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第十七話 辻褄合わせ
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大きく扉が開かれた。
中に国王陛下が入ってきて室内の全員が頭を下げる。悠々と中を歩いて、まっすぐに奥に据えられた豪奢な椅子に座る男が国王だろう。こんなに近くでお目にかかるのは初めてだが、なるほど、一般に出回っている絵姿に似ている。
頭を上げるように促され、官吏が持っていた紙の内容を読み上げた。
「火急の召喚に対して協力いただいたことに感謝する。陛下の方にヴェノヴァ伯爵領に関わる奏上がいくつもあった。尋ねたいことがいくつかあるので、嘘偽りなく真実のみを率直に申し上げるように。陛下に対しても直言を許される。まず、ヴェノヴァ伯爵に対しての質問をする」
「……な、なんなりと」
陛下の御前に一歩出て、官吏からの質問に身構えた。
「まず1つめ。ヴェノヴァ伯爵はローデリア嬢と白い結婚であったとは本当であろうか」
なぜこんなことを聞かれているのだろうか。トーマスの頭が打算に動き、その目的を把握しようとする。
それはおそらく、自分がローデリアとの離婚を目的にして行動していたのではないか、という疑惑が問題になっているのだろう。
となれば、それを否定するために自分はどう動けば、その疑惑を晴らすことができるだろうか。
トーマスの頭にこの事態の逆転の可能性が閃いた。これはもしかしたらチャンスではないだろうか、と。
これが裁判だったとしたら、証拠を積み上げられて自分の様々な過去を元に、決定的に不利な結論を言い渡されるかもしれない。
しかしここにはローデリアを味方する使用人たちもいない。自分よりローデリアを推す会社の社員も、事業の相手もいない。
陛下の心証1つでいくらでも自分に有利なように状況を作れるのだ。
白い結婚……それは結婚をしていても夫婦生活がなかったということを意味する。ちゃんと初夜は一緒のベッドで寝たしすることはしていたのだが、説得力のある事実を積み上げるために、あえてヴェノヴァ伯爵はその質問を肯定した。
「まだ年若く、体が未成熟なローデリアに私の相手を務めさせるのは苦痛かと思い、手を出すのは控えておりました。これは私なりの妻への愛です」
「となると、白い結婚であったのだな?」
その言葉に答えようとするより先に。
「あら、私たちって白い結婚でしたの?」
呑気なローデリアの声がする。余計な私語をしてはいけない緊迫した室内に、彼女のマイペースな声が響き渡った。
静粛に、と小声で注意され困ったように、ごめんなさい、と唇の動きだけで謝るローデリア。
ローデリアの方も、首を傾げて考えていた。
自分たちは婚約式をし、結婚式をし、初夜もつつがなく済ませていたと思っていたが。
となると、他の家では何を結婚と呼んでいるのだろう。
恥ずかしい話、他と比べたわけでもないのだからわからない。
後ろで静かにしているローデリアの様子を空気だけでうかがいながらも、トーマスは言おうとしていた言葉を続ける。
「そうです。しかし、それは私が離婚を目的としているわけではなく、彼女の躰をおもんぱかる上に結果的に起こったことでございます。離婚の噂が流れてしまったのも、私の希望とはまるっきり違い、二年経っても子供ができないことを心配した我が父テロドア侯爵の勇み足からでございました」
それから自分がいない間にした父と妻の話を後から聞いて驚いたという話をする。
それまで黙ってきいていた陛下が口を開く。
「なるほど。そういえば、ヴェノヴァ伯爵領は、伯爵ではなく夫人が領地を運営しているという話を聞いたのだが、それについても詳しく話を聞きたい」
トーマスはそれを聞き、自信たっぷりに妻を振り返り、見つめる。
「彼女には領地の運営の才能がありましたので、私の方が補助に回りました。私は妻を誇りに思っております」
「ほう、となると、当主の代理権を与えたと」
「その方が妻が腕を振るえますから。妻が私を愛してくれているのを信じるからこそできることです。それに私が妻を愛し、信じていた証ともいえるでしょう」
「ふむ……」
陛下が顎を撫でて考え込む仕草をする。
「もし、私がローデリアに過度な期待をかけ、それをローデリアが悩んでいたというのなら、そしてそれを私が気づかずにいたのなら、それは私に監督不行き届きゆえです。そのためこの結婚は無効にされても構いません。私はあくまでも貴族として、そして彼女の夫として行動していましたが……」
トーマスは悲し気に頭を振った。
「訴求離婚のため結婚自体が白紙になったとしたら、その間に当家からローデリアのものとなった財産の返還を要求するしかありません。私としては彼女と離れるのはとても残念でならないのですが……彼女のためですからしかたありません」
これなら、最低限の自分が保持していた財産は確保できる。そして、ローデリアが自分の財産を使って増えた分は、このような醜聞を起こし、王宮までをも巻き込んで騒がせたとして、ローデリアに改めて慰謝料を請求することにしよう。
中に国王陛下が入ってきて室内の全員が頭を下げる。悠々と中を歩いて、まっすぐに奥に据えられた豪奢な椅子に座る男が国王だろう。こんなに近くでお目にかかるのは初めてだが、なるほど、一般に出回っている絵姿に似ている。
頭を上げるように促され、官吏が持っていた紙の内容を読み上げた。
「火急の召喚に対して協力いただいたことに感謝する。陛下の方にヴェノヴァ伯爵領に関わる奏上がいくつもあった。尋ねたいことがいくつかあるので、嘘偽りなく真実のみを率直に申し上げるように。陛下に対しても直言を許される。まず、ヴェノヴァ伯爵に対しての質問をする」
「……な、なんなりと」
陛下の御前に一歩出て、官吏からの質問に身構えた。
「まず1つめ。ヴェノヴァ伯爵はローデリア嬢と白い結婚であったとは本当であろうか」
なぜこんなことを聞かれているのだろうか。トーマスの頭が打算に動き、その目的を把握しようとする。
それはおそらく、自分がローデリアとの離婚を目的にして行動していたのではないか、という疑惑が問題になっているのだろう。
となれば、それを否定するために自分はどう動けば、その疑惑を晴らすことができるだろうか。
トーマスの頭にこの事態の逆転の可能性が閃いた。これはもしかしたらチャンスではないだろうか、と。
これが裁判だったとしたら、証拠を積み上げられて自分の様々な過去を元に、決定的に不利な結論を言い渡されるかもしれない。
しかしここにはローデリアを味方する使用人たちもいない。自分よりローデリアを推す会社の社員も、事業の相手もいない。
陛下の心証1つでいくらでも自分に有利なように状況を作れるのだ。
白い結婚……それは結婚をしていても夫婦生活がなかったということを意味する。ちゃんと初夜は一緒のベッドで寝たしすることはしていたのだが、説得力のある事実を積み上げるために、あえてヴェノヴァ伯爵はその質問を肯定した。
「まだ年若く、体が未成熟なローデリアに私の相手を務めさせるのは苦痛かと思い、手を出すのは控えておりました。これは私なりの妻への愛です」
「となると、白い結婚であったのだな?」
その言葉に答えようとするより先に。
「あら、私たちって白い結婚でしたの?」
呑気なローデリアの声がする。余計な私語をしてはいけない緊迫した室内に、彼女のマイペースな声が響き渡った。
静粛に、と小声で注意され困ったように、ごめんなさい、と唇の動きだけで謝るローデリア。
ローデリアの方も、首を傾げて考えていた。
自分たちは婚約式をし、結婚式をし、初夜もつつがなく済ませていたと思っていたが。
となると、他の家では何を結婚と呼んでいるのだろう。
恥ずかしい話、他と比べたわけでもないのだからわからない。
後ろで静かにしているローデリアの様子を空気だけでうかがいながらも、トーマスは言おうとしていた言葉を続ける。
「そうです。しかし、それは私が離婚を目的としているわけではなく、彼女の躰をおもんぱかる上に結果的に起こったことでございます。離婚の噂が流れてしまったのも、私の希望とはまるっきり違い、二年経っても子供ができないことを心配した我が父テロドア侯爵の勇み足からでございました」
それから自分がいない間にした父と妻の話を後から聞いて驚いたという話をする。
それまで黙ってきいていた陛下が口を開く。
「なるほど。そういえば、ヴェノヴァ伯爵領は、伯爵ではなく夫人が領地を運営しているという話を聞いたのだが、それについても詳しく話を聞きたい」
トーマスはそれを聞き、自信たっぷりに妻を振り返り、見つめる。
「彼女には領地の運営の才能がありましたので、私の方が補助に回りました。私は妻を誇りに思っております」
「ほう、となると、当主の代理権を与えたと」
「その方が妻が腕を振るえますから。妻が私を愛してくれているのを信じるからこそできることです。それに私が妻を愛し、信じていた証ともいえるでしょう」
「ふむ……」
陛下が顎を撫でて考え込む仕草をする。
「もし、私がローデリアに過度な期待をかけ、それをローデリアが悩んでいたというのなら、そしてそれを私が気づかずにいたのなら、それは私に監督不行き届きゆえです。そのためこの結婚は無効にされても構いません。私はあくまでも貴族として、そして彼女の夫として行動していましたが……」
トーマスは悲し気に頭を振った。
「訴求離婚のため結婚自体が白紙になったとしたら、その間に当家からローデリアのものとなった財産の返還を要求するしかありません。私としては彼女と離れるのはとても残念でならないのですが……彼女のためですからしかたありません」
これなら、最低限の自分が保持していた財産は確保できる。そして、ローデリアが自分の財産を使って増えた分は、このような醜聞を起こし、王宮までをも巻き込んで騒がせたとして、ローデリアに改めて慰謝料を請求することにしよう。
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