「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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第33話 抱かれた後の余韻

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静かな夜が、ようやく訪れていた。

暖炉の火が、ぱち…ぱち…と小さく音を立てて揺れている。

ベッドの上で、新しい形の彼女――ミキと真白の意識を宿したその姿が、ゆっくりと息を整えていた。

頬にはまだ、淡い紅が残っている。

真白がそっと微笑んだ。

「……そろそろ、ミキさんと交代しなきゃ。」

声は優しく、どこか名残惜しさを含んでいた。

一朗は、その言葉を受け止めるように頷き、そっと彼女の髪を撫でた。

「……ああ。次は、真白の姿で会おう。」

真白は嬉しそうに目を細めて微笑む。

「うん。約束ね、一朗。」

その笑顔は、雪明かりよりも柔らかく、静かに一朗の胸の奥を温めた。

一朗はそっと立ち上がり、ドアの前で振り返る。

「じゃあ、また明日。」

小さな声でそう告げると、ゆっくりと扉を閉めて出ていった。

残された部屋に、再び静寂が戻る。

しばらくのあいだ、真白は一朗の背中が消えた扉を見つめていた。

やがて――彼女は深く息を吸い込み、心の中で小さくつぶやく。

「ミキさん……ありがとう。交代するね。」

その瞬間、肌の下をやさしい光が流れ、輪郭が揺らめいた。

ミキの意識が静かに戻ってくる。

同時に、真白の存在は穏やかに沈み、内側へと溶けていった。

ミキは目を開ける。

唇の端に、自然と微笑みが浮かぶ。

「……ふぅ。」

ひとつ深く息を吐き、天井を見上げる。

「……ねえ、真白ちゃん。そろそろ、元に戻ろっか。」

心の奥にやわらかな返事が届く。

「うん……ミキさん。」

次の瞬間、光がふわりと広がり、彼女の輪郭が二つに分かれていく。

まるで一枚の花弁が静かに開くように――

ミキと真白、それぞれの姿が現れた。

白い肌をした真白は、目を伏せ、どこか申し訳なさそうに手を胸に当てた。

「……ミキさん、ごめんなさい。」

ミキは柔らかく首をかしげる。

「どうしたの?」

真白は小さな声で続けた。

「……エッチな気分になってそのまま一朗に……」



その言葉は、震えるように静かで、正直な響きを持っていた。

一瞬、ミキは目を見開いた。

だがすぐに、その瞳に優しい光が宿る。

「……。」

しばし沈黙が流れたあと、ミキはそっと真白の手を取った。

「謝らなくていいのよ。」

真白は驚いたように顔を上げる。

ミキは穏やかに微笑み、言葉を続けた。

「真白ちゃんの気持ちは本物だった。それに、一朗さんもきっと――同じ気持ちだったと思う。」

真白の目に、涙が滲む。

「……ミキさん、怒ってないの?」

ミキは小さく首を振った。

「怒るわけないじゃない。だって……あなたが幸せそうだったもの。」

真白はたまらず、ミキに抱きついた。

「ありがとう……ミキさん。」

ミキは、真白の細い背中にそっと手を回し、温もりを確かめるように抱きしめていた。

しばらくそのまま寄り添っていると、ふっと小さく笑みをこぼす。

「……ううん。ありがとうを言うのは私の方よ、真白ちゃん。」

その声は、やさしくもどこか照れた響きを帯びていた。

そして少し間を置いて、いたずらっぽく目を細める。

「だって――私だって、大好きな人に抱かれたんだから。ふふっ。」

「えっ⁉」

真白は驚いて顔を上げ、目をまん丸にしてミキを見つめる。

「ミ、ミキさんっ! それって、まさか……!」

ミキは唇を指先で押さえて、わざとらしくウインクした。

「さあ、どうかしら?」

「もぉ~っ! あーっ! ミキさん!」

真白は頬をぷくっと膨らませて、抗議するように腕を交差させる。

「一朗は、私のだからねっ!」



ミキは肩をすくめて笑う。

「えー? どうしよっかなあ。譲ってもらおうかなぁ?」

「だーめっ!」

真白は今度は両手を腰に当てて、必死に睨もうとするが――

その表情は怒りというより、子どものような膨れ顔だった。

二人の視線がぶつかる。

ほんの数秒、真剣な顔をして見つめ合い――

ぷっ。

最初に吹き出したのはミキだった。

「く、くふっ……あははは!」



それにつられて、真白もたまらず笑い出す。

「もぉ、ミキさんのせいでしょ! あはははは!」

「だって真白ちゃんの顔が……ぷっ、かわいすぎるんだもん!」

「もーっ! やだぁ! あはは!」

笑い声が部屋いっぱいに響き、暖炉の火がゆらゆらと二人の影を包み込む。

雪の夜の静けさの中で、その笑い声はまるで小さな鈴の音のように、温かく転がっていった。
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