【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ

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信じたくない……

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 パーティーではルイス兄さまのおかげで、最初のダンスでリヴィと踊っただけでそれ以上関わることなく過ごすことができた。

 リヴィの取巻きのあの令嬢達からの嫌がらせも、一度だけ目が合ったにも関わらず、そばに来ることもなく、いつものように嫌味を言われることはなかった。
 逆に目が合うとビクッとした顔をして怯えているようにすら見えた。

 ーーどうしたのかしら?わたしの顔ってそんなに怖い?お化粧もそんなに濃くないと思ったのだけど。

 思わずミルヒーナは近くにあった鏡に自分の姿を映してみた。
 いつもと変わらない淡いミルキーブラウンの長い髪、白い肌にグレーの瞳。

 ドレスはもうすぐ16歳になるので背中部分は大胆に開けて、ドレスの上は総レース、下はチュールを何枚も重ねたスカートになっていて、可愛さと大人っぽさを合わせたドレスを選んだ。
 色もベージュとグレーの組み合わせで、いつもの自分とは違い、少しだけ大人になった気分でいた。

 ーーうーん、そんなにおかしくはないわよね?それなりに似合ってると思ったのだけど……

「ミル、どうして鏡をジロジロみているんだい?」
 ルイスが笑いを堪えながら言った。

「あっ………」ちょっと恥ずかしくなった。

「ルイス兄さま…あの、わたくしのドレス姿どこかおかしいかしら?」
 ーー思わず、兄様に対しても『わたくし』が出てしまった。

「ミル!『わたくし』はダメだよ。ミルはすぐ人に対して壁を作ろうとする。自分を守ることは大切だけど、辛いことや悲しいことがあった時に隠してしまうのはダメだ。少しは人に甘えることも覚えないと。わかった?」

「兄様、最近は仲の良いお友達の前では『わたし』と言えることが増えてきたの。さっきは思わず出てしまっただけよ」
 ーー兄様は『わたくし』と言うのを嫌う。

 王都から領地に移り住んでしばらくは、王都でも辛かったのに、領地での暮らしもなかなか慣れなくて大変だった。

 領地では意地悪されたと言うより都会暮らしに慣れすぎていたので田舎暮らしが慣れなくて、みんなと仲良くなるのに時間がかかってしまった。

 たぶん魔法が使えないことを今度は領地の新しい友人になる子たちにも馬鹿にされると思ってしまったから。少し距離を置いていた。

 遊びに来てくれたルイス兄様がそんなわたしにたまりかねて『大丈夫、ミルはそのままのミルでみんなと接すればいい』と言ってくれた。

『そのままのミルでいい』
 わたしにとっては魔法を使って助けられることよりも、その言葉は

 魔法の言葉だった。

 兄様のこの言葉のおかげでみんなと自然と仲良くなれた。
 領地の学校ではいつも笑い合い、外で遊んで回った。

 体の弱い赤ちゃんだったガトラも成長していくと体力もついて少しずつ病気も減っていった。ひどい喘息も出なくなり、わたしと一緒に走り回ることができるようになった。

 毎年兄様はわたしを心配して会いに来てくれた。

 そう言えばリヴィは手紙を書いても、短い返事しかくれなかった。会いにすら来てくれなかった。

 幼い頃は優しかったのにだんだん意地悪になって、転校するころには冷たくなっていた。それでも手紙くらいは交換し合っていたのに、あの屋敷でリヴィを始めみんなから酷いことを言われてリヴィを避けるようになった。

 あの屋敷にいた子達は、わたしが魔法学校に行っている時から、わたしに絡んでは意地悪なことを言っていた。

 ミルヒーナはリヴィ達のことを思い出すとまた腹が立ってきてムスッとしていた。
 ルイスがクスッと笑いながら、ミルヒーナの鼻をつまんだ。

「もう!兄様!」

「ミルがさっきから百面相してるから、つい鼻をつまんで止めたんだよ」

「百面相?」

「ミルはすぐに顔に出るからわかりやすいよ。何か嫌なことでも思い出していたのかい?」

「うーん、もういいや、せっかく兄様とメルリナとパーティーを楽しんでるんだもの、それよりも美味しいご馳走をいただこうよ」

 ミルヒーナはルイスの手を握り、たくさんの料理のあるテーブルへと移動した。

 メルリナや学園の友人達とも合流して楽しくパーティーを過ごした。

 リヴィはその姿を遠くから見つめることしか出来なかった。
 令嬢達はリヴィの脅しが効いたのか、パーティーが終わる前に帰ってしまった。

 それでもリヴィの周りには他の令嬢や令息がたくさん集まってきた。

 婚約者ができても、魔法が使えないミルヒーナの噂は皆知っている。いつか婚約解消になるだろうとみんな思っている。
 令嬢達はその隙を狙っている。
 令息達はリヴィのそばにいればおこぼれがあるのではと思っているようだ。

 リヴィはミルヒーナが自分の前では見せてくれない楽しそうに笑う姿をただ黙ってみているしかなかった。




 パーティーから一月後。

 突然カイヤ伯爵家に告げられた不幸な出来事。
 魔道具を使ってマックのいる鉱山から連絡が入った。通信をするには高価な魔法石が必要なため重要な時にしか使われない。

 その魔道具が使われた。屋敷の中は緊張が走った。

「う……そ……お父様は?」
 ミルヒーナは青褪めて震えていた。

「まだわかりません」
 知らせの者はすまなそうに答えた。

「わ、わたし、鉱山へ行くわ」
 ロザリナは倒れそうになりながらも気丈にしていた。

「わたしも一緒に行きます」
 ミルヒーナもじっとしてはいられなかった。

 マックが鉱山で生き埋めになっている。

 必死で救助しているがまだ見つからない。

 二人はすぐに馬車に乗り込んだ。普段なら馬でゆっくり移動するのだが急を要する。

 魔道具を組み込まれた馬車は普段のスピードの倍で走ることができる。
 ただしその馬車を乗りこなすにはかなりの技術がいる。ミルヒーナは大自然の領地で魔道具を組み込んだ馬車に乗る練習をしていた。王都で走るのは初めてだった。

「お母様、わたくしが運転します」

 ロザリナは頷くとすぐに馬車に【防御】の魔法をかけた。

「これで人にぶつかっても怪我はさせないで済むわ。それでも安全運転でお願いね。お父様に会う前にわたし達が事故を起こしたら困るもの」

「お母様!領地でどれだけこの馬車を運転してきたと思っているんですか?任せてください!」

ーーお父様……お願い……助かって……



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