「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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第31話 新しい形の記録

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ミキは、湯呑みを置くと、何気ない風を装って一朗の方を見た。

「ねぇ、一朗さん。さっきの写真撮影、22時に、私の部屋に来てもらえる?」

一朗は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに真面目な顔で頷いた。

「……わかりました。素人だけど頑張ります!」

そのやり取りのあと、ミキは立ち上がり、スタッフたちに声をかける。

「そろそろ写真撮影、再開しましょう! 光がまだあるうちに雪のシーンを押さえたいの。」

明るい声にスタッフたちが慌ただしく動き出す。

一朗も再び案内役として立ち上がり、ミキたちを連れてロッジを出ていった。

外では、昼間よりも雪が細かく舞い、空気は澄んでいる。

残された真白は、少しだけ寂しそうに彼らを見送った。

けれどすぐに、胸の奥がほんのり弾む。
(夜の変身……楽しみだな)

あの、包み込むような光と温かさ。ミキと心が一つになった不思議な感覚――。

思い出すだけで頬が熱くなる。

厨房から美佐子の声が聞こえ、真白はハッとして仕事に戻る。

皿を拭きながらも、胸の奥では小さな期待の灯がずっと揺れていた。

そして、手が少し空いた休憩の合間。

真白はふと思い出したように、カウンターの隅に置いていたタブレットを開いた。

検索欄に、ためらいがちに指を置く。

(“大好きな人に抱かれる”って……その続きは?)

画面の中で、無数の言葉が瞬く間に並んでいく。

そこには知らない世界が広がっていた。

“キス”“愛し合う”“つながる”――そんな言葉が淡く光を放ちながら真白の目に映る。

胸の奥が、なぜか少し熱くなった。

頬に触れる指先が、じんわりと冷たく感じる。
(……そっか。ぎゅってするだけじゃ、気持ちは伝えきれないんだ……)

真白はゆっくりとタブレットを閉じた。

その表情には、恥ずかしさと、ほんの少しの大人びた影が混ざっていた。

ーーーーー

夜。

静まり返ったロッジの廊下を、ランプの灯りがぼんやりと照らしていた。

外では風が雪を運び、窓にそっと当たる音だけが響いている。

ミキの部屋では、柔らかな照明の中、真白とミキが向かい合っていた。

ミキは深呼吸をひとつして、優しく言った。

 「……じゃあ、やるよ。昨日みたいに――また、あの姿に」

真白は頷いた。

 「うん。今度は、もっときれいにできると思う」

ミキは微笑みながら、両手を胸の前で組んだ。

 「真白ちゃんに包まれてるとね、不思議と怖くないの。あの時もそうだった。あたたかくて、光に包まれてるみたいで」

ミキはそっと目を閉じ、両手を差し出した。

蛇の姿になった真白から淡い白い光がこぼれはじめる。

光がふわりと広がり、やがてミキの肩に、髪に、頬に触れた。

そのたびにミキの表情が少しずつ変わっていく――そして、ゆっくりと新しい姿に変わる。





 「……きれい。ほんとに、夢みたい」

 (ミキさんなんだか興奮してるね。)

胸の乳房から真白の声が伝わる。

「ふふっ。ひとつになったら嘘はつけないよね。じゃあ、ラバー合わせるよ。」

ミキは、衣装カバンからハイレグタイプのラバーレオタードを取り出す。

(うぁわ~。すごいね。生地が少ないね。)

真白は初めてみるラバーレオタードに驚く。

「ふふっ。さすがにこれは雪山では無理よね。でも持ってきてよかった。」

そう言ってミキはレオタードを着て、ラバーのロングブーツ、ロングラバーグローブを新しい姿に合わせる。

鏡に映った姿にミキは興奮して、真白にもその感情が伝染する。



「ああぁ。真白ちゃんも興奮してる?」

(うん。なんだか身体と胸の中が熱くなってる…)

「そろそろ一朗さんが来るよ。」

(なんだかすぐに「ぎゅ~」したい気分になってる…)

ミキは真白に甘い言葉で囁きます。

「ふふっ。真白ちゃんそれはね…エッチな気分ってやつだよ。」

(さっきタブレットで勉強したの…ぎゅ~のその先を…)

その時、ドアからノックする音が聞こえる。コンコン。

「一朗さん。入っていいよ。」

ミキは高揚感に溢れながら一朗に伝える。

一朗がドアを開けて部屋に入ってくる。

「!!!!!」

一朗は、部屋の中に広がる不思議な光景に息をのんだ。

そこに立っていたのは――ミキの面影を宿しながらも、どこか真白の蛇の女性だった気配をまとった存在。

肌はベビのようで、瞳の奥にはミキの意志と真白の優しさが同時に宿っていた。

 「……ミキさん? 真白?」

一朗の声は、驚きと戸惑いの中で震えていた。

新しい姿の彼女は、ふっと微笑んだ。

その笑顔はミキのように強く、真白のように柔らかい。

 「両方だよ。一朗さん。」

澄んだ声が響く。

 「これが――“私たち”なの。」

一朗は言葉を失い、ただ見つめた。

目の前の存在は、美しさというよりも“調和”そのもののようだった。

ミキと真白、蛇と人――すべてが一つに溶け合っている。

 「どう? この姿。」

彼女は一歩、近づいた。

一朗は顔を真っ赤にして、しどろもどろに言葉を探す。

 「……なんていうか……すごく、きれいだよ。」

その瞬間、部屋の空気がほんのりと温かくなる。

まるで真白とミキ、ふたりの心が同時に微笑んだかのようだった。

「一朗さん。今話しているのはミキだよ。話し方でわかるよね?」

「うん。確かにミキさんだね。じゃあ真白はどこにいるの?」

ミキは胸を優しく触りながら一朗に伝える。

「私のおっぱいの中で小さくなっているの。でもちゃんと話は聞いてるよ。」

(一朗!おーい!)

その声は一朗には届かない。代わりにミキが伝えます。

「一朗!おーい!だって。」

クスッとミキが笑う。

「じゃあ、早速だけど明日には帰るから、記念写真撮ってもらおうか!私のスマホで撮ってね。」

そう言って一朗に渡す。

「もちろん!」

部屋の灯りは落とされ、窓の外から雪明かりだけが静かに差し込んでいた。

白と銀の光が、床に柔らかな模様を描く。

その光の中で――新しい姿の彼女が、静かに立っていた。

ミキの強さと真白の透明さが一つになったその存在は、人というよりも、まるで光そのものが形を得たようだった。

一朗は息をのむ。

スマホを握る手が、わずかに震えている。

 「……すごい。言葉にならないな」

シャッターの音が、静かな部屋に小さく響いた。

 “カシャッ”。



そのたびに、雪の粒が舞い上がるように、光がきらめく。

彼女は微笑んだ。

 「緊張してる?」

 「そ、そりゃあね。こんなの、誰だって息止まるよ」

その声に、どこかミキの茶目っ気と真白の優しさが重なって聞こえる。

一朗はファインダー越しに見つめながら、自分の胸の奥で何か温かいものが膨らんでいくのを感じた。

 「もう少し右を向いてみようか」

 「こう?」

 「うん、そのまま……いい」

彼女がゆっくりと振り向くたび、ラバーの衣装に反射する光が、雪のように滑らかに流れていった。

それは冷たい質感なのに、不思議と柔らかく、温かい気配をまとっていた。

シャッター音がまたひとつ。

まるで時間が止まったような一瞬。

一朗は、画面に映るその姿を見つめて小さく息を吐いた。

 「……本当に、夢みたいだ」

彼女は、少しだけ微笑んで言った。

 「夢でもいい。今は、撮ってほしいの。あなたの目に、ちゃんと残して」

カシャ――。

その音が、まるで雪の夜に響く祈りのように静かに溶けていった。





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