い出す。いつも彼の背中を追いかけて歩いた。
彼の背中を見ると安心した。
ずっとついて行けばいいんだと思っていた。
「あ、あの……殿下……」
「………」
「殿下?」
「………」
「………フェ…リックス…様?」
「うん?どうした?」
にこりと笑った……フェリックス様……
はあ~……言いにくい。………もう名前は言わないことにしよう。
「いいのですか?」
「何が?」
わかっててわざと聞き返すのね。
「この国に住むということは……もう王族ではなくなるのですよ?貴方がこれまで努力して学んだ全てを不意にしてしまうのですよ?」
「うん?だから?何?」
「だって……そんなの言い訳ないじゃないですか?王妃様だって陛下だってとても期待されていたのですよ?」
「俺の可愛い弟は俺なんかよりもっと優秀なんだ。あいつの方が性格も頭脳も国王に向いている。長男だから後を継ぐなんておかしい話だと思わないか?」
「でも、貴方だってとても優秀だわ。周囲からも期待されていたはずよ?」
「俺が王太子になろうと思ったのはお前がいたからだ。お前が俺の横でずっと笑っていてくれるなら王太子になってもいいと思っていた。でもお前は俺の前から姿を消した。母上は俺がビアンカはなぜ来なくなったのか訊いても、困った顔をして答えてくれなかった」
「屋敷から出してもらえなくなったの」
「あとで知った……俺は会いに来なくなったお前に腹が立って、来ないなら来なくていいと無視することに決めたんだ」
「うん、仕方がないよね?」
あの頃のことを思い出すとやっぱり胸が痛い。
大好きなお母様が亡くなり、お父様は冷たくなった。継母は私を嫌い屋敷から出してもらえなくなった。いつも怯えて暮らしていたけど、絶対負けたくないと思って泣かなかった。
それでも殿下に会いたかった。殿下の後ろをまたついて周りたかった。殿下の背中はとても安心してそばについていられたもの。
「俺があとで知った時、どれだけ自分の無力を呪ったか……子供の力では何もできない。いくら王族だと言っても、財力のある公爵家に強く出ることができない。
俺は強くなりたいと思った。強くなれば誰にも文句は言われずにお前をそばに置いておくことができる。でもお前がこのままではミラー伯爵夫人にずっと命を狙われるかもしれないと知って俺はこの国を出る決意をしたんだ……なのに、お前は勝手に結婚して……どんなに絶望したと思ってるんだ?」
「結婚したのはお父様からの強制よ?」
仕方がないじゃない。私だって15歳で結婚なんてすると思わなかったもの。
「ミラー伯爵はお前を守るためにクーパー侯爵家に預けたんだ、結婚したと見せかけて。それを知って俺は侯爵家に自分の手の者を数人使用人として忍び込ませていたんだ」
「使用人?え?誰?」
「ははっ、クーパー侯爵は知っていて黙って受け入れてくれていたんだぜ?ちなみにメイド長があそこには二人いたことは知らなかっただろう?」
「二人?え?いつも私に優しくしてくれたメイド長と他にもいたの?え?」
気づけば殿下に敬語を使うことも忘れてしまっていた。
「ビアンカに優しくしてくれたメイド長はビアンカ専用のメイド長だよ。特にダイガットをお前に寄せ付けないように目を光らせてもらっていたんだ」
「お母様みたいに優しくて大好きだったの……あれは演技だったの?」
ショックだった。メイド長の優しさに私はずっと救われていたもの。
「メイド長と接して演技に見えたか?彼女はお前のことを娘のように思ってくれていたぞ。いつも報告しにきてはお前のことを話してくれていたが、自慢ばかりしていたんだ。俺が会えないのをわかっていて、お前からお菓子をプレゼントされたとか、二人で買い物に出かけたとか、あれは絶対嫌がらせだ」
「ふふっ。私もメイド長が大好き」
「俺は?俺はお前が……好きだ。だからここにいる」
お前も俺には会いたくないと拒否していたし、少しお前の頭と心が落ち着くまで待ってたんだ」
殿下……ううん、フェリックス様は何だかサッパリした清々しい顔をしている。
もう本人の中では、王太子ではなくなっているのだろう。
そう思うと胸がズキっと痛む。私のせいで……
何を言えばいいのかわからず俯いてしまう。
殿下のことは諦めたはずなのに……まだ好きでいていいのかもしれないなんて期待してしまう自分もいて……だけど彼のこれから先のことを考えるとやはり胸が痛い……
「ビアンカ?食事が終わったなら庭でも散歩しない?」
「……はい」
お祖母様達が私に優しく微笑んだ。
「行ってきなさい。しっかり話をしておいで」
「はい」
彼の後ろをトボトボついて行く。なんだか昔を思い出す。いつも彼の背中を追いかけて歩いた。
彼の背中を見ると安心した。
ずっとついて行けばいいんだと思っていた。
「あ、あの……殿下……」
「………」
「殿下?」
「………」
「………フェ…リックス…様?」
「うん?どうした?」
にこりと笑った……フェリックス様……
はあ~……言いにくい。………もう名前は言わないことにしよう。
「いいのですか?」
「何が?」
わかっててわざと聞き返すのね。
「この国に住むということは……もう王族ではなくなるのですよ?貴方がこれまで努力して学んだ全てを不意にしてしまうのですよ?」
「うん?だから?何?」
「だって……そんなの言い訳ないじゃないですか?王妃様だって陛下だってとても期待されていたのですよ?」
「俺の可愛い弟は俺なんかよりもっと優秀なんだ。あいつの方が性格も頭脳も国王に向いている。長男だから後を継ぐなんておかしい話だと思わないか?」
「でも、貴方だってとても優秀だわ。周囲からも期待されていたはずよ?」
「俺が王太子になろうと思ったのはお前がいたからだ。お前が俺の横でずっと笑っていてくれるなら王太子になってもいいと思っていた。でもお前は俺の前から姿を消した。母上は俺がビアンカはなぜ来なくなったのか訊いても、困った顔をして答えてくれなかった」
「屋敷から出してもらえなくなったの」
「あとで知った……俺は会いに来なくなったお前に腹が立って、来ないなら来なくていいと無視することに決めたんだ」
「うん、仕方がないよね?」
あの頃のことを思い出すとやっぱり胸が痛い。
大好きなお母様が亡くなり、お父様は冷たくなった。継母は私を嫌い屋敷から出してもらえなくなった。いつも怯えて暮らしていたけど、絶対負けたくないと思って泣かなかった。
それでも殿下に会いたかった。殿下の後ろをまたついて周りたかった。殿下の背中はとても安心してそばについていられたもの。
「俺があとで知った時、どれだけ自分の無力を呪ったか……子供の力では何もできない。いくら王族だと言っても、財力のある公爵家に強く出ることができない。
俺は強くなりたいと思った。強くなれば誰にも文句は言われずにお前をそばに置いておくことができる。でもお前がこのままではミラー伯爵夫人にずっと命を狙われるかもしれないと知って俺はこの国を出る決意をしたんだ……なのに、お前は勝手に結婚して……どんなに絶望したと思ってるんだ?」
「結婚したのはお父様からの強制よ?」
仕方がないじゃない。私だって15歳で結婚なんてすると思わなかったもの。
「ミラー伯爵はお前を守るためにクーパー侯爵家に預けたんだ、結婚したと見せかけて。それを知って俺は侯爵家に自分の手の者を数人使用人として忍び込ませていたんだ」
「使用人?え?誰?」
「ははっ、クーパー侯爵は知っていて黙って受け入れてくれていたんだぜ?ちなみにメイド長があそこには二人いたことは知らなかっただろう?」
「二人?え?いつも私に優しくしてくれたメイド長と他にもいたの?え?」
気づけば殿下に敬語を使うことも忘れてしまっていた。
「ビアンカに優しくしてくれたメイド長はビアンカ専用のメイド長だよ。特にダイガットをお前に寄せ付けないように目を光らせてもらっていたんだ」
「お母様みたいに優しくて大好きだったの……あれは演技だったの?」
ショックだった。メイド長の優しさに私はずっと救われていたもの。
「メイド長と接して演技に見えたか?彼女はお前のことを娘のように思ってくれていたぞ。いつも報告しにきてはお前のことを話してくれていたが、自慢ばかりしていたんだ。俺が会えないのをわかっていて、お前からお菓子をプレゼントされたとか、二人で買い物に出かけたとか、あれは絶対嫌がらせだ」
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