あなたの愛はもう要りません。

たろ

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54話

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 彼の問いに素直に返事をすることはできない。

 大好きだから……私なんかが彼の隣にいては駄目だと思う。

 もうすぐこの侯爵邸を後にして私は平民になり働くつもりだ。
 高等部を卒業できなかった私が働ける場所はあまり多くはないけどビリーさんが雇ってくれそうなお店を紹介してくれると言っていたのでこれから頑張って一人で生きていくつもりだ。

 もちろんまだ継母の脅威はなくなってはいないけど、ずっと隠れて震えながら生きるのも嫌。

「ビアンカ……答えてくれ?俺の気持ちは勝手な押し付けなのか?お前はずっと俺のそばにいると約束しただろう?俺もずっとお前を守ると約束した」

「………」

 答えられるわけがない。貴方の気持ちに応えてしまわないように手を握りしめた。

「ビアンカ!お前は俺の後ろに……いや、俺の横に笑ってずっといてくれればいい。絶対に一生お前を守る。子供の頃は守る力すらなかった。でも今は違う。やっと自由になれた、何のしがらみもなく堂々とビアンカのそばで守ることができる」

「でも……」

「いいから俺のそばにいてくれ!名ばかりとはいえダイガットが夫だとお前が思っていた時俺は腹が立って仕方がなかった」

 彼は肩で大きく息を吐いた。

「なんであんな奴のそばにお前がいないといけないんだ、いくらお前を守るためとはいえ許せなかった。だけど王族でしかない俺に勝手は許されない。自由なんてない、俺の意思なんてない。それでもマリアナが俺の婚約者候補でいてくれたおかげで他の女と婚約せずに済んだ」

 王族だからこそ力がある。だけどそれは権力があるからこそどんなことでもしていいとは限らない。権力とは個人の欲望や利益を満たすための手段ではなく、国民の福祉、正義、秩序を守るために使わなければならない。

 だから彼は私を個人的に守ることができなかった。それは王妃様自身もそうだった。

 クーパー侯爵家が私を受け入れたのは王妃様のお気持ちを配慮してのことだったのだろう。そこに多少の打算もあったのかもしれないけど。

「この国では俺は公爵家の孫でしかない。お前を堂々と守ることができる。ずっとそばにいろ、これは……命令だけど……願いだ」

「……私の身分は平民だよ?」

「それなら俺だって平民だ、同じだろう?」

「いいの?」

「いいからここに居る。ビアンカ愛しています」

「私も……ずっと諦めようと思っていたのに……もう諦めなくていい?」

「俺はずっと諦めなかったぞ。何があっても最後まで抗うつもりだった」

「ありがとう」
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