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(まだ)離縁しません
後編 (後)
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「だって……わたしここでの生活がとっても幸せなんだもの。それにフランともう会えないなんて耐えられない。
あ、でも、旦那様が結婚したら元妻のわたしは目障りになるわよね?どうしよう」
ーーでもフランと離れたくない。
「わたし、叔父様の商会で働こうかしら?」
「どうしてそうなるんですか?」
「叔父様の商会はここの屋敷も出入りしているでしょう?それなら新しい奥様にはバレないように商会の従業員として出入りできるじゃない?あ、でも、奥様にお会いすることもあるか……」
「アンナ様、いっそ、旦那様に離縁はしたくないと伝えたらいかがですか?」
「ダメよ!旦那様との契約だもの。しっかり契約書も書いてるのよ?契約終了の日まできちんと記されているの」
「そんなの破棄すればいいだけですよ」
「はあああ、何かいい方法はないかしら?フランにこのまま嫌われてお別れなんてしたくないの」
二人で腕を組んで「うーん」と唸っていると突然扉が開いた。
「大変です!フラン様が暴れております」
使用人がノックもせずに入ってきたことを注意する間もなく「どこにいるの?」と使用人に詰め寄った。
「玄関のところです」
「わかったわ」
わたしは廊下を走り階段を駆け降りた。
「フラン!」
玄関に行くとフランが旦那様に向かって殴りかかろうとしているところだった。
「ダメ!」
フランの腕を掴んで止めようとした。
旦那様からすれば子供のフランなんて大した力もないと思っているのかもしれない。
でも子供が親を殴るなんて、絶対してはいけないことよ!
「うるさい!くそババア!」
わたしの腕を振り払う。
「フラン!ダメ!」
わたしはもう一度フランの腕を掴んだ。子供とはいえ7歳の男の子。剣術の鍛錬をしているだけあって力も強くなっていた。
でもその時のわたしはそんなこと忘れていた。
「アンナ、危ないから君は向こうへ行ってなさい」
旦那様がわたしに退くように言った。
「嫌です!フランお願いやめて!」
「うるさい!五月蝿い!アンナなんか大っ嫌いだ!」
フランはわたしの手を思いっきり振り解いた。
その拍子にわたしはフラフラと後ろに後退り足がガクッとなって体のバランスを崩した。
「きゃっ」
後ろの壁に向かって倒れ、ちょうど運悪く頭を花瓶の台にぶつけた。
痛い!
一瞬の出来事で誰も助けることはできなかった。
「「アンナ!」」
「アンナ様!」
わたしを呼ぶ声が聞こえる。
だけど……心配かけてごめんね。でも声が出ない……なんだか頭がぼーーっとしてきた。
頭から出血しているのはなんとなくわかる。
ーーこのまま死ぬのかな?もう少しかっこよく死にたかったかも。
そんなことを思いながらわたしは意識を手放した。
「姉上!」
ーーうん?この声はアルバード?
目を開けると心配そうに覗き込むアルバードがいた。
「アルバード、どうしたの?今勉強が一番大変な時期でしょう?」
「姉上………今いつだと思っているんですか?」
あ、いつものアルバードの顔に戻った。
「今?何言ってるの、わたしが怪我して意識失って何日も経ったとでも言うの?」
「………半年間あなたは意識を取り戻さなかったんです。僕はもうすぐ卒業します、もう学校の授業の単位は取ってしまったので、ここにいさせてもらっていたんです」
「半年間?」
ーー半年って…….えっ?ええええっ⁈
「嘘だよね?」
「本当です。とりあえず医者を呼びます。あとフラン様と義兄上も。みんな心配していたんですよ!」
ーーそりゃそうだよね。
アルバードが部屋を出て行き周囲を見回した。別に半年経ったなんて気配はない。部屋も変わっていないし、鏡で自分の顔を見るとすごく老けたわけでもない。
でも、髪の毛が確かに長い。伸びてる!
あれ?そういえばわたしもう結婚の契約期間過ぎてしまってる……
「アンナ!」
「アンナ様」
フランの声とリナの声が部屋の外から聞こえてきた。
ふふ、走ってきてる。
廊下は走ったらダメなのに。
わたしもフランが暴れてると聞いて思わずさっき走ったもの。叱れないわね。………半年前だった………時間の感覚が……掴めないわ。
「アンナ!」
走って入ってきたフラン。
うん?フランの髪が伸びてる。短かったはずのフランが、天使のフランが、可愛らしい女の子のようになってる。
「フラン、可愛い!!!どうしたのその髪?可愛い!!やだ、どうしよう!わたしのフランがますます可愛くなってるわ!」
「アンナ!何わけわかんないこと言ってるの?そんなことより、どこも悪くない?もしかして頭を打って頭が変になったの?」
わたしがフランの可愛さに夢中になってたらフランが変なことを言う。
「失礼ね!わたしは正常よ!ただ、半年間も寝てたらしくてフランの可愛らしい成長についていけなくて戸惑ってるの!ずっと短くしていたのに、どうして伸ばしたの?剣術の鍛錬の時、邪魔だから伸ばさないって言ってたじゃない」
「アンナが目覚めないから。願掛けで伸ばしたの。アンナが死んだらどうしよう……アンナがずっと目覚めなかったらどうしよう。僕、アンナを殺してしまったらどうしようって………」
フランが泣き出した。
「ごめん、フラン。辛い思いをして過ごしたのね?わたしったらフランの可愛さに夢中で、フラン達の気持ちなんて考えていなかったわ」
そうだよね、わたしももしフランが意識を取り戻さない日々が続いたら同じこと思うもの。
「フラン、抱きしめてもいい?」
わたしの言葉にフランが「うん」と言ってベッドの上にあがってくれた。
うん、半年が経ったのがわかる。
フランが少し大きくなってる。
子供の成長はとても早いもの。
わたしはフランを抱きしめて、頭を撫でた。
いつものフランなら「やめて!」とすぐ逃げるのに今日のフランは自分から小さな手をわたしの背中に回してきてギュッと抱きしめてくれた。
「アンナ、もうどこにも行かないで」
「もちろんよどこにも行かないわ」
「ほんと?」
「うん、心配かけてごめんね」
「僕も、アンナのこと無視したり意地悪してごめんね」
「あら?もうわたしのこと嫌いにならない?」
「嫌いじゃない。大好きだから、父様と離縁するって聞いて嫌だったんだ。僕をおいていなくなるなんて嫌だったんだ」
「…………離縁…………あ、フラン、ごめん。わたし離縁もうしていると思うの、だって契約期間は過ぎているし、離婚証明書にサインしてるもの」
「えっ?」
フランの声が震えてる。
「やだ!アンナ出て行かないで!」
「わたしね、離縁しても出て行かないで済むように旦那様にここの屋敷で使用人として働かせてもらえないかお願いしようかと思っていたの。元々使用人として働く予定だったし。あ、でも、旦那様もう再婚されたかしら?そしたらやっぱり元妻がいると邪魔かしら?フラン、どう思う?」
「アンナってやっぱり変だね」
「なに?どうしてそんなこと言うの?フランと離れたくないって思って考えたのよ?使用人がダメなら叔父様のところで働いて出入りの業者として屋敷に来て、フランに会うとかも考えているの。フランと会えるように努力はするつもりよ」
二人で話していると旦那様がやってきた。
「アンナ、目覚めてよかった」
「旦那様、ご心配をおかけしました。半年間も眠っていたなんて、ご迷惑をおかけいたしました。体が動けるようになったらすぐにでも屋敷を出て行きますので、あと少しの間ここにいさせてもらってもいいですか?」
「君はなにを言い出すんだ?離縁したと思っているのか?」
「契約期間をかなり過ぎていますし……申し訳ありません」
「離縁はしていない。君が眠り続けているのに勝手に離縁なんてしないよ」
「………そうですよね?じゃあ、今からでも提出してください。アルバードもいることですし二人で出て行きますので」
「はああ、君は半年前のままだったんだ……」
旦那様が大きな溜息をついた。
「半年前のまま?とは?」
「フランと僕が言い合いをしていたのは、フランがアンナを追い出すなら僕も出て行くと言い出したからなんだ。僕は契約が終わったら一度離縁するつもりだとフランに言ったら怒り出したんだ。それであんなことになった。
アンナ、痛い思いをさせてすまなかった。助けてあげられなくてすまなかった」
「いやいや、勝手に転んだのはわたしなので、謝る必要などありません。わたしの方がご心配とご迷惑をおかけしたんです。では、離縁しましょう」
離縁はまだ待ってくれていたのね。なんだか使用人として雇って欲しいなんて言いにくいわ。
「父様、早く!」
わたしに抱っこされたフランが旦那様に何故か急かすように何度も「早く言ってよ!」とぶつぶつ言ってる。
フランのこの文句を言う時の顔も好き!
笑った顔も天使みたいで可愛いけど、ちょっと拗ねた顔も可愛いし、抱っこされて見上げてくる顔も可愛い。
わたしのフランは何をしても可愛いらしい。
「ふふふふっ」
「アンナ、何笑ってるの?気持ち悪いよ」
フランにいつものように突っ込まれた。
やっとフランがいつものフランに戻ってくれた。無視されるのは辛かった。もうあんな冷たい目で見られたくない。
「フラン、大好きよ」
「知ってる」
「本当に?もう無視しないで、悲しくなってしまう」
「ごめんなさい、アンナ」
「じゃあ仲直りだね?」
「うん、喧嘩してたわけじゃないけどね」
「ふふ、そうだよね」
「あーー、そろそろ僕の話も続けていいかな?」
旦那様が気まずそうに話しかけてきた。
ーー忘れてた、旦那様のこと。
「契約通り離縁しましょう、旦那様」
「離縁は一応するよ。契約だからね」
「はい、お世話になりました」
「あの…………「「ただ……」」
二人の声が重なった。
旦那様とわたし、視線が重なる。
「アンナ、離縁はする。だけどこのままこの屋敷にいて欲しい」
「はい、ありがとうございます。わたしもそれをお願いするつもりでした」
「じゃあ、この屋敷にいてくれるのか?」
「こちらこそいいのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。では早めに片付けて部屋を移ります」
「そうか、そんなに早く気持ちの整理をつけてくれるのか」
「はい、フランの部屋の隣がわたしの部屋でしたが、もうわたしの立場は違いますからすぐに出て行きます」
「いや、君の立場は変わっても、フランにとっては変わらないよ。フランは寂しがるだろうけど仕方がないよ」
「ありがとうございます、お気を使わせてしまって」
「リナ、じゃあ準備を頼む。僕はいつでもいいからね」
後ろで控えてくれていたリナが申し訳なさそうにわたし達の会話に入ってきた。
「あの失礼を承知で発言してもよろしいでしょうか?」
旦那様におずおずと話し出すリナ。
「うん、どうしたんだい?」
「アンナ様はこの部屋を出て使用人部屋に行くつもりですよね?」
「もちろんよ。離縁してもここにいていいって今旦那様が言ったわ」
「は?使用人部屋?」
旦那様が驚いた顔をしていた。
「え?ダメなんですか?やっぱり旦那様の再婚することを考えたら元妻がここで働くなんてダメですかね?」
「違う!部屋の移動は、僕の部屋に、夫婦の部屋に移動するってことじゃないのか?」
「夫婦の部屋?どうして?離縁するのに?」
「離縁はするよ、契約だからね。だからこれからは本当の夫婦として暮らすつもりだったんだ」
「そんな話聞いていません!旦那様、いつそんなこと言いました?」
「忘れてるの?フランの本当の母親にならないかと結婚してすぐ夜会の時に言っただろう?そしてプロポーズしたつもりだったんだけど?」
「あの発言がプロポーズ?わたし、確かそ『れはちょっと……』と言ったような気がするのですが?」
「そうだったかな?あの時は結構酒を飲んでいたからね。君が可愛すぎて、プロポーズするのに少し酔わないと照れて言えなくてね」
「離縁は……」
「契約だからね、一応離縁はするよ、でも今度は本当の夫婦として暮らせるね?フランにはケジメとしてそう言ったんだけど、彼には伝わっていないんだ」
「僕、もうわかってるよ。でも、やっぱりアンナはわかってなかったよ!アンナ、アンナは今日から本当のお母様だ!大好きだよ!」
わたしの体をぎゅうぎゅうと抱きしめるフラン。
リナと扉の入り口で立っているアルバードはそんなわたしを可哀想な目で見ている。
多分二人はわたしが眠り続けている半年間の間に、旦那様から話を聞いて知っていたのね。
わたしだけ、離縁すると思い続けていたみたい。
そして、わたしは離縁しました。
旦那様にはまだフランほどの溢れる愛はないけど、三年間契約とはいえ夫婦生活をしてきただけあって、家族としての情はもうしっかりありました。
だから、すぐに再婚して、今は夫婦の部屋で暮らしております。
はい、わたしのお腹にはフランの弟が妹が入っております。
あと二月程で生まれる予定です。
アルバードは卒業して王城で文官として働き始めました。そして旦那様の部下になりました。
マーシャが屋敷に子供を連れて遊びにきてくれます。
「アンナの長すぎる初恋がやっと実ったわね」
と苦笑いをしております。
わたし……実は、旦那様のこと……(側から見れば)……大好きだったらしいのです。
わたし自身、全くの無自覚でした。
フランはお兄ちゃんになるからと、勉強も剣術の鍛錬も頑張っています。
もうその一生懸命な姿が可愛くて、かっこよくて、一人のたうち回っております。尊い。
もうすぐ四人家族になるけど、やはりわたしの推しはフランで、わたしの天使はフランであります。
「アンナ、大好きだよ」
フランのその言葉だけでわたしは幸せです。
あ、でも、旦那様が結婚したら元妻のわたしは目障りになるわよね?どうしよう」
ーーでもフランと離れたくない。
「わたし、叔父様の商会で働こうかしら?」
「どうしてそうなるんですか?」
「叔父様の商会はここの屋敷も出入りしているでしょう?それなら新しい奥様にはバレないように商会の従業員として出入りできるじゃない?あ、でも、奥様にお会いすることもあるか……」
「アンナ様、いっそ、旦那様に離縁はしたくないと伝えたらいかがですか?」
「ダメよ!旦那様との契約だもの。しっかり契約書も書いてるのよ?契約終了の日まできちんと記されているの」
「そんなの破棄すればいいだけですよ」
「はあああ、何かいい方法はないかしら?フランにこのまま嫌われてお別れなんてしたくないの」
二人で腕を組んで「うーん」と唸っていると突然扉が開いた。
「大変です!フラン様が暴れております」
使用人がノックもせずに入ってきたことを注意する間もなく「どこにいるの?」と使用人に詰め寄った。
「玄関のところです」
「わかったわ」
わたしは廊下を走り階段を駆け降りた。
「フラン!」
玄関に行くとフランが旦那様に向かって殴りかかろうとしているところだった。
「ダメ!」
フランの腕を掴んで止めようとした。
旦那様からすれば子供のフランなんて大した力もないと思っているのかもしれない。
でも子供が親を殴るなんて、絶対してはいけないことよ!
「うるさい!くそババア!」
わたしの腕を振り払う。
「フラン!ダメ!」
わたしはもう一度フランの腕を掴んだ。子供とはいえ7歳の男の子。剣術の鍛錬をしているだけあって力も強くなっていた。
でもその時のわたしはそんなこと忘れていた。
「アンナ、危ないから君は向こうへ行ってなさい」
旦那様がわたしに退くように言った。
「嫌です!フランお願いやめて!」
「うるさい!五月蝿い!アンナなんか大っ嫌いだ!」
フランはわたしの手を思いっきり振り解いた。
その拍子にわたしはフラフラと後ろに後退り足がガクッとなって体のバランスを崩した。
「きゃっ」
後ろの壁に向かって倒れ、ちょうど運悪く頭を花瓶の台にぶつけた。
痛い!
一瞬の出来事で誰も助けることはできなかった。
「「アンナ!」」
「アンナ様!」
わたしを呼ぶ声が聞こえる。
だけど……心配かけてごめんね。でも声が出ない……なんだか頭がぼーーっとしてきた。
頭から出血しているのはなんとなくわかる。
ーーこのまま死ぬのかな?もう少しかっこよく死にたかったかも。
そんなことを思いながらわたしは意識を手放した。
「姉上!」
ーーうん?この声はアルバード?
目を開けると心配そうに覗き込むアルバードがいた。
「アルバード、どうしたの?今勉強が一番大変な時期でしょう?」
「姉上………今いつだと思っているんですか?」
あ、いつものアルバードの顔に戻った。
「今?何言ってるの、わたしが怪我して意識失って何日も経ったとでも言うの?」
「………半年間あなたは意識を取り戻さなかったんです。僕はもうすぐ卒業します、もう学校の授業の単位は取ってしまったので、ここにいさせてもらっていたんです」
「半年間?」
ーー半年って…….えっ?ええええっ⁈
「嘘だよね?」
「本当です。とりあえず医者を呼びます。あとフラン様と義兄上も。みんな心配していたんですよ!」
ーーそりゃそうだよね。
アルバードが部屋を出て行き周囲を見回した。別に半年経ったなんて気配はない。部屋も変わっていないし、鏡で自分の顔を見るとすごく老けたわけでもない。
でも、髪の毛が確かに長い。伸びてる!
あれ?そういえばわたしもう結婚の契約期間過ぎてしまってる……
「アンナ!」
「アンナ様」
フランの声とリナの声が部屋の外から聞こえてきた。
ふふ、走ってきてる。
廊下は走ったらダメなのに。
わたしもフランが暴れてると聞いて思わずさっき走ったもの。叱れないわね。………半年前だった………時間の感覚が……掴めないわ。
「アンナ!」
走って入ってきたフラン。
うん?フランの髪が伸びてる。短かったはずのフランが、天使のフランが、可愛らしい女の子のようになってる。
「フラン、可愛い!!!どうしたのその髪?可愛い!!やだ、どうしよう!わたしのフランがますます可愛くなってるわ!」
「アンナ!何わけわかんないこと言ってるの?そんなことより、どこも悪くない?もしかして頭を打って頭が変になったの?」
わたしがフランの可愛さに夢中になってたらフランが変なことを言う。
「失礼ね!わたしは正常よ!ただ、半年間も寝てたらしくてフランの可愛らしい成長についていけなくて戸惑ってるの!ずっと短くしていたのに、どうして伸ばしたの?剣術の鍛錬の時、邪魔だから伸ばさないって言ってたじゃない」
「アンナが目覚めないから。願掛けで伸ばしたの。アンナが死んだらどうしよう……アンナがずっと目覚めなかったらどうしよう。僕、アンナを殺してしまったらどうしようって………」
フランが泣き出した。
「ごめん、フラン。辛い思いをして過ごしたのね?わたしったらフランの可愛さに夢中で、フラン達の気持ちなんて考えていなかったわ」
そうだよね、わたしももしフランが意識を取り戻さない日々が続いたら同じこと思うもの。
「フラン、抱きしめてもいい?」
わたしの言葉にフランが「うん」と言ってベッドの上にあがってくれた。
うん、半年が経ったのがわかる。
フランが少し大きくなってる。
子供の成長はとても早いもの。
わたしはフランを抱きしめて、頭を撫でた。
いつものフランなら「やめて!」とすぐ逃げるのに今日のフランは自分から小さな手をわたしの背中に回してきてギュッと抱きしめてくれた。
「アンナ、もうどこにも行かないで」
「もちろんよどこにも行かないわ」
「ほんと?」
「うん、心配かけてごめんね」
「僕も、アンナのこと無視したり意地悪してごめんね」
「あら?もうわたしのこと嫌いにならない?」
「嫌いじゃない。大好きだから、父様と離縁するって聞いて嫌だったんだ。僕をおいていなくなるなんて嫌だったんだ」
「…………離縁…………あ、フラン、ごめん。わたし離縁もうしていると思うの、だって契約期間は過ぎているし、離婚証明書にサインしてるもの」
「えっ?」
フランの声が震えてる。
「やだ!アンナ出て行かないで!」
「わたしね、離縁しても出て行かないで済むように旦那様にここの屋敷で使用人として働かせてもらえないかお願いしようかと思っていたの。元々使用人として働く予定だったし。あ、でも、旦那様もう再婚されたかしら?そしたらやっぱり元妻がいると邪魔かしら?フラン、どう思う?」
「アンナってやっぱり変だね」
「なに?どうしてそんなこと言うの?フランと離れたくないって思って考えたのよ?使用人がダメなら叔父様のところで働いて出入りの業者として屋敷に来て、フランに会うとかも考えているの。フランと会えるように努力はするつもりよ」
二人で話していると旦那様がやってきた。
「アンナ、目覚めてよかった」
「旦那様、ご心配をおかけしました。半年間も眠っていたなんて、ご迷惑をおかけいたしました。体が動けるようになったらすぐにでも屋敷を出て行きますので、あと少しの間ここにいさせてもらってもいいですか?」
「君はなにを言い出すんだ?離縁したと思っているのか?」
「契約期間をかなり過ぎていますし……申し訳ありません」
「離縁はしていない。君が眠り続けているのに勝手に離縁なんてしないよ」
「………そうですよね?じゃあ、今からでも提出してください。アルバードもいることですし二人で出て行きますので」
「はああ、君は半年前のままだったんだ……」
旦那様が大きな溜息をついた。
「半年前のまま?とは?」
「フランと僕が言い合いをしていたのは、フランがアンナを追い出すなら僕も出て行くと言い出したからなんだ。僕は契約が終わったら一度離縁するつもりだとフランに言ったら怒り出したんだ。それであんなことになった。
アンナ、痛い思いをさせてすまなかった。助けてあげられなくてすまなかった」
「いやいや、勝手に転んだのはわたしなので、謝る必要などありません。わたしの方がご心配とご迷惑をおかけしたんです。では、離縁しましょう」
離縁はまだ待ってくれていたのね。なんだか使用人として雇って欲しいなんて言いにくいわ。
「父様、早く!」
わたしに抱っこされたフランが旦那様に何故か急かすように何度も「早く言ってよ!」とぶつぶつ言ってる。
フランのこの文句を言う時の顔も好き!
笑った顔も天使みたいで可愛いけど、ちょっと拗ねた顔も可愛いし、抱っこされて見上げてくる顔も可愛い。
わたしのフランは何をしても可愛いらしい。
「ふふふふっ」
「アンナ、何笑ってるの?気持ち悪いよ」
フランにいつものように突っ込まれた。
やっとフランがいつものフランに戻ってくれた。無視されるのは辛かった。もうあんな冷たい目で見られたくない。
「フラン、大好きよ」
「知ってる」
「本当に?もう無視しないで、悲しくなってしまう」
「ごめんなさい、アンナ」
「じゃあ仲直りだね?」
「うん、喧嘩してたわけじゃないけどね」
「ふふ、そうだよね」
「あーー、そろそろ僕の話も続けていいかな?」
旦那様が気まずそうに話しかけてきた。
ーー忘れてた、旦那様のこと。
「契約通り離縁しましょう、旦那様」
「離縁は一応するよ。契約だからね」
「はい、お世話になりました」
「あの…………「「ただ……」」
二人の声が重なった。
旦那様とわたし、視線が重なる。
「アンナ、離縁はする。だけどこのままこの屋敷にいて欲しい」
「はい、ありがとうございます。わたしもそれをお願いするつもりでした」
「じゃあ、この屋敷にいてくれるのか?」
「こちらこそいいのですか?」
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「ありがとうございます。では早めに片付けて部屋を移ります」
「そうか、そんなに早く気持ちの整理をつけてくれるのか」
「はい、フランの部屋の隣がわたしの部屋でしたが、もうわたしの立場は違いますからすぐに出て行きます」
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「あの失礼を承知で発言してもよろしいでしょうか?」
旦那様におずおずと話し出すリナ。
「うん、どうしたんだい?」
「アンナ様はこの部屋を出て使用人部屋に行くつもりですよね?」
「もちろんよ。離縁してもここにいていいって今旦那様が言ったわ」
「は?使用人部屋?」
旦那様が驚いた顔をしていた。
「え?ダメなんですか?やっぱり旦那様の再婚することを考えたら元妻がここで働くなんてダメですかね?」
「違う!部屋の移動は、僕の部屋に、夫婦の部屋に移動するってことじゃないのか?」
「夫婦の部屋?どうして?離縁するのに?」
「離縁はするよ、契約だからね。だからこれからは本当の夫婦として暮らすつもりだったんだ」
「そんな話聞いていません!旦那様、いつそんなこと言いました?」
「忘れてるの?フランの本当の母親にならないかと結婚してすぐ夜会の時に言っただろう?そしてプロポーズしたつもりだったんだけど?」
「あの発言がプロポーズ?わたし、確かそ『れはちょっと……』と言ったような気がするのですが?」
「そうだったかな?あの時は結構酒を飲んでいたからね。君が可愛すぎて、プロポーズするのに少し酔わないと照れて言えなくてね」
「離縁は……」
「契約だからね、一応離縁はするよ、でも今度は本当の夫婦として暮らせるね?フランにはケジメとしてそう言ったんだけど、彼には伝わっていないんだ」
「僕、もうわかってるよ。でも、やっぱりアンナはわかってなかったよ!アンナ、アンナは今日から本当のお母様だ!大好きだよ!」
わたしの体をぎゅうぎゅうと抱きしめるフラン。
リナと扉の入り口で立っているアルバードはそんなわたしを可哀想な目で見ている。
多分二人はわたしが眠り続けている半年間の間に、旦那様から話を聞いて知っていたのね。
わたしだけ、離縁すると思い続けていたみたい。
そして、わたしは離縁しました。
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だから、すぐに再婚して、今は夫婦の部屋で暮らしております。
はい、わたしのお腹にはフランの弟が妹が入っております。
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マーシャが屋敷に子供を連れて遊びにきてくれます。
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と苦笑いをしております。
わたし……実は、旦那様のこと……(側から見れば)……大好きだったらしいのです。
わたし自身、全くの無自覚でした。
フランはお兄ちゃんになるからと、勉強も剣術の鍛錬も頑張っています。
もうその一生懸命な姿が可愛くて、かっこよくて、一人のたうち回っております。尊い。
もうすぐ四人家族になるけど、やはりわたしの推しはフランで、わたしの天使はフランであります。
「アンナ、大好きだよ」
フランのその言葉だけでわたしは幸せです。
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――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
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