【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ

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うっ………

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 従兄のルイスに会うのは一年半ぶり。

「ミル!久しぶりだね」

 友人達と話していたら、ルイスが話しかけてきた。オリソン国に留学しているルイスは、社交界にたまに顔を出すように父に言われて一時帰国ついでに今回のパーティーに顔を出すことにしたらしい。

「ルイス兄様!帰ってきてたのね」

 ルイスの顔を見ると思わず顔が綻ぶ。先程までリヴィとのダンスに緊張していた。ダンスが終わった途端、手を離してダンス中に見つけていた友人のところへと逃げ込んだばかりだった。

「ミルヒーナ、こちらは?」
 親友のメルリナがチラチラと気になるのかルイスの顔を見ていた。

 ミルヒーナはおかしくてくすくす笑った。

 ーー兄様は顔が整っているもの。それに頭も良くて昔っからモテるのよね、気になるわよね。

「従兄のルイス・マクレガーよ」

「マクレガーって、侯爵家の?」

「ミルの母親が僕の父の妹なんだよ」

「嘘っ!ミルってそんな話しないから!」

「だって我が家は伯爵家だもの。それは変わらないわ。お父様はお母様に一目惚れしてずっと押しまくってなんとか結婚にこぎつけたらしいの」

「そうそう、うちの父上は未だにミルの父上のことをあまりよく思っていないからね」

「ふふっ、そうなの。だから兄様達に会うのはお父様抜きなの。お父様は強引にお母様と結婚したから伯父様はまだ許していないの」

「うわぁ、貴族で恋愛なんて羨ましいわ。ミルも幼馴染との婚約だけど………どう見ても恋愛ではなさそうね?」
 メルリナがわたしのムスッとした顔を見てやれやれと言う顔をしていた。

「ミル、婚約おめでとう、と言いたいところだけどその顔は納得していない顔だね?」

「だって……ほら、見て?リヴィはいつも女の子達に囲まれているのよ?それもあそこにいる子達、わたしに何度も嫌がらせや意地悪をしてくるの。そんな子達と仲がいいリヴィとどうすれば仲良くできるの?」

「そのことをリヴィに言ったことある?」

「……ないわ」
 ミルヒーナはルイスから目線を逸らせた。

「ミル、どうしたんだい?いつも自分の気持ちをきちんと相手に伝えられる子だと思ってたのに?」

「言えないわ。わたしのこと馬鹿にしたり意地悪を言うのはリヴィも同じだもの。あの人達はみんな魔法が使えないわたしが嫌いなのよ、魔法学校の人達からすればわたしは……わたくしは……惨めで可哀想な人にしか見えないのよ」

「ミル、わたしも魔法学校に通ってるけど、ミルのことそんなふうに見ていないわ。ミルは確かに魔法は苦手だけど、その代わりに勉強に関してはみんなよりもできたじゃない。いつも一番だったわ、今もあの頭のいい王立学園で首席なのは知っているわ。わたしはそんなミルが友人で誇らしいと思ってる」

 メルリナの言葉にミルヒーナは嬉しくなって目が潤んでしまった。

 ルイスはそんな二人の姿をニコニコ笑いながら見ていた。

 しかし、その噂のリヴィには射るような眼差しを向けた。

「僕の可愛いミルに?何をしてくれているんだ、あいつは」
 ボソッと呟いたルイスの言葉を二人は聞き取ることはなかった。

 夢中で二人は楽しそうに話していた。
 ルイスは二人の耳に【遮断】の魔法をこっそりかけていた。

 ルイスの耳にも時々ミルヒーナへの心無い言葉を話しているのが聞こえてくる。

『魔力だけしか取り柄のない娘がリヴィ・アルゼンの婚約者なんて!』
『カイヤ伯爵もお可哀想に。ご夫婦は優秀な魔法使いなのに、娘がアレじゃあねぇ?魔力だけあってもまともに魔法が使えないのなら、使い道があまりないよ』
『まぁ、子供を孕ませるだけの道具にしかならないな、だからアルゼン家に優秀な子孫を残すために婚約したのかもしれないな』

 ーー好き勝手に言いやがって!
 ルイスは大人達の汚い言葉に舌打ちするしかなかった。

 だから二人には悪口だけ耳に入らないようにこっそり魔法をかけた。

 おかげでミルヒーナが楽しそうに笑っている。さっきまで、リヴィとダンスを踊っている時のミルヒーナは死んだような顔をしていた。

 あんなにミルヒーナのことが大好きで『絶対ミルをお嫁さんにする』とルイスの前でも宣言していたリヴィなのに、ミルヒーナが魔法を使えないからと馬鹿にするなんてあり得るのだろうか?

 少し疑問に思いながらもリヴィがこちらを気にしてチラチラ見ているのに気がついた。

 それでも取り巻きの女の子とずっと話している。流石に離れていて会話は聞き取れない。


 リヴィ達の会話を【盗聴】でもしようかと思っていたら、リヴィがこちらに向かって歩いてきた。

 ルイスもミルヒーナとメルリナから気づかれないようにそっと離れてリヴィに近づいた。


「ルイス兄上、お久しぶりです」

 リヴィは目上でもあり爵位も上になるルイスに対してまず頭を下げて挨拶をした。

「久しぶりだね、リヴィ。いいのかい?君の大切なご友人の令嬢達がこちらを見ているよ?」

 ルイスの嫌味にリヴィは唇を噛み締めながら首を横に振った。

「僕はミルヒーナのパートナーなんです。だからミルのそばにいなければならないんです」

「仕方なくエスコートするならやめておきなさい。代わりにミルのエスコートは僕がするから」

「なっ……なんで、ミルは僕のパートナーなんです」

「その大事なパートナーに意地悪ばかりしているらしいね?そんなにミルのことが嫌いなら婚約なんてしなければいいだろう?」

 ルイスはリヴィを見てすぐにわかった。

 自分に対してヤキモチを焼いてイライラしている。ミルヒーナのことを嫌っているのではなく好きすぎて拗らせていることもすぐにわかった。
 理解したからと言って許せる話ではない。大切な妹のように可愛いミルヒーナを傷つけるリヴィに優しさなど持てるはずもなく、リヴィに冷たく言った。

「ミルの父上のことだから、自分が大恋愛しているのでリヴィに対しても甘いところがあるのかもしれない。リヴィがミルを好きだということは本人は気づいていないみたいだけど、周りは見ていればすぐわかる」

「なっ……俺は……」
 耳朶まで真っ赤になって俯くリヴィにため息をついたルイス。

「だけど、ミルはリヴィに嫌われていると思っている。意地悪されて馬鹿にされていると思ってる。取り巻きの女の子達と一緒になってね」

「えっ?」
 赤くなった顔が青い顔になったリヴィ。

「俺は……あの子達と一緒に意地悪なんて……」

(してない………と言えない………考えてみたらミルからすればそう思うかも。好きなのに、大好きなのに、なんで今更素直に言えないんだ。昔みたいに笑いあいたいのに。昔みたいに素直にミルが好きだと言えたらいいのに)

「今日はもう君は要らないよ、ミルを傷つけないで欲しい。せっかく笑ってるのに」
 ルイスはそう言うとリヴィにミルヒーナとメルリナが楽しそうに話している姿を見るように言った。

 リヴィはもう何も言えなくなった。

(ミルの笑顔を見たいのに、俺は……)




 ◆ ◆ ◆

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 元鞘だったらつけて欲しいとの感想をいただきました。ありがとうございます。

 どうしようか悩みましたが、やはり【元鞘】か【元鞘なし】なのかつけることはできないと思いました。
 今回の話の最後はどちらになるか、わからないのが楽しみだと思って書いております。

 作者の中ではもちろん最後どうなるか決まっていますが、ごめんなさい。最終話までリヴィの頑張りをイライラしながら読んでもらえると嬉しいです。

 もちろんそれが合わない方はこのままそっと読むのをやめていただければと思います。
 ごめんなさい。

 リヴィの頑張りにミルヒーナが絆されるのか、やっぱり無理なものは無理だときっぱりリヴィを捨てて別れるのか。

 そしてもう少ししたら何故結婚したのか理由も明らかになります。

 読んでいただければ嬉しいと思っております。
 いつも応援、いいね、感想ありがとうございます。

         たろ




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