あなたの愛はもう要りません。

たろ

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56話

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 平和な日々が始まった。

 優しいお祖母様や叔父家族と過ごす時間はとても穏やかで笑いが絶えない。
 朝食をすませ、制服に着替えると門の前にフェリックスが迎えに来てくれている。

 本当は彼は学校へ通わずに卒業試験さえ受ければ良かったはずなのに「学校へ一緒に通いたい」と、忙しいのに毎日迎えに来てくれる。

「お祖母様行ってきます!」




 学校へ着くとフェリックスとは別れ、自分の教室へと向かう。そこには友達になったミーシャ達がいる。

 平民とか貴族とか、学校の中では関係なく気の合う仲間と楽しく過ごせるのは新しい国の自由な考え方からきているようだ。

 平等を掲げた国、努力すれば認めてもらえる国。
 今はオリエ様に憧れて彼女の家に度々顔を出してはみんなで話をするのが楽しい。

 昼休み、昼食を食べようとみんなで校舎の裏にある池のほとりのベンチに座りおしゃべりをしていた。

 ここは元々小さな森があって、池もそのまま残されている。

 生徒達がのんびりと過ごせるように整備されていて、ベンチや四阿なども至る所に作られていて生徒達が自由に過ごせる場所だ。

「ねぇ、あそこを見て!」

 友人が指をさして驚いた顔で見つめていた。

「え?」「なになに?」

 指を刺した方向へ目を向けると池の中だった。何かが水飛沫をあげて動いている。

「ちょっと行ってみよう」

「うん」

 4人は恐々と動いているものを確かめようと池の中を見つめた。

「あ、アレは…………猫?」

 猫が必死で体を動かしてもがいていた。

 猫は水を嫌う動物。自ら池に入ること入るのかしら?

「助けなきゃ」

 池の中はあまり綺麗だとは思えない。中に入って助けるのは躊躇われた。
 それに制服でスカート。

 このまま中に入るのは……どうしよう。

 だけど目の前で助けを求める猫を放ってもおけないし。

「誰か男の人を呼んでくる」
「わ、私もその辺に誰かいないか探してみるわ」

 二人がすぐに走っていってしまう。

 私ともう一人の友人は「どうしよう」と顔を見合わせた。

「猫ちゃん、もうすぐ助けがくるから」

 人間の言葉なんてわからないだろうなと思いつつ、励ましの言葉を言うくらいしか出来ない。

「あ、あそこに人がいる!呼んでくるわ」

 友人も少し離れたところにいる男の人を見つけ慌てて駆け出した。

 私はこんな時何も出来ずにいる。

 目の前の猫は力尽きてしまいそうだった。

 今の私にできること……

 池にそっと近づき思いきって池に入った。そこまで深くはない。

 立つことができた。
 制服が濡れて体に引っ付いて歩きにくい。仕方なく泳いでみる。

 うん、なんとか前に進みそう。

 幼い頃、フェリックスに池に落とされ無理やり泳ぎを教わったおかげで泳ぐのは得意だ。

「待ってて」

 猫のところまで泳ぎ着くと猫を抱っこした。しばらく暴れてなかなか抱っこできずにいたけど力を使い果たしたのか優しく宥めたらなんとか落ち着いてきた。

 私はそのまま猫を片手に抱えて泳ぎ始めた。

 岸について先に猫を地面に下ろした。

「猫ちゃん待ってて、私もすぐに池から上がるから」

 地面に手を置きなんとか水の中から出ようと思ったら突然人影が出てきて頭を押さえつけられた。

「ぐはっ……」

 池の汚い水を飲み込んだ。むせて息ができない。

 やめて!く、苦しい……

 声にはならない。……手をばたつかせもがいた。

 だんだん意識が遠のく。

「ビアンカ、あんたのせいでわたくしの人生はめちゃくちゃになったのよ。あんたなんか死ねばいいのよ」

 ………この声は……






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