15 / 47
第15話 真白のいたずら
しおりを挟む
テレビの中のミキが、笑顔で手を振りながら番組のエンディングを迎えていた。
スタジオの拍手が響き、画面がゆっくりとCMへと切り替わる。
一朗はリモコンを手に取り、テレビの音量を少し下げた。
そのまま背もたれに寄りかかり、ふと独り言のように呟く。
「……一度でいいから、会ってみたいなぁ」
その言葉に、真白の耳がぴくりと動いた。
表情が少しだけ固くなり、隣で静かに問い返す。
「そんなに会いたいの?」
一朗は、いたずらっぽく口の端を上げた。
「ん? まぁ、会えるもんならな。ミキだぞ、ミキ。人気モデルだし。ちょっと話してみたいし、握手とかしてもらえたら……最高だなぁ」
そう言って、わざとらしく夢見るような顔をしてみせる。
まるで子どものように無邪気な笑顔だった。
しかし、真白の瞳はじっと動かなかった。
何かが胸の奥で小さくざわついている。
「……どんな人かも、わからないのに?」
一朗は肩をすくめて笑う。
「それでも会ってみたいもんなんだよ。テレビで見るだけじゃ、わからないだろ? 本物をこの目で見たいっていうかさ。」
「……会って、どうするの?」
真白の声は小さく、少しだけとがっていた。
一朗はその調子に気づいたのか、ニヤリと笑って言う。
「どうするって……そうだな。握手するだけ。『いつも見てます!』って言って、サインでももらうくらいだ。」
その軽い調子に、真白は少しむっとして口を尖らせた。
けれど、その顔を見て一朗はおかしそうに笑う。
「なんだよ、その顔。まるで怒ってるみたいじゃないか。」
「怒ってないもん……」
真白は視線を逸らしながら、小さな声で言った。
でもその頬はほんのり赤い。
一朗はしばらく真白の横顔を眺めていたが、ふっと優しく笑って、軽く頭を撫でた。
「冗談だよ。ミキなんかより、今はここで十分だ。」
真白はその言葉に、少しだけ目を丸くした。
「……ほんとに?」
「ほんとだって。」
一朗がそう言うと、真白はふっと表情をゆるめた。
しかし、その目の奥に、いつもの無邪気さとは少し違う光が灯る。
「——じゃあ」
真白はいたずらを思いついた子どものように、唇をきゅっと上げた。
「会わせてあげるよ。」
一朗は瞬きをした。
「……え?」
「だって、一朗、握手したいんでしょ?」
真白はニコッと笑いながら、まっすぐに言う。
一朗は固まった。
「いやいやいや……何急に? え、どういう……?」
「ちょっと待ってて。」
真白は立ち上がると、そのまま部屋をすっと出て行った。
ぱたん、と扉が閉まる。
一朗は取り残され、呆然と天井を見つめた。
「……なんだ? まさか、呼んでくるわけじゃないよな?いや、呼べるわけ……ないだろ……?」
言いながら、しかし真白なら何かやるかもしれない……という不安というか期待というか、複雑な気持ちが胸によぎる。
数分後——
扉が、そっと開いた。
「お待たせ。」
一朗は息を飲んだ。
そこに立っていたのは——
ミキ。
さっき、テレビの中で見ていた、あのミキ。
金髪、長い手足、きらりとした瞳。
堂々とした立ち姿。
だけど、よく見ると、どこか真白のあどけなさが残っている。
「ど、ど、どう……?」
その声も、どこかミキらしいし、どこか真白だった。
一朗は目を丸くし、言葉が出ない。
「お前……いや、真白……いや、ミキ……え? どうなってんの?」
ミキ姿の真白は、わざと雑誌モデルらしいポーズをとる。
「じゃーん♡握手会でーす。いらっしゃいませ、お客様~」
その調子が本当にミキっぽくて、逆にシュールだった。
一朗は額を押さえた。
「いやいやいやいや……やりすぎだろ!!」
「え? だって握手したいって言ってたから。」
真白はケロッとして、手を差し出してくる。
一朗は困惑しながらも、その手をそっと握った。
柔らかい。確かにそこにある。
でも、目の前の存在はテレビの中の人気モデルではなく——
真白だった。
一朗はゆっくりと笑った。
「……お前さ。ほんっとに、そういうとこ……ずるいよな。」
ミキ姿の真白は、首をかしげる。
「ずるいって、褒め言葉?」
「褒めてるよ。」
そう言うと、一朗はその手を離さず、優しく微笑んだ。
「俺が会いたかったのは——ミキじゃなくて。“お前に” そういうことをしてほしいって意味だったんだよ。」
真白の表情が、ふわっと緩んだ。
そして、ミキの姿のまま、声だけが真白のあたたかさを含んで言った。
「……じゃあ、この姿じゃなくてもいいんだね。」
一朗はうなずいた。
「うん。真白がいい。」
次の瞬間、真白は満面の笑みになり——
ぱあっと白い光に包まれながら、元の真白の姿に戻った。
「ただいま!」
一朗は笑った。
「おかえり。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
真白の胸の奥で、さっきまできゅっと締め付けられていた痛みが、ふっと溶けるように消えた。
まるで、そこにやわらかい光が差し込んだような感覚。
真白は、その変化に自分でも驚いていた。
「……あれ?」
一朗が首を傾げる。
「どうした?」
真白は胸に手を当て、ゆっくりと息を吸った。
「さっきまで……ここが苦しくて、ぎゅってなってたの。でもね……今は、あったかい。」
一朗は真白の言葉を聞き、何かを理解したように目を細めた。
真白はそのまま、ふわっと微笑む。
そして次の瞬間——
ぎゅっ
一朗の胸に、迷いなく抱きついた。
一朗は驚いたが、すぐに腕をそっと真白の背中に回す。
真白は小さな声で続ける。
「私、わかったの。さっきの痛いの、いやだった。でもね……今は、嬉しいの。一朗が“真白がいい”って言ってくれたから。」
一朗は真白の髪にそっと手を置き、ゆっくりと言った。
「それなら……よかった。」
真白は顔を上げる。
その瞳は、涙ではなく、きらきらとした光で満ちていた。
「うん。一朗が言ってくれる言葉はね、あったかいんだよ。」
一朗は照れたように頬をかきながら笑う。
「……そんな大げさなもんじゃないだろ。」
真白は首を振った。
「大げさじゃないよ。だって、ほんとにあったかい。」
そう言って、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
一朗も、そっと抱き返した。
その抱擁は長く、やさしく、まるで二人のあいだに流れていた名前のない感情がようやく「形」になり始めたかのようだった。
スタジオの拍手が響き、画面がゆっくりとCMへと切り替わる。
一朗はリモコンを手に取り、テレビの音量を少し下げた。
そのまま背もたれに寄りかかり、ふと独り言のように呟く。
「……一度でいいから、会ってみたいなぁ」
その言葉に、真白の耳がぴくりと動いた。
表情が少しだけ固くなり、隣で静かに問い返す。
「そんなに会いたいの?」
一朗は、いたずらっぽく口の端を上げた。
「ん? まぁ、会えるもんならな。ミキだぞ、ミキ。人気モデルだし。ちょっと話してみたいし、握手とかしてもらえたら……最高だなぁ」
そう言って、わざとらしく夢見るような顔をしてみせる。
まるで子どものように無邪気な笑顔だった。
しかし、真白の瞳はじっと動かなかった。
何かが胸の奥で小さくざわついている。
「……どんな人かも、わからないのに?」
一朗は肩をすくめて笑う。
「それでも会ってみたいもんなんだよ。テレビで見るだけじゃ、わからないだろ? 本物をこの目で見たいっていうかさ。」
「……会って、どうするの?」
真白の声は小さく、少しだけとがっていた。
一朗はその調子に気づいたのか、ニヤリと笑って言う。
「どうするって……そうだな。握手するだけ。『いつも見てます!』って言って、サインでももらうくらいだ。」
その軽い調子に、真白は少しむっとして口を尖らせた。
けれど、その顔を見て一朗はおかしそうに笑う。
「なんだよ、その顔。まるで怒ってるみたいじゃないか。」
「怒ってないもん……」
真白は視線を逸らしながら、小さな声で言った。
でもその頬はほんのり赤い。
一朗はしばらく真白の横顔を眺めていたが、ふっと優しく笑って、軽く頭を撫でた。
「冗談だよ。ミキなんかより、今はここで十分だ。」
真白はその言葉に、少しだけ目を丸くした。
「……ほんとに?」
「ほんとだって。」
一朗がそう言うと、真白はふっと表情をゆるめた。
しかし、その目の奥に、いつもの無邪気さとは少し違う光が灯る。
「——じゃあ」
真白はいたずらを思いついた子どものように、唇をきゅっと上げた。
「会わせてあげるよ。」
一朗は瞬きをした。
「……え?」
「だって、一朗、握手したいんでしょ?」
真白はニコッと笑いながら、まっすぐに言う。
一朗は固まった。
「いやいやいや……何急に? え、どういう……?」
「ちょっと待ってて。」
真白は立ち上がると、そのまま部屋をすっと出て行った。
ぱたん、と扉が閉まる。
一朗は取り残され、呆然と天井を見つめた。
「……なんだ? まさか、呼んでくるわけじゃないよな?いや、呼べるわけ……ないだろ……?」
言いながら、しかし真白なら何かやるかもしれない……という不安というか期待というか、複雑な気持ちが胸によぎる。
数分後——
扉が、そっと開いた。
「お待たせ。」
一朗は息を飲んだ。
そこに立っていたのは——
ミキ。
さっき、テレビの中で見ていた、あのミキ。
金髪、長い手足、きらりとした瞳。
堂々とした立ち姿。
だけど、よく見ると、どこか真白のあどけなさが残っている。
「ど、ど、どう……?」
その声も、どこかミキらしいし、どこか真白だった。
一朗は目を丸くし、言葉が出ない。
「お前……いや、真白……いや、ミキ……え? どうなってんの?」
ミキ姿の真白は、わざと雑誌モデルらしいポーズをとる。
「じゃーん♡握手会でーす。いらっしゃいませ、お客様~」
その調子が本当にミキっぽくて、逆にシュールだった。
一朗は額を押さえた。
「いやいやいやいや……やりすぎだろ!!」
「え? だって握手したいって言ってたから。」
真白はケロッとして、手を差し出してくる。
一朗は困惑しながらも、その手をそっと握った。
柔らかい。確かにそこにある。
でも、目の前の存在はテレビの中の人気モデルではなく——
真白だった。
一朗はゆっくりと笑った。
「……お前さ。ほんっとに、そういうとこ……ずるいよな。」
ミキ姿の真白は、首をかしげる。
「ずるいって、褒め言葉?」
「褒めてるよ。」
そう言うと、一朗はその手を離さず、優しく微笑んだ。
「俺が会いたかったのは——ミキじゃなくて。“お前に” そういうことをしてほしいって意味だったんだよ。」
真白の表情が、ふわっと緩んだ。
そして、ミキの姿のまま、声だけが真白のあたたかさを含んで言った。
「……じゃあ、この姿じゃなくてもいいんだね。」
一朗はうなずいた。
「うん。真白がいい。」
次の瞬間、真白は満面の笑みになり——
ぱあっと白い光に包まれながら、元の真白の姿に戻った。
「ただいま!」
一朗は笑った。
「おかえり。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
真白の胸の奥で、さっきまできゅっと締め付けられていた痛みが、ふっと溶けるように消えた。
まるで、そこにやわらかい光が差し込んだような感覚。
真白は、その変化に自分でも驚いていた。
「……あれ?」
一朗が首を傾げる。
「どうした?」
真白は胸に手を当て、ゆっくりと息を吸った。
「さっきまで……ここが苦しくて、ぎゅってなってたの。でもね……今は、あったかい。」
一朗は真白の言葉を聞き、何かを理解したように目を細めた。
真白はそのまま、ふわっと微笑む。
そして次の瞬間——
ぎゅっ
一朗の胸に、迷いなく抱きついた。
一朗は驚いたが、すぐに腕をそっと真白の背中に回す。
真白は小さな声で続ける。
「私、わかったの。さっきの痛いの、いやだった。でもね……今は、嬉しいの。一朗が“真白がいい”って言ってくれたから。」
一朗は真白の髪にそっと手を置き、ゆっくりと言った。
「それなら……よかった。」
真白は顔を上げる。
その瞳は、涙ではなく、きらきらとした光で満ちていた。
「うん。一朗が言ってくれる言葉はね、あったかいんだよ。」
一朗は照れたように頬をかきながら笑う。
「……そんな大げさなもんじゃないだろ。」
真白は首を振った。
「大げさじゃないよ。だって、ほんとにあったかい。」
そう言って、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
一朗も、そっと抱き返した。
その抱擁は長く、やさしく、まるで二人のあいだに流れていた名前のない感情がようやく「形」になり始めたかのようだった。
2
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


