あなたの愛はもう要りません。

たろ

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62話 お父様。③

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「セシリナ、ビアンカはどこにいるんだい?」

「気になる?」

「ああ、アレが今苦しんでいると思うと胸がスーッとする。勝手に国から逃げ出したアレに罰を与えたいと思っていたんだ。代わりに君が罰を与えてくれたと聞いて少しは気が晴れたよ……だけど直接見てみたいんだ……」

「ふふふっ。今までは鞭で打っても世間の目があったから見えない太ももや腕にするしかなかったわ。背中はドレスで目立つし、ほんと気を遣ってあげなきゃ体罰もできなかったわ」

 残念そうに顎に手を置き、ため息を漏らす。

「だけど、ここなら好きなだけあの娘に鞭を打てるわ。貴方もしたいでしょう?恐怖に震える顔を見れるのよ?」

 セシリナのどす黒い瞳が夫へと目を向ける。

「愉しいうと思うわ?ねぇ貴方もそう思うでしょう」

「……そうだな」

 ミラー伯爵は、内心吐き気がしたがそれを隠し顔には冷たい空気を纏わせたまま嗤った。

「じゃあ案内してくれるか?」

「もちろんよ。あ、その前に貴方、わたくしの部屋に来て!どれにするか選んでちょうだい」

「選ぶ?」

 ミラー伯爵は眉根を寄せた。

「わたくし、あの娘のために鞭のコレクションをしていたの。小さいながらも痛みをしっかり与える鞭。音だけは大きいけど思ったよりも痛みが少ない鞭」

 廊下を歩きながら愉しそうに説明するセシリナ。

 部屋に入り鞭を見せながら説明が始まった。

「あ、これはね、鞭の痕がバレないようにあまり強くできないけど、あの娘が恐怖で震える姿や泣き叫ぶ姿を見たいときのために用意したのよ?そしてこれはね………」

 逃げできたセシリナは鞭だけはしっかり持ち出してきたと嗤いながら話す。

 それを聞いているミラー伯爵はセシリナを殴りつけたいのをグッと堪えて表情を変えないように耐えるしかなかった。

 ビアンカをとにかく無事に助け出したい。場所さえわかればこの女を縛り上げて……殺してしまいたい。

「じゃあ、わたしはこれにしよう」

 説明を聞いて、適当に鞭を選んだ。

 するとセシリナの顔は満面の笑みで、夫に鞭を渡した。

「この鞭はね、特別に作らせたの。小さいながらも鋭い痛みを与えられるのよ。ミミズ腫れどころか、打つたびに皮膚が切れて血が滲むの。とっても楽しいわよ。さっきもあの娘に使ってあげたの」

「これを?」

「ほら、ここ」

 鞭を指しながら「血がついているでしょう?」と嗤う。

「行こう」

「わかったわ、あの娘は今地下室の倉庫にいるわ」

「地下室?」

「あそこなら泣き叫ぼうと声を出して助けを呼ぼうと聞こえないから近所の人にも怪しまれないわ」

「そうか…」

 ミラー伯爵は言葉を失う。もうこれ以上聞きたくない。だが今は聞くしかない。

 早くビアンカを助けなければ……今彼女はどんな状態なのだろう。

 いっそこの女を締め上げた方が……そう思いながらも地下室に一人でいるのか見張りがいるのかわからない状態で下手に動かない方がいいと自分に言い聞かせ堪えるしかなかった。

 そしてやっと地下室へと案内された。

 セシリナは地下室の前に来て眉を顰めた。

「どうした?」

「見張りがいない。数人ここに配置するように伝えていたのに……中にいるのかしら?」

 扉を開けようとしたので「待て、中で何かあっているのかもしれない」とミラー伯爵が止めた。

 扉に耳を当て中の音を聞いてみたがビアンカの痛みに耐える微かな声しか聞こえない。

 見張りは今どこかにいっているのだと把握したミラー伯爵はセシリナに振り返った。

「どうだった?」

「うん?」

「ビアンカの声は聞こえた?中に見張りがいるのかしら?」

「セシリナ、君も自分で扉に耳を当ててみろ」

「何かあったの?」

 セシリナは夫の隣に立つと嬉しそうに見上げた。

「貴方の隣にいるだけで幸せだわ。
 貴方とあの娘を痛めつけられると思うだけで嬉しい」

 そう言いながら扉に耳を当てた。

 そして、ミラー伯爵はセシリナが耳を当てている姿を見て、素早くセシリナの口をハンカチで抑えた。

 声を出さないように押さえつけ、後ろを振り返る。

 いつの間にか伯爵のそばには騎士達が控えていた。

「この女を静かにさせていろ」

「…グッ……うっ……」

 なぜ?

 セシリナは夫の顔を見た。

 冷淡な顔で汚いものでもみるかのように自分を見つめる夫に驚きと裏切られたショックで目を見開いた。






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