【完結】離婚しましょうね。だって貴方は貴族ですから

すだもみぢ

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第十八話 王命

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「そうだな。結婚自体がなくなったのだから、婚姻時の保有財産はそれぞれに戻されるべきだな」

 トーマスの話を聞いて、王が厳かに頷く。王の後ろに控えている文官、そして官吏は何も言わない。
 王の言葉を聞いて、トーマスが『勝った』とほくそ笑むが、後ろでローデリアが、おずおずと手を挙げていた。

「申し訳ありません。私、お話に全然ついていけなくて……。私と旦那様は結婚自体が成立してないということになるんですよね。……そうなると、私の離婚の話はどうなるのでしょう」
「だから、結婚していないと……」

 官吏が優しく解説をしようとしたが、ローデリアはふるふる、と子供のように頭を振る。

「いえ、そうではないのです。旦那様はローズマリー様という方との間にお子様をもうけてまして。その方が伯爵夫人となるために、私は旦那様と離婚しようと思っておりましたから。ローズマリー様と、そのお子様はどうなりますの?」

 その場に新しい情報が出てきたことに、場の空気が固まった。

「あ、あれは違う、あれは嘘だったとお前もわかっているだろう!」

 トーマスが慌てて何を言い出すんだ、と妻を叱ろうとしたが、ローデリアはきょとんとしている。

「え? 嘘? どこまでが嘘だったんですの? そんなことを旦那様もローズマリー様もおっしゃってませんよ? 私、今の今まで本当のことだと思ってましたし。ローズマリー様に当家への支度金も含めてお渡ししてましたもの。ちゃんと帳簿にもそのように書いてましたし。忘れちゃうので、あの時、その場で書きましたし。もし聞いていたら修正してますよ」

 その時初めて、トーマスはあの時の嘘を否定していなかったことを思い出した。
 だからあの時、ローデリアは小切手だけでなく帳簿まで執事に持って越させていたのか。帳簿に支出の使用目的を書き込むために。
 ローデリアがローズマリーに多めの額を支払っていたというのは聞いていたが、夫の迷惑料も含めての肩代わりしているのだと思っていたのだ。
 陛下が冷ややかな目でこちらを向く。

「伯爵は愛人とグルになって妻から金を巻き上げる詐欺を働いておったのか? 確かに、領主としての仕事を妻に任せているというのなら、そなたの手元に金がなくなり、まとまった金を用意するのにそのような狂言を弄しても納得はできるがな」
「違います、これはその、手違いで……。それに、私は金に困っているわけではありません!」

 どんどんと立場が悪くなる。夫が陛下の不興をこうむったらしいと感じたローデリアも慌ててとりなすようにトーマスをかばおうとした。

「陛下、これは私の勘違いだったようですので、旦那様をそうお責めにならないでくださいまし。旦那様が娼館にしていた借金を私が代わりに支払っただけの話ですから」

 愛人はともかく、その愛人が娼婦だったということまで意図せずにばらしてしまう。これで家の面倒ごとは全て妻に押し付け、愛人を作り娼館遊びまでしていた相当の放蕩旦那というイメージが図らずも国王の頭に入ってしまったようだった。

「……そなたらは随分と変わった夫婦関係のようだな……それならその状況も含めて整理しよう。ヴェノヴァ伯爵は婚姻後、一度も妻に触れずにその間、愛人のいる娼館に通っていた。ここよりヴェノヴァ伯爵家の婚姻は不成立。結婚してからの二年、伯爵夫人が領主運営を伯爵に代わり担っていたのは事実なのだな? それならば二年分の彼女の働きへの正当な対価として、ヴェノヴァ伯爵領における奥方の財産の名義は返還も変更もせず、そのまま据え置きが妥当とみなす」
「そんなバカな! 納得いきません陛下!」

 声をあげたトーマスに、静粛に、の声が飛んだ。

「そして、奥方に全権を与えているのなら、トーマス=ヴェノヴァは伯爵の地位が不要ということでよいかな? よってヴェノヴァ伯爵の爵位を剥奪する。元々爵位は王が与えるものであって、世襲しなければならないわけではない。テロドア侯爵がヴェノヴァ伯爵として息子を推挙したからそれを儂が認可したまでのこと。そのヴェノヴァ伯爵が自身より奥方の能力を高く買っていて領地を運営させているのなら、伯爵は存在自体が不要となるからな」

 ぐうの音も出ないくらいの正論である。
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