「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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第32話 初めての経験

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撮影が終わると、部屋の中は一瞬、無音になった。

シャッター音も、雪の落ちる気配も、すべてが遠のくように。

ミキ――いや、“二人の彼女”は、ゆっくりと息を吐いた。

その吐息が、ラバーの光沢の上に白く曇って、すぐに溶けて消える。

ふと、胸の奥に、柔らかい声が響いた。

〈ミキさん……わたし、一朗と話したい〉

その声は、耳ではなく、心の内側で響く。

真白の声。

彼女は、ミキの中で静かに息づいていた。

ミキは目を閉じ、小さくうなずいた。

 「……真白ちゃん?」

 〈うん……少しだけでいいの。だめかな?〉

ミキはそっと手を胸に当てる。

心臓の鼓動が、二人分、重なって聞こえた。

 「この姿のままで、交代できる?」

 〈できると思う。……でも、いいの?〉

ミキは、鏡の向こうに映る自分を見つめて、柔らかく笑った。

 「いいよ。真白ちゃんが話したいなら。だって、この身体は今、私たちふたりのものでしょ?」

その瞬間、光の粒が彼女の瞳の奥で揺れた。

まるで真白の心が、そこに微笑んだかのように。

 〈ありがとう、ミキさん〉

その声は、雪のようにやさしく消えた。

ミキの肩がわずかに震え、瞳の奥に宿る光が、静かに色を変えていく。

ミキの意識が一歩引き、代わりに――真白の存在が前に出る。

その全てが言葉ではなく、感覚として、なめらかに入れ替わっていった。

部屋の空気が一瞬、静まり返る。

ラバーの光沢と白い光が混ざったその姿――ミキの身体の中から、真白の存在がふわりと前に出た。

 「一朗!」

真白の声は、直接響くようにして伝わる。

 「ミキさんと交代したよ!」

一朗は目を大きく見開き、思わず後ろにのけぞる。

 「え、えっ……ホントに……真白か?」

真白はにっこり笑って、迷わず一朗に駆け寄る。

そのままそっと抱きつき、ぎゅーっと強く腕を回した。



 「ほら、私でしょ?」

一朗の頬が一気に赤く染まる。

抱きしめられた温もりが、昼間の撮影のときとはまったく違う感覚として胸に押し寄せる。

 「う、うん……真白……だよな?」

真白は顔を上げ、優しく微笑む。

 「うん、だから安心して。ミキさんと交代したの。」

ぎゅーっと腕を強く回したまま、真白は一朗の反応を確かめるように、ほんの少しだけ体をすり寄せる。

一朗は戸惑いながらも、真白の存在を確かに感じ取り、目を細めてその温もりに包まれた。

静かで、でも確かな時間。二人の間に言葉はいらなかった。

真白は、一朗にぎゅーっと抱きついたまま、少し顔を上げてじっと目を見つめた。

瞳は輝き、少し恥ずかしそうで、でも意志はしっかりと伝わってくる。

 「一朗……キスしよう!」

一朗は一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。

胸の奥がざわつき、心臓の鼓動が早まる。

でも、その視線と温もりに包まれ、自然と口元に微笑みが浮かぶ。

 「……わかった、真白」

真白はにっこり笑いながら、もう一度ぎゅーっと体を寄せる。

 「ぎゅーのその先、勉強したの!」

一朗は、頬をほんのり赤くしながら、ゆっくりと顔を近づける。

そして、優しく唇を重ねた。



初めてのキスは、ぎこちなくも温かく、二人の間に静かで確かな幸福感を生み出す。

真白の小さな手が一朗の背中に回り、互いの存在を確かめ合うようにぎゅっと抱きしめる。

唇が離れた後も、二人の顔はまだ互いに近く、目の奥に安心と喜びが光っていた。

キスの余韻に包まれた部屋の中、真白はまだ一朗の胸に抱かれたまま、少し顔を赤らめている。

そのとき、柔らかく、でも確かな声が真白の胸に届いた。

 「真白ちゃん……私の身体、貸してあげる。思うようにしていいんだよ」

声の主はミキ。意識は少し引き、でも心は隣でそっと支えている。

真白は一瞬、驚く。

でもその言葉の温かさに、胸の奥からほっとした安堵が湧き上がる。
 〈ありがとう、ミキさん〉

真白の心が静かに、でも確かに応える。

思いを言葉にせずとも、体の中で響き合う。

ラバーの肌を通して伝わる温もりや鼓動に、真白はミキの優しさを感じる。

ミキは微笑みながら、静かに真白を包むように意識を置く。
 〈怖がらなくていいよ。私がいるから〉

真白は目を閉じて、深く息を吸う。

心の中で、ミキの存在と一緒にいることを楽しみ、安心して一朗に向き合える勇気を得る。

二人の意識は重なり合い、でもそれぞれが独立して感じる――

不思議な一体感。温かさ。信頼。

ラバーの肌越しに感じる温もりと鼓動。真白は目を閉じて、一朗の胸にそっと顔をうずめる。

呼吸のリズムが互いに重なり、二人の間に静かで濃密な時間が流れる。
 〈怖がらなくていい……〉

ミキの意識がそっと支えながら、真白の感覚を柔らかく包み込む。

真白は小さく息を吐き、一朗の手を取り、自分の肩に優しく置かせる。

指先から伝わる感触に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。

 「……一朗、私、ぎゅーのその先、もっと近くで感じたい」

真白の心が直接伝わるように、一朗の胸に体を押し付ける。

一朗は一瞬戸惑うが、すぐに微笑んで両手で真白を抱き返す。

 「わかった、真白……大丈夫だよ」

真白はさらにそっと手を伸ばし、一朗の首筋に触れる。

指先が触れるだけで、互いの呼吸が重なり、心の奥まで伝わる。

胸の中に温かさが広がり、思わず小さく顔を寄せる。

真白は体を少しずつ前に滑らせ、ラバー越しに一朗の腕に身を委ねる。

その感触にドキドキしながらも、安心感が心を満たしていく。

ミキの意識が支える中で、真白は初めて、自分の想いを身体で表現できる瞬間を味わう。

 「……一朗…私を抱いて……」



真白の声が一朗に伝わる。

一朗はその言葉を抱きしめるように、ぎゅっと真白を抱き返す。

部屋の静寂の中、二人は言葉を超えて、互いの存在を確かめ合う――

それは、互いの心と体が完全に通じ合う、二人の初めての経験だった。

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