あなたの愛はもう要りません。

たろ

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76話

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 舞踏会のパーティー会場に足を踏み入れた途端目についたのはフェリックス様とミリル様だった。

 美男美女の二人が両陛下の隣に座り談笑している姿が目に入ってしまった。

 目を逸らしてはだめ。

 自分に言い聞かせながらもついアッシュの腕に絡ませた自分の手に力が入ってしまった。

「ビアンカ、向こうへ行こう。挨拶の順番はもう少し先だからね」

 侯爵家は高位貴族なので両陛下への挨拶の順番も早めである。

 だからあまり離れた場所に移動するわけにもいかない。

「先に何か少し食べておこう」

 壁際に用意されたオードブル。アッシュが私の好きな肉料理をお皿に入れて渡してくれた。

「これ好きだろう?」

「うん。だけど肉ばっかり」

「肉を食べたら元気が出るからな」

「ふふっ、そうね」

 アッシュには私の心の中を見透かされている。私の前に立ち、彼らの姿が見えないように隠してくれている気遣いに感謝しながら、料理を食べた。

 本当はあまり味がしないし、何を食べているのかよくわからなかったけどアッシュの優しさのおかげで無理やり飲み込むことができた。

 私は好奇の視線が集まっているのに気づいていた。
 みんなからの面白がって興味津々とこちらをみる視線からアッシュが守ってくれている。

 私はそんな優しさに心が温まる。

 だけど、だからこそ、悔しくて仕方がなかった。

 私が何をしたというの?

 継母や父のしてきたことは私が悪いわけではない。フェリックス様のことだって私が何かしたわけではない。

 フェリックス様が私を捨てミリル様を選んだだけ。
 なのに私はこうして好奇の目に晒され続けなければならないのは理不尽だと思う。

「ビアンカ?」

 私の手の動きが止まり、フォークを握りしめていたようだ。

 アッシュが苦笑しながら「ビアンカ?フォークには肉がついたままだぞ」と言って私の腕を掴むと、フォークを私の口へと運んだ。

「う、ううん?」

 いきなり口に入った肉を頬張りながらなんとか飲み込んだ。

「もう!いきなり口に入れないでよ!」

「いろいろ考え込むな。堂々としていろ。お前は何も悪くない」

「うん、わかってる。ただ、悔しいの。どうして私が悪者のように見られないといけないのか」

「社交界なんてそんなものさ。人の不幸はとても楽しい話題として盛り上がるからな。でもまたすぐに新しい話題が出てお前の噂なんてすぐ消える」

「わかってる、わかってるけど……」

「見せつけてやればいい。お前には俺がいる。そばに居てやるから怖がるな」

 アッシュの顔を見上げるとニヤッと笑った。
 アッシュもかなり整った顔をしていた。フェリックス様とも血が繋がっているだけあってなんとなく似ているところもある。

「うん?ジロジロ俺の顔を見てるけど、そんなにいい男に見える?」

「まぁまぁ、イケてる方かもしれないわ」

「アイツより俺の方がいい男だと思うぞ」

「そうかもね」

 2人で見つめ合って笑い合った。

 アッシュと一緒にいなければこんなにリラックスできなかった。

 不思議と料理が美味しく感じられてくる。

「アッシュ、あそこにあるサンドイッチも食べたい」

「はいはい、お嬢様お待ちください」

 彼が笑いながら料理を取りに行ってくれた。

 アッシュが離れてからなんだか視線を感じて視線の方へと顔を向ける。

 そこにいたのはミリル様だった。

 ミリル様は穏やかに微笑み私を見ていた。

 私も仕方なく微笑み返した。

 フェリックス様はミリル様の近くで他の貴族の人達と談笑していた。

 持っていた料理にさりげなく目線を戻しパクっと料理を食べ始めた。

 誤魔化せたとは思ってはいないけどミリル様と目が合ったからと言って話しかけに行くわけにもいかないし(行きたくないし)無視もしづらい。

 なので「私は食べることに忙しい」フリをした。
 かなり強引で不自然な態度だけど。

 ふと前に陰が。

「アッシュ?」

 料理から目を離し上を見上げるとそこに居たのは……ミリル様とフェリックス様だった。
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