「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

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第17話 「山あかりロッジ」への変わった客

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湯気の立つ朝食の香りが、まだ眠気の残る空気にやわらかく溶けていく。

一朗は椅子に腰を落ち着け、スープを一口すする。

真白は隣で背筋を伸ばして座り、まだ少し緊張したようにしている。

その様子を見ながら、美佐子がやさしく言葉を切り出した。

「そうそう、真白ちゃんにも一朗にも、知らせておかないとね。」

二人が顔を向けると、美佐子はスープの鍋をかき混ぜながら続けた。

「今日はね、ちょっと“変わった”お客さんが来るの。」

「変わった?」

一朗が眉を上げる。

「ええ。スキーのお客さんじゃなくて……写真集の撮影に来るんだって。」

真白は“写真集”という言葉に首をかしげる。

「写真……集?」

一朗は食器を置き、わかりやすく説明する。

「写真だけで作られた本みたいなやつだよ。モデルとか風景とか、テーマに合わせて作るんだ。」

真白は「モデル」という言葉に反応し、目をぱちぱちさせる。

「もでる……って、あの、えっと……すごく綺麗な人?」

「まあ、そういうことになるな。」

一朗は笑った。

美佐子は棚からメモ用紙を取り出し、視線を走らせながら続けた。

「今回ね、来るのは“雪山で女性モデルの写真集を作りたい”っていう撮影隊なの。森や斜面、雪原――ここらの景色を背景に撮りたいんだって。」

一朗がスプーンを止め、驚いたように眉を上げる。

「雪山で?写真集って……またずいぶんチャレンジするな。」

「そうなのよ。」

美佐子は小さく笑う。

「それもね、モデルさんは“少し薄着”で撮影するんだって。」

「薄着!?」

真白は目を丸くする。

寒さを知る者としては、思わず声が上ずる。

「そう。もちろん厚着のままじゃ絵にならないんですって。」

美佐子は肩をすくめながら、けれどどこか楽しそうな表情だった。

「だから、撮影が終わったらすぐに暖まれるように――ロッジはいつもよりしっかり暖かくしておいてほしい、って依頼されたの。」

一朗は納得したように息をつく。

「なるほど。じゃあ早めに薪割っとくか。ストーブも強めに焚いて。」

「それと、温かい飲み物もすぐ出せるようにね。」

「はい!」

真白は勢いよく手を挙げる。

「私、お茶淹れます!あと……スープも作れます!」

その言葉に、一朗も美佐子も同時に目を細めた。

その姿はまるで、ここに生まれ育った“ロッジの娘”のようだ。

「心強いわ。」と美佐子が優しく言う。

「雪は冷たい。でも、人の温かさで、それはずいぶん違うものになるのよ。」

真白は胸に手を当てて、丁寧に頷く。

「私……がんばります。寒い人を、あったかくできるように。」

その言葉は、不思議なほどしっかりした響きを持っていた。

そして――昼前。

ロッジの前の雪道に、四輪駆動のワゴン車がゆっくりと停まった。

白い息を吐きながら降りてきたのは、黒いダウンを着込んだスタッフらしき男女二人。

一朗と真白、美佐子は玄関まで出迎える。

「こんにちは。『山あかりロッジ』さんでお間違いないですよね?」

先に話しかけてきたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性スタッフだった。

後ろの女性スタッフは、大きなケースとカメラバックを抱えている。

「はい、ようこそ。」

美佐子が笑顔で答える。

「遠いところありがとうございます。」

一朗も頭を下げる。

男性スタッフは少し周囲を見まわし、声をひそめた。

「実は……今回の撮影、くれぐれも 内緒 にしていただきたくて。」

美佐子と一朗は目を合わせ、真白は首をかしげる。

「内緒……?」

一朗が聞き返す。

女性スタッフが、はっきりした口調で言う。

「はい。実は今回撮影するモデルは“とても有名な方”なんです。情報が漏れると、ファンやマスコミがここまで押し寄せてきてしまう可能性があります。」

真白は「マスコミ」という言葉に目を瞬かせる。

美佐子は、少し真剣な表情で頷いた。

「だから、撮影のことや、モデルさんの滞在については絶対に口外しないでいただきたいんです。」

男性スタッフは深く頭を下げた。

「もちろん、お客様同士の会話でもです。ご協力いただけませんか?」

一朗はすぐに答える。

「わかりました。ここは山奥ですし、外へ言うことはありません。」

真白も胸に手を当てる。

「約束します。言いません。」

美佐子は優しく微笑んだ。

「うちは小さなロッジだけど、信用は大事にしています。どうか安心してください。」

スタッフは二人とも、ほっとしたように息をついた。

「ありがとうございます。本当に心強いです。」

男性スタッフは続ける。

「モデル本人は、あと1時間ほどで到着します。その前に、撮影場所の候補をいくつか見せてほしいんです。」

真白がぱっと手を挙げる。

「案内できます。素敵な場所、いっぱい知っています。」

スタッフは驚いたように目を丸くしたあと、柔らかく笑った。

「それは心強い。よろしくお願いします。」

――そのとき。

外の風がドアを鳴らし、ロッジの中の空気がふわりと揺れた。

これから訪れる「特別な出会い」を、まるで山そのものが予感しているように。
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