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60話 お父様。
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「ビアンカ……」
ミラー伯爵は数人の騎士達と静かに目を合わせた。
今はすぐに動くべきではない。
小さいとは言えそれなりの屋敷ではある。中に何人いるのか護衛の数は?ビアンカが何処に運ばれたのか全く状況が掴めない。
ただあの様子から放っておくことはできない。急いで助け出さなければならない。
「君たちは少し離れていてくれ。わたしが屋敷の中に入る」
「危険です」
「大丈夫だ。セシリナはわたしには何もできない。長年の付き合いだ、どうすれば機嫌を取れるかわたしが一番わかっている。ただ……何かあればビアンカを頼む……」
ミラー伯爵は大きく息を吸いふーっと吐き出した。
「行ってくる」
玄関をノックする。
しばらく返事がない。
何度かノックをすると「はい?どちら様ですか?」と年配の女性の怪しんでいる声が聞こえてきた。
「わたしの名前はトマソン・ミラーだ。セシリナの夫だ」
「………」
中から返事はなかった。
ごそごそと動く音が聞こえる。
奥へ行ってセシリナに尋ねているのだろう。
ミラー伯爵は緊張した顔をしていたが、扉が開いた瞬間、伯爵は顔を綻ばせた。
「セシリナ!」
その声は喜びに満ちていた。
「やっと君を探し出したんだ!心配したぞ」
「……あああ……貴方っ!」
「ずっと心配していたんだ。何処も怪我はないか?大変だっただろう?こんな遠くまできていたなんて……」
「貴方はわたくしを心配してくださったの?」
「当たり前だろう?愛する君を一人にさせてしまってずっと不安で仕方がなかったんだ」
「わたくしも貴方を愛しています……でも…知ってしまったのでしょう?わたくしが……アーシャ様を……傷つけてしまったことを……」
ミラー伯爵はセシリナを抱きしめた。
「気にするな。彼女とはもう愛情などなくなっていた。君と再婚してからは君の心からの献身的な愛情にわたしは君を愛さずにいられなかったんだ……」
「本当に?わたくしのことを?」
「もちろんだ、何度も君を愛していると言っただろう?」
「嬉しいわ……さあ、中に入ってください……小さな家ですがおもてなしくらいできますから」
セシリナは愛する夫に再会できたこと、優しい夫の言葉に何も疑わず屋敷へと招き入れた。
ミラー伯爵は屋敷の中に入る時、振り返り冷淡な顔をしていた。そして隠れている騎士達へと目で「少し待っていろ」と合図をした。
見守る騎士達は、本当に妻を愛する優しい夫の姿に内心驚いていたが、振り返った時のミラー伯爵の嫌悪した顔を見て演技なのだと納得した。
一人の騎士はすぐに早馬で応援を要請するために近くの街にある警ら隊の詰め所へと向かった。
数人は屋敷の裏に周り様子を窺った。
すると先ほどビアンカを抱きかかえていた男がキョロキョロとしながら裏の出入り口からこっそりと出てくるのが見えた。
男が屋敷から離れるまで待ち騎士が声をかけた。
「おい止まれ」
男は舌打ちをしたかと思ったら駆け出した。
騎士達はすぐに反応して男を取り押さえた。
ばたつきもがき逃げ出そうとする男を地面に寝転がせ両腕を捻り上げた。
「いってぇなぁ!離せ!!」
「さっき少女を屋敷に連れて入っていただろう?何処へ連れて行った?」
「……なんのことだ?知らないな」
「とぼけるな!」
さらに腕を捻り上げる。
「い、いってぇ!やめろ!痛いだろう?」
「だったら話せ!」
「…………ただ奥様の娘を連れて来ただけだ」
「あんな酷い状態で?」
「……馬車の中でちょっと奥様が躾をしていたみたいだ……たいしたことじゃない」
「たいしたことじゃない?」
「ああ、悪いが俺は馬車から降ろせと言われたからしただけだ。急いでるんだ」
「そうか……急いでいるのか?」
「そうだ、話は終わっただろう?行くぜ」
男は立ち上がり急いで行こうとした。
「やめとけ。逃げれば罪は重くなるぞ。全て話せば伯爵様も少しは温情を与えてくれるかもしれないぞ」
「俺は何にもしていない」
「だったら俺の目を見ろ」
「はっ?目?」
男は目を合わせようとしない。罪の意識からなのか、正面から人の目を見ることができなかった。
ーーこの男は小心者だ。
少し脅せば全て話すだろう。
騎士は伯爵が屋敷に入ったまま出てこないので、その間にこの男から聞き出すことにした。
ミラー伯爵は数人の騎士達と静かに目を合わせた。
今はすぐに動くべきではない。
小さいとは言えそれなりの屋敷ではある。中に何人いるのか護衛の数は?ビアンカが何処に運ばれたのか全く状況が掴めない。
ただあの様子から放っておくことはできない。急いで助け出さなければならない。
「君たちは少し離れていてくれ。わたしが屋敷の中に入る」
「危険です」
「大丈夫だ。セシリナはわたしには何もできない。長年の付き合いだ、どうすれば機嫌を取れるかわたしが一番わかっている。ただ……何かあればビアンカを頼む……」
ミラー伯爵は大きく息を吸いふーっと吐き出した。
「行ってくる」
玄関をノックする。
しばらく返事がない。
何度かノックをすると「はい?どちら様ですか?」と年配の女性の怪しんでいる声が聞こえてきた。
「わたしの名前はトマソン・ミラーだ。セシリナの夫だ」
「………」
中から返事はなかった。
ごそごそと動く音が聞こえる。
奥へ行ってセシリナに尋ねているのだろう。
ミラー伯爵は緊張した顔をしていたが、扉が開いた瞬間、伯爵は顔を綻ばせた。
「セシリナ!」
その声は喜びに満ちていた。
「やっと君を探し出したんだ!心配したぞ」
「……あああ……貴方っ!」
「ずっと心配していたんだ。何処も怪我はないか?大変だっただろう?こんな遠くまできていたなんて……」
「貴方はわたくしを心配してくださったの?」
「当たり前だろう?愛する君を一人にさせてしまってずっと不安で仕方がなかったんだ」
「わたくしも貴方を愛しています……でも…知ってしまったのでしょう?わたくしが……アーシャ様を……傷つけてしまったことを……」
ミラー伯爵はセシリナを抱きしめた。
「気にするな。彼女とはもう愛情などなくなっていた。君と再婚してからは君の心からの献身的な愛情にわたしは君を愛さずにいられなかったんだ……」
「本当に?わたくしのことを?」
「もちろんだ、何度も君を愛していると言っただろう?」
「嬉しいわ……さあ、中に入ってください……小さな家ですがおもてなしくらいできますから」
セシリナは愛する夫に再会できたこと、優しい夫の言葉に何も疑わず屋敷へと招き入れた。
ミラー伯爵は屋敷の中に入る時、振り返り冷淡な顔をしていた。そして隠れている騎士達へと目で「少し待っていろ」と合図をした。
見守る騎士達は、本当に妻を愛する優しい夫の姿に内心驚いていたが、振り返った時のミラー伯爵の嫌悪した顔を見て演技なのだと納得した。
一人の騎士はすぐに早馬で応援を要請するために近くの街にある警ら隊の詰め所へと向かった。
数人は屋敷の裏に周り様子を窺った。
すると先ほどビアンカを抱きかかえていた男がキョロキョロとしながら裏の出入り口からこっそりと出てくるのが見えた。
男が屋敷から離れるまで待ち騎士が声をかけた。
「おい止まれ」
男は舌打ちをしたかと思ったら駆け出した。
騎士達はすぐに反応して男を取り押さえた。
ばたつきもがき逃げ出そうとする男を地面に寝転がせ両腕を捻り上げた。
「いってぇなぁ!離せ!!」
「さっき少女を屋敷に連れて入っていただろう?何処へ連れて行った?」
「……なんのことだ?知らないな」
「とぼけるな!」
さらに腕を捻り上げる。
「い、いってぇ!やめろ!痛いだろう?」
「だったら話せ!」
「…………ただ奥様の娘を連れて来ただけだ」
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「……馬車の中でちょっと奥様が躾をしていたみたいだ……たいしたことじゃない」
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男は目を合わせようとしない。罪の意識からなのか、正面から人の目を見ることができなかった。
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少し脅せば全て話すだろう。
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