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すれ違い、勘違い

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 パーティー会場に着くとリヴィが門のところで待っていた。

 屋敷に迎えに来ると言われたのでミルヒーナはお断りさせてもらった。

 婚約者なのだからパートナーなのは仕方ない。だけど同じ馬車に乗るのはごめんだった。

 狭い空間でリヴィと過ごせば何を言われるかわからない。もう嫌味も馬鹿にされるのも懲り懲り。

「……遅かったな」
 ムスッとしたリヴィにミルヒーナも一言。

「あら?待っていなくてもよかったのに」
 にこりと微笑むと、リヴィはピクリと右目の下が引き攣っていた。

(今日は絶対ミルに意地悪なことはしない)
 リヴィは心に誓っていたが、最初の一言がもうミルヒーナにとっては嫌味に聞こえていたとは思っていなかった。リヴィとしては必死で怒りを抑えていたのだった。

「ミル、遅れてる。急いで会場へ行こう」

 リヴィがミルヒーナに手を差し出すと、ミルヒーナは一瞬戸惑った。

(手を握るのも嫌なのか?)

 リヴィの顔がこわばったのがわかった。

 ーーあんまり拒絶するのも良くないわよね。この前絡んできた令嬢達とリヴィは関係ないもの。ま、原因はリヴィのせいだけど!

 ミルヒーナはリヴィの手にそっと自分の手を置いた。

 リヴィは優しく握りしめて「行こう」と歩き出した。

 リヴィの隣を歩くとこの前のお見合いの時のことを思い出して、ついイラッとしてしまう。
 リヴィは何故あんなに魔法が使えないからとわたしを馬鹿にするのだろう。小さい時はいつも手を繋いで楽しい話ししかしなかった。
 ずっと笑い合えると思っていたのに……

 友情は永遠に続くと思っていた。

 わたしが魔法を使えれば関係はまた違っていたのかな。

 リヴィのことを友人として大好きだった。優しくて頭が良くて、魔法もまだ習ってないのに使える。そんなリヴィを誇らしげにさえ思っていた。

 そんなことを考えていたからリヴィが話しかけていたことに気が付かなかった。

「………ル?……ミル?聞いてるの?」

 リヴィの怒った声が耳に入った。

 ーーあっ……

「ご、ごめんなさい。リヴィ、なんて言ったの?」

「………もう、いいよ」
 リヴィはこの時ーーーー

「ミル、俺意地悪ばかり言って反省してる。ごめん、すぐに許せないと思うけど許してもらえるように頑張るよ」

 と言ったのだが、ミルは全く返事すらしてくれなかった。

 名前を何度か呼ぶと、返事がない。リヴィの話を聞いてもくれていなかった。
 勇気を出して必死で謝ったのに……

(俺の話なんて聞く気にもなれないんだ)

 リヴィはこれ以上ミルヒーナに話しかける勇気が持てずただ黙ってエスコートをした。

 ミルヒーナはリヴィがまた怒っていると勘違いしてしまった。まさか落ち込んでいるなんて夢にも思わなかった。

 二人でダンスを踊り終わると、ミルヒーナは学園の友人のところへ行ってしまった。

 リヴィは知らなかった。ミルヒーナが夜会やパーティーが苦手ですぐに端っこへと行ってしまうことを。

 リヴィはいつもパーティーでは学校の生徒たちに囲まれて過ごすのが当たり前だった。本当はミルヒーナのそばに行きたかったが、きっかけもなくチラッと彼女の姿を目で追うだけだった。

 まさか学校の女生徒達がいまだにミルヒーナに意地悪な言葉を投げかけていたなんて知る由もなかった。

 だから今日、さっさと自分から離れるのは
(そんなに俺が嫌いだったんだ)
 と勝手に勘違いしてしまった。

 馬車で一緒に来ることも拒まれ、話も聞いてもらえず、パートナーとしてそばにも居られず、リヴィはイライラしていた。



「リヴィ、婚約者は?」
 一人の令嬢が聞いた。

 ミルヒーナのいる方へと取り巻きの令嬢たちが視線を向けた。

「あら?リヴィとは一緒にいないのに別の人と居るみたいね?」
「ほんとだわ、あのお方は誰かしら?」

 リヴィもその言葉にミルヒーナへ視線を向けた。

(あれは………ミルの従兄のルイスだ、なんでここに居るんだ?確か留学してたはずなのに)

「うわぁ、見て!ミルヒーナ様ったらあんなに楽しそうに笑ってるわ」
「ほんと、この前なんか平民の子達と一緒にいて、惨めだったのに、ねえ?」

 リヴィは令嬢たちの言葉を無視していた。いつも周りで煩く話すので鬱陶しいだけ。だからあまり真面目に聞かないようにしていた。

 だけど……

「惨めだった?ってどう言う意味?」

 リヴィの低い声は凍るように冷たい声だった。

「あっ……あの……この前カフェでたまたま見かけたの。平民の子や男爵家の魔法もまともに使えない王立学園の子達と一緒にいたから」

「え、ええ……そうよ」
 令嬢達が互いに顔を見ながら話し出した。

「で?なんでそれが惨めなわけ?」

「だって話す内容が魔道具を作りたいだとか実家のお店を大きくしたいとか、男爵家の娘では伯爵家と結婚なんて無理だとか、令嬢らしくない会話ばかりだったもの」
「そ、そうなの。それにわたしの足にぶつかって転んだのよね。ほんっと惨めったらしいのよね」
「謝りもしなかったのよ、まぁ転んだ姿は無様で滑稽だったけど」
 3人の令嬢はくすくすと笑い出した。
 ミルヒーナを嘲笑っているのがリヴィにもすぐにわかった。

 今もミルヒーナを見ながら馬鹿にした顔をしていた。

「君たち、ミルに足を引っ掛けたのか?馬鹿にして笑ったのか?」

 リヴィの声は先ほどの声よりさらに冷たい声になっていた。
 まるで虫ケラでも見ているような顔は、令嬢達を震え上がらせた。

「わ、わたし………」
「ち、違う……あ、あの……足を引っ掛けたのは彼女よ」
「だ、だって……魔法も使えないのにリヴィの婚約者だなんておかしいもの、ねっ?リヴィだって言ってたわよね?」

『魔力はあっても魔法が使えない君とは話したくもないよ。君といたら僕まで魔法が使えなくなりそうだからね』

「あなたのお屋敷に遊びに行った時、みんなの前でそう言ったわ」
「そうよ!リヴィは本当はこの婚約嫌なのに無理やりさせられたのでしょう?」

(確かに……あの時、ミルがヴァードと一緒にいるのを前日見かけて、ヤキモチを焼いて意地悪なことを言ってしまったんだった)

「俺はミルとの婚約を嫌だなんて思っていない。ミルは大切な婚約者なんだ。君たちのしたことは黙って見過ごすわけにはいかない、それぞれの家に抗議書を送らせてもらうよ」

「そんな……あなただって私達と同じじゃない」

「俺は……」
(確かに言い訳はできない。俺もこいつらと変わらない。だけど、今から先こいつらをミルと接触だけはさせられない。守ると決めたんだ)

「俺は反省してる。ミルを守るためにこれからは彼女に尽くすつもりだ。今度ミルに近づいたら君たち親族全ての家にうちの魔道具は売らない」

「そんなことできるわけないわ」
「親族全てなんて、無理な話だわ」

「出来るさ、学校を卒業したら魔道具関係の仕事は俺が仕切ることになってる。君たちの家が買ってくれなくても売上げに然程の影響もない。まぁ、君たち親族全ては魔道具がなくて困るだろうが知ったことではない」

 我が家の魔道具は貴族社会では一流と言われこぞって買ってくれる。
 我が家が売らないと言われた貴族は何かしら問題のある家だ。
 貴族社会でそれは社交ができなくなることで、落ちぶれていくしかない。
 
「…………もう……関わらないわ」

 3人は真っ青な顔になり泣き出した。

「次はないからね」




(はあ、どうやって謝ろう……まともに話も聞いてくれないし……)
 たまたまうわの空で聞いてもらえなかっただけなのに、ミルヒーナは話すら聞きたくないと思っていると勘違いしているリヴィ。

 その頃ミルヒーナも………












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