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セザン編 君だけを愛しているんだ。 ④
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「セザン、ダリアは今日貴方に断られたらあの子は……修道院へ行くと決めていたの」
エリーそう言うと、「ダリアをこれ以上泣かせたら絶対許さないから!」
俺は「すまない」そう言って教室を飛び出した。
待っていた馬車に乗り、ダリアの屋敷に向かった。
ダリアの屋敷の門番に止められた。
「セザン様、貴方を通すことは旦那様に禁止されています、許可がおりていません」
「侯爵様からの条件は全てクリアしました。お願いです、通してください」
門番の二人はお互い顔を見合わせて少し考え込んでから
「少しお待ちください」
そう言うと一人が屋敷に聞きに行ってくれた。
待っている時間はとても長く感じた。
「旦那様がお会いすると言っていますので、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
俺を案内してくれたのは、幼い頃から顔見知りの執事だった。
「セザン様、卒業おめでとうとございます」
「ありがとうございます」
執事は優しい物腰だが目はとても怖かった。
そして侯爵は、部屋に入ると机に座ったまま、両手に顎を置き、俺を睨みつけていた。
「セザン、卒業おめでとう」
ここでも執事同様、俺を睨みあげ、それを侯爵は隠そうとしなかった。
「……ダリアは修道院へ明日向かう」
「え?どうして?俺は、いえ僕はまだダリアに何も話せていません。会って今までのことをきちんと説明して謝り、プロポーズしたいんです」
「あの子は部屋にこもって出てこようとしない、無理やり鍵をこじ開けることはできる、でもあの子は泣きながら帰ってきたんだ、そして『わたし明日修道院へ行きます』と言ったまま部屋から出てこない」
「お願いです、話させてください。ユリアンとの仲を噂されていたなんて知らなかった。さっきもユリアンに試験の結果を聞いていたんだけどそれを見られて勘違いされてしまったんです」
「わたしは確かにユリアンという子の成績を上げることを頼んだ。だがそんなにべったり仲良くする必要はあったのか?報告は上がってきている、君は学校で四六時中一緒だったらしいね、ダリアにそんなに見せつけたかったのか?傷つけて楽しかったか?」
「そんな……ダリアに話したらいけないと言ったのは侯爵様です、俺はダリアと話せなくてずっと辛かった、何度も告白されたのに断り続けるのだって本当は嫌だった。ユリアンのことなんて全くなんとも思っていません、好きじゃないから普通に接していられたんです。好きなダリアには話せなくなってからどうしたらいいのかわからなくなっていました。
でも気になって彼女の姿をずっと目で追ってしまう、他の男がダリアと話していると嫉妬でイライラして何度ダリアに好きだと告白しようと思ったか……彼女の横に立ちたい。
それだけのために貴方の言うことを聞いたんです」
「わたしはダリアと話すなと言った。
だがユリアンと誤解されるほど仲良くしろと言ったか?
お前は自分が好きな女が他の男とずっと仲良くしているのを見ても平気なのか?」
「………俺は……ユリアンに対して全く愛情なんかありませんでした、だから何にも考えてなかった。二人っきりにならないように、ダリアに二人っきりではないとわかって欲しくて……だからあえて学園だけで勉強を教えました」
「見せつけていたのではないのか?」
「絶対に違います。二人っきりだと思われたくない!だからたくさんの人の前で彼女に勉強だけを教えていました。二人っきりになったのは試験の結果を聞くために今日空き教室で約束して会ったのが初めてです」
「ダリアは今日君たちが二人っきりのところを見てしまったのか?」
「……すみません、早く結果を知りたくて。早くダリアにプロポーズしたくて……たぶん誤解されたのだと思います。ユリアンは俺のことが好きだと告白されました」
「お前……やはりユリアンにそう思わせる態度をとっていたんだろう?」
「俺は……全くそんな風に思っていません、ただ成績が上がるのが楽しくて……つい夢中で勉強を教えていました」
「はあ……わたしが悪かった。
ユリアンはわたしの友人の隠し子なんだ。母親が亡くなって引き取ろうとしたんだが市井で育ったままでは伯爵令嬢としてみんなの前に立たせることができなくてね。
立ち振る舞い、貴族としての教育、さらに学園で必要とされる勉強をこの一年でみっちり教え込まなければいけなかったんだ。
君の優秀さに目をつけたが、君は家庭教師として優秀すぎたみたいだ」
「……すみません、俺もダリアがバンと仲良くしているのを見るたびにイライラしていました、他の男子がダリアに話すたびに俺のダリアなのにと腹を立てていました。
ダリアだってユリアンと何故いるのか理由も知らなければ傷つきますよね。
俺は理由があって一緒にいるからダリアが嫌な思いをしているなんて思っていませんでした」
「セザン、君は頭が良くても莫迦なのか?」
「……っう…二人っきりにならなければいいと思っていました」
「とにかく……ダリアは部屋から出ようとしない。それだけだ、あと君がどう頑張るかは知らない、好きにしろ。
ただし、卒業パーティーが終わる時間の8時までだ。それが終わってもダリアがプロポーズを受けなければ二度とダリアには会わないでもらいたい。
わたしがダリアを傷つけたお詫びだ、だがそれ以上は君に時間をやるつもりはない」
「ありがとうございます」
俺はすぐにダリアの部屋の前に行った。
何度ノックしても返事はなかった。
あと4時間。
俺は何度鍵を壊して入ろうかと思った。
でも返事がないと言うことはもしかしたらダリアのことだから眠ってしまっているかもしれない。
そう思うと部屋の前にいるしかなかった。
ずっと部屋の前に立っていたら、執事が現れて「お飲み物でもどうぞ」と隣の部屋に促された。
何度か断っていたので流石に悪いと思って仕方なく飲んでいると、隣の部屋からガチャっと扉が開く音がした。
俺が思わず立つと、執事が首を横に振り俺を制した。
ダリアが部屋を出ると、心配して様子を伺っていた使用人達が急いでそばに行く。
「お嬢さま、やっと出てこられたんですね」
ホッとした顔をしたメイドが
「それは…」
ダリアが持っている箱を見つめて聞いていた。
「うん、焼いて捨てて欲しいの。卒業しないとね」
寂しげに言うのが聞こえた。
俺は執事の手を振り払い外に出ようとしたが、執事は俺の肩を掴み離さなかった。
「お嬢様、それは……」
メイドが戸惑っているのがわかった。
「セザンから貰ったプレゼントよ、もう忘れなきゃね。セザンにはユリアン様と言う大切な人がいたのにわたしったらずっとしつこく迫っていたの。莫迦みたいよね?」
「そんなことありません、お嬢様はずっとセザン様のために努力なさいました。
同じ学園に通いたくて健康になろうと嫌いなものも食べたし苦い薬も頑張って飲んだし、少しずつ体力作りりもしました。
お勉強だってダンスだってセザン様の隣に立つのに恥ずかしくないようにと努力してきました。
わたし達はそんなお嬢様が大好きです」
「ありがとう、わたしが頑張ったこの想いを誰かが認めてくれるって嬉しい。
救われた気がするわ、これでもうセザンのことは忘れられるわ」
俺はその言葉を聞いて執事の手を力一杯払いのけた。
「ダリア!」
俺の声を聞いたダリアが振り向いた。
驚いて声が出なかったみたいで、俺がもう一度「ダリア!」と呼んだが一言も発することはなかった。
「俺、ずっとダリアが好きなんだ。ダリアの横に堂々と立ちたくて首位で卒業すると決めて頑張ったんだ。外交官になったのもダリアにプロポーズをするためなんだ。
平民の俺が侯爵令嬢と結婚するためには王立学園の首席で卒業するしかないと思ったんだ、ずっと好きなんだ、君の横に立ちたくてずっと頑張ってきたんだ、結婚してください」
もう周りの人なんかどうでもいい。
もう情けなくてもいい。
好きなのはダリアでダリアに捨てられたら俺は死にたくなる。
「うそよ。だって貴方はいつもユリアン様とずっと一緒にいたわ。それに今日もユリアン様と二人っきりでいたわ。『本当はまだ一緒にいてあげたかった』と言ってたわ。
わたしのこと本当は鬱陶しかったのでしょう?莫迦みたいに毎日『好きです』って言い続けて。
わたしのことが好きだったらユリアン様とずっと一緒になんていないわ、それにわたしがどんなに告白してもわたしの告白を断ったじゃない。
信じられるわけがないわ!」
「……それは…それには理由があるんだ」
「理由?」
「……ごめん、許可を得てないから言えない」
「やっぱりユリアン様のことが好きだったのよね、わたしのことは可哀想だと思ってそんなことを言ってるんでしょう?もういいわ、放っておいて」
「すまない」
俺の後ろから聞こえてきた声は……
「お父様?」
ダリアが侯爵を見てキョトンとしていた。
「何故お父様が謝るのですか?」
「……わたしがセザンに意地悪をしたんだ。それが原因でダリアを傷つけた、すまなかった」
「え?」
ダリアは自分の父親の突然の謝罪に驚いていた。
そして俺と侯爵の5年前の約束と半年前のユリアンにした依頼の話を聞かせた。
ダリアは俺と父親を何度も見て、大きなため息を吐いた。
「わたしがこんなに苦しんだのは……セザンの勝手なプライドとお父様のセザンへの嫌がらせだったんですね」
「ごめん、俺は侯爵との約束を守られなければと思い込んでいた。ダリアと婚約できないなんて嫌だったんだ。堂々と自分の実力でダリアの横に立ちたかった。それにユリアンのことはなんとも思っていない。告白されたけど俺が好きなのはダリアだって言ってはっきり断ってきた。
俺が好きなのはダリアだけなんだ、何度も君を傷つけた、だからもう諦めようと思った、なのに諦められなかったんだ。
初めて会った日からずっと君だけを好きなんだ」
「わたしは、ずっとずっとセザンが好きだって何回も告白したわ、なのに一度も答えてくれなかった!それがどんなに辛くて悲しいかわかる?」
「ごめん、侯爵との約束だからと守ってしまった。
君と婚約できなくなるのが嫌だったんだ。君を傷つけているのはわかっていたけど、君と婚約できたら絶対にその分幸せにするんだって思ってた」
「セザン……わたし、もう諦めることにしたの。セザンはユリアン様が好きだから」
「絶対に違う!好きなのは愛しているのはダリアだけだ、学園でもいつも君の姿をずっと追っていたんだ。
君がエリー達と話している会話だってつい聞き耳を立てていた。
マーガレットやお袋と仲良くしている姿を見て腹が立ってついマーガレットに意地悪してしまった。
バンがダリアに話しかけているのを見て嫉妬してた。俺はダリアと話すことを禁じられているのに他の男達はダリアと仲良く話しているのを俺はずっと悔しくて腹が立って、何度ダリアをその場から連れ出そうと思ったか……首位を取って、取り続けて、何があってもダリアと結婚するんだって、それだけを夢見てずっと過ごしたんだ」
「……わたしが……好きって言ったらどうするの?」
「俺は、ずっとダリアだけを愛しています、結婚してください」
ダリアは俯いて返事をしてくれなかった。
でも……床にはたくさんの涙が落ちて濡れていた。
俺はまた間違えたのか?
もう無理なのか?
だったら……
「ダリアがずっと好きだと言ってくれ続けてくれたから、今度は俺が君に「好きだ、愛している」と言い続けるよ。
君がどんなに返事をくれなくても俺は諦めない。君が俺のことを諦めたなら、もう一度君に好きになってもらえるように努力する」
「……もう貴方のことなんか嫌いでも?」
「うん、嫌われても断られても、俺は諦めない。君を愛しているんだ。今度は俺が君を追いかけるよ」
「……ごめんなさい。わたしは貴方のことまだ信用出来ない」
「うん、信用されるように努力するよ」
ーーー俺はダリアに受け入れてもらえなかった。
それでもダリアは修道院へ行くことだけは諦めてくれた。
侯爵もタイムリミットを過ぎても、俺がダリアに会いに来ることだけは認めてくれた。
それから俺は外交官として働き出した。
会えない日が続く。
その間毎日手紙を欠かさず書き続けた。
もちろんダリアから返事はなかった。
それでも諦めることはできなくて……
会いに行っても会ってもらえない。
そんな日々が結局一年続いた。
仕事の合間に国に戻ってきてはダリアに会いに行った。
マーガレットには「ダリア様が可哀想だから諦めてあげて!」
何度も注意されたがそんな言葉は無視した。
エリーには「あんたが悪いんだからわたしは助けないから!」と宣言された。
侯爵には「そろそろ諦めなさい、ダリアには他にいい人を見つけるつもりだから」と諭された。
「俺はダリアだけなんです。ずっと会って貰えなくても返事をしてもらえなくてもダリアしかいりません。ダリアに辛い思いをさせた俺を許してもらえるまで待ち続けます。
もしそれでもダメでダリアが他の人を選ぶなら俺はダリアの幸せを願います、本当はいやかなりそれだけは嫌ですけど、もしその相手が幸せにしないなら俺がもらいます」
「……だってさ、ダリア。そろそろ出てきなさい」
侯爵が隠れているダリアに声をかけた。
俺は一年ぶりに会ったダリアに、声を失った。
久しぶりに会ったダリアはより一層綺麗になっていた。
眩しくて、ドキドキして……
俺はまた恋をする。
「ダリア……愛し…て…います」
俺は震える声でなんとかそう言うのが精一杯だった。
ダリアは諦めたように苦笑いをした。
「セザン……わたしも……貴方が好きです」
そしてあの頃の笑顔を俺に向けてくれた。
俺は何度もダリアに恋をする。
もうダリアを離さない、俺はダリアを抱きしめた。
END
エリーそう言うと、「ダリアをこれ以上泣かせたら絶対許さないから!」
俺は「すまない」そう言って教室を飛び出した。
待っていた馬車に乗り、ダリアの屋敷に向かった。
ダリアの屋敷の門番に止められた。
「セザン様、貴方を通すことは旦那様に禁止されています、許可がおりていません」
「侯爵様からの条件は全てクリアしました。お願いです、通してください」
門番の二人はお互い顔を見合わせて少し考え込んでから
「少しお待ちください」
そう言うと一人が屋敷に聞きに行ってくれた。
待っている時間はとても長く感じた。
「旦那様がお会いすると言っていますので、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
俺を案内してくれたのは、幼い頃から顔見知りの執事だった。
「セザン様、卒業おめでとうとございます」
「ありがとうございます」
執事は優しい物腰だが目はとても怖かった。
そして侯爵は、部屋に入ると机に座ったまま、両手に顎を置き、俺を睨みつけていた。
「セザン、卒業おめでとう」
ここでも執事同様、俺を睨みあげ、それを侯爵は隠そうとしなかった。
「……ダリアは修道院へ明日向かう」
「え?どうして?俺は、いえ僕はまだダリアに何も話せていません。会って今までのことをきちんと説明して謝り、プロポーズしたいんです」
「あの子は部屋にこもって出てこようとしない、無理やり鍵をこじ開けることはできる、でもあの子は泣きながら帰ってきたんだ、そして『わたし明日修道院へ行きます』と言ったまま部屋から出てこない」
「お願いです、話させてください。ユリアンとの仲を噂されていたなんて知らなかった。さっきもユリアンに試験の結果を聞いていたんだけどそれを見られて勘違いされてしまったんです」
「わたしは確かにユリアンという子の成績を上げることを頼んだ。だがそんなにべったり仲良くする必要はあったのか?報告は上がってきている、君は学校で四六時中一緒だったらしいね、ダリアにそんなに見せつけたかったのか?傷つけて楽しかったか?」
「そんな……ダリアに話したらいけないと言ったのは侯爵様です、俺はダリアと話せなくてずっと辛かった、何度も告白されたのに断り続けるのだって本当は嫌だった。ユリアンのことなんて全くなんとも思っていません、好きじゃないから普通に接していられたんです。好きなダリアには話せなくなってからどうしたらいいのかわからなくなっていました。
でも気になって彼女の姿をずっと目で追ってしまう、他の男がダリアと話していると嫉妬でイライラして何度ダリアに好きだと告白しようと思ったか……彼女の横に立ちたい。
それだけのために貴方の言うことを聞いたんです」
「わたしはダリアと話すなと言った。
だがユリアンと誤解されるほど仲良くしろと言ったか?
お前は自分が好きな女が他の男とずっと仲良くしているのを見ても平気なのか?」
「………俺は……ユリアンに対して全く愛情なんかありませんでした、だから何にも考えてなかった。二人っきりにならないように、ダリアに二人っきりではないとわかって欲しくて……だからあえて学園だけで勉強を教えました」
「見せつけていたのではないのか?」
「絶対に違います。二人っきりだと思われたくない!だからたくさんの人の前で彼女に勉強だけを教えていました。二人っきりになったのは試験の結果を聞くために今日空き教室で約束して会ったのが初めてです」
「ダリアは今日君たちが二人っきりのところを見てしまったのか?」
「……すみません、早く結果を知りたくて。早くダリアにプロポーズしたくて……たぶん誤解されたのだと思います。ユリアンは俺のことが好きだと告白されました」
「お前……やはりユリアンにそう思わせる態度をとっていたんだろう?」
「俺は……全くそんな風に思っていません、ただ成績が上がるのが楽しくて……つい夢中で勉強を教えていました」
「はあ……わたしが悪かった。
ユリアンはわたしの友人の隠し子なんだ。母親が亡くなって引き取ろうとしたんだが市井で育ったままでは伯爵令嬢としてみんなの前に立たせることができなくてね。
立ち振る舞い、貴族としての教育、さらに学園で必要とされる勉強をこの一年でみっちり教え込まなければいけなかったんだ。
君の優秀さに目をつけたが、君は家庭教師として優秀すぎたみたいだ」
「……すみません、俺もダリアがバンと仲良くしているのを見るたびにイライラしていました、他の男子がダリアに話すたびに俺のダリアなのにと腹を立てていました。
ダリアだってユリアンと何故いるのか理由も知らなければ傷つきますよね。
俺は理由があって一緒にいるからダリアが嫌な思いをしているなんて思っていませんでした」
「セザン、君は頭が良くても莫迦なのか?」
「……っう…二人っきりにならなければいいと思っていました」
「とにかく……ダリアは部屋から出ようとしない。それだけだ、あと君がどう頑張るかは知らない、好きにしろ。
ただし、卒業パーティーが終わる時間の8時までだ。それが終わってもダリアがプロポーズを受けなければ二度とダリアには会わないでもらいたい。
わたしがダリアを傷つけたお詫びだ、だがそれ以上は君に時間をやるつもりはない」
「ありがとうございます」
俺はすぐにダリアの部屋の前に行った。
何度ノックしても返事はなかった。
あと4時間。
俺は何度鍵を壊して入ろうかと思った。
でも返事がないと言うことはもしかしたらダリアのことだから眠ってしまっているかもしれない。
そう思うと部屋の前にいるしかなかった。
ずっと部屋の前に立っていたら、執事が現れて「お飲み物でもどうぞ」と隣の部屋に促された。
何度か断っていたので流石に悪いと思って仕方なく飲んでいると、隣の部屋からガチャっと扉が開く音がした。
俺が思わず立つと、執事が首を横に振り俺を制した。
ダリアが部屋を出ると、心配して様子を伺っていた使用人達が急いでそばに行く。
「お嬢さま、やっと出てこられたんですね」
ホッとした顔をしたメイドが
「それは…」
ダリアが持っている箱を見つめて聞いていた。
「うん、焼いて捨てて欲しいの。卒業しないとね」
寂しげに言うのが聞こえた。
俺は執事の手を振り払い外に出ようとしたが、執事は俺の肩を掴み離さなかった。
「お嬢様、それは……」
メイドが戸惑っているのがわかった。
「セザンから貰ったプレゼントよ、もう忘れなきゃね。セザンにはユリアン様と言う大切な人がいたのにわたしったらずっとしつこく迫っていたの。莫迦みたいよね?」
「そんなことありません、お嬢様はずっとセザン様のために努力なさいました。
同じ学園に通いたくて健康になろうと嫌いなものも食べたし苦い薬も頑張って飲んだし、少しずつ体力作りりもしました。
お勉強だってダンスだってセザン様の隣に立つのに恥ずかしくないようにと努力してきました。
わたし達はそんなお嬢様が大好きです」
「ありがとう、わたしが頑張ったこの想いを誰かが認めてくれるって嬉しい。
救われた気がするわ、これでもうセザンのことは忘れられるわ」
俺はその言葉を聞いて執事の手を力一杯払いのけた。
「ダリア!」
俺の声を聞いたダリアが振り向いた。
驚いて声が出なかったみたいで、俺がもう一度「ダリア!」と呼んだが一言も発することはなかった。
「俺、ずっとダリアが好きなんだ。ダリアの横に堂々と立ちたくて首位で卒業すると決めて頑張ったんだ。外交官になったのもダリアにプロポーズをするためなんだ。
平民の俺が侯爵令嬢と結婚するためには王立学園の首席で卒業するしかないと思ったんだ、ずっと好きなんだ、君の横に立ちたくてずっと頑張ってきたんだ、結婚してください」
もう周りの人なんかどうでもいい。
もう情けなくてもいい。
好きなのはダリアでダリアに捨てられたら俺は死にたくなる。
「うそよ。だって貴方はいつもユリアン様とずっと一緒にいたわ。それに今日もユリアン様と二人っきりでいたわ。『本当はまだ一緒にいてあげたかった』と言ってたわ。
わたしのこと本当は鬱陶しかったのでしょう?莫迦みたいに毎日『好きです』って言い続けて。
わたしのことが好きだったらユリアン様とずっと一緒になんていないわ、それにわたしがどんなに告白してもわたしの告白を断ったじゃない。
信じられるわけがないわ!」
「……それは…それには理由があるんだ」
「理由?」
「……ごめん、許可を得てないから言えない」
「やっぱりユリアン様のことが好きだったのよね、わたしのことは可哀想だと思ってそんなことを言ってるんでしょう?もういいわ、放っておいて」
「すまない」
俺の後ろから聞こえてきた声は……
「お父様?」
ダリアが侯爵を見てキョトンとしていた。
「何故お父様が謝るのですか?」
「……わたしがセザンに意地悪をしたんだ。それが原因でダリアを傷つけた、すまなかった」
「え?」
ダリアは自分の父親の突然の謝罪に驚いていた。
そして俺と侯爵の5年前の約束と半年前のユリアンにした依頼の話を聞かせた。
ダリアは俺と父親を何度も見て、大きなため息を吐いた。
「わたしがこんなに苦しんだのは……セザンの勝手なプライドとお父様のセザンへの嫌がらせだったんですね」
「ごめん、俺は侯爵との約束を守られなければと思い込んでいた。ダリアと婚約できないなんて嫌だったんだ。堂々と自分の実力でダリアの横に立ちたかった。それにユリアンのことはなんとも思っていない。告白されたけど俺が好きなのはダリアだって言ってはっきり断ってきた。
俺が好きなのはダリアだけなんだ、何度も君を傷つけた、だからもう諦めようと思った、なのに諦められなかったんだ。
初めて会った日からずっと君だけを好きなんだ」
「わたしは、ずっとずっとセザンが好きだって何回も告白したわ、なのに一度も答えてくれなかった!それがどんなに辛くて悲しいかわかる?」
「ごめん、侯爵との約束だからと守ってしまった。
君と婚約できなくなるのが嫌だったんだ。君を傷つけているのはわかっていたけど、君と婚約できたら絶対にその分幸せにするんだって思ってた」
「セザン……わたし、もう諦めることにしたの。セザンはユリアン様が好きだから」
「絶対に違う!好きなのは愛しているのはダリアだけだ、学園でもいつも君の姿をずっと追っていたんだ。
君がエリー達と話している会話だってつい聞き耳を立てていた。
マーガレットやお袋と仲良くしている姿を見て腹が立ってついマーガレットに意地悪してしまった。
バンがダリアに話しかけているのを見て嫉妬してた。俺はダリアと話すことを禁じられているのに他の男達はダリアと仲良く話しているのを俺はずっと悔しくて腹が立って、何度ダリアをその場から連れ出そうと思ったか……首位を取って、取り続けて、何があってもダリアと結婚するんだって、それだけを夢見てずっと過ごしたんだ」
「……わたしが……好きって言ったらどうするの?」
「俺は、ずっとダリアだけを愛しています、結婚してください」
ダリアは俯いて返事をしてくれなかった。
でも……床にはたくさんの涙が落ちて濡れていた。
俺はまた間違えたのか?
もう無理なのか?
だったら……
「ダリアがずっと好きだと言ってくれ続けてくれたから、今度は俺が君に「好きだ、愛している」と言い続けるよ。
君がどんなに返事をくれなくても俺は諦めない。君が俺のことを諦めたなら、もう一度君に好きになってもらえるように努力する」
「……もう貴方のことなんか嫌いでも?」
「うん、嫌われても断られても、俺は諦めない。君を愛しているんだ。今度は俺が君を追いかけるよ」
「……ごめんなさい。わたしは貴方のことまだ信用出来ない」
「うん、信用されるように努力するよ」
ーーー俺はダリアに受け入れてもらえなかった。
それでもダリアは修道院へ行くことだけは諦めてくれた。
侯爵もタイムリミットを過ぎても、俺がダリアに会いに来ることだけは認めてくれた。
それから俺は外交官として働き出した。
会えない日が続く。
その間毎日手紙を欠かさず書き続けた。
もちろんダリアから返事はなかった。
それでも諦めることはできなくて……
会いに行っても会ってもらえない。
そんな日々が結局一年続いた。
仕事の合間に国に戻ってきてはダリアに会いに行った。
マーガレットには「ダリア様が可哀想だから諦めてあげて!」
何度も注意されたがそんな言葉は無視した。
エリーには「あんたが悪いんだからわたしは助けないから!」と宣言された。
侯爵には「そろそろ諦めなさい、ダリアには他にいい人を見つけるつもりだから」と諭された。
「俺はダリアだけなんです。ずっと会って貰えなくても返事をしてもらえなくてもダリアしかいりません。ダリアに辛い思いをさせた俺を許してもらえるまで待ち続けます。
もしそれでもダメでダリアが他の人を選ぶなら俺はダリアの幸せを願います、本当はいやかなりそれだけは嫌ですけど、もしその相手が幸せにしないなら俺がもらいます」
「……だってさ、ダリア。そろそろ出てきなさい」
侯爵が隠れているダリアに声をかけた。
俺は一年ぶりに会ったダリアに、声を失った。
久しぶりに会ったダリアはより一層綺麗になっていた。
眩しくて、ドキドキして……
俺はまた恋をする。
「ダリア……愛し…て…います」
俺は震える声でなんとかそう言うのが精一杯だった。
ダリアは諦めたように苦笑いをした。
「セザン……わたしも……貴方が好きです」
そしてあの頃の笑顔を俺に向けてくれた。
俺は何度もダリアに恋をする。
もうダリアを離さない、俺はダリアを抱きしめた。
END
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